閑話:狂気の剣
グランフィストへの大規模攻勢。
それは冒険者ギルドの行動から半ば予想されていた事だが、実際に起きたそれに対処できるかどうかと言う話とは、全くの別問題だ。
攻められているのが門1つとはいえ、他に手を回さねばならない状況が予想されるため、全戦力を投入するには至らない。
時間がかかろうと、被害が出ないギリギリまで戦力は削られていた。
「やはり、こちらに来たか」
「予想されていたのだな。まったく、手厚い歓迎に涙が出そうだ」
そして、領主の館の前。
そこで相川とジョンが対峙している。
互いに剣を手に取り、軽めの革鎧を装備している。
2人は共に近接戦闘ジョブの特化型である。ジョブは単体火力重視型であり、装備はそれを活かす速さを突き詰めている。
戦闘スタイルは似通っていた。
だからレベルが互角である以上、二人が戦うならあとは運とレベル以外の要素が勝負を決める。
軽く言葉を交わした二人は、それ以上の会話は無意味と剣を取る手に力を入れる。
二人の間には10m以上の距離があったが、それが一瞬でゼロになり、剣と剣がぶつかり合う鋼の音がした。
先に仕掛けたのはジョン。相川はジョンの一撃に剣を合わせて何とか防ぎ切り、すぐに距離を取った。
互いの位置を交換し合うように二人が動き、足を止めることなく金属のぶつかる音が鳴り響く。
剣の腕は互角かと思われたが、ジョンの方がほんの僅かに強かった。相川は防戦一方であり、手も足も出ないようであった。
二人の明暗を分けたのは『戦闘の経験値』である。
冒険者ギルドで同格の相手と戦う機会に恵まれたジョンに対し、戦争後は放浪を続け雑魚の相手しかしていなかった相川。
レベルに表れない剣の腕に差ができるのは当然だった。
しかし、剣の腕を持ってしても覆せない事もある。
「≪ソードブレイク≫」
「馬鹿な!? その剣は!!」
相川が武器固有のスキルを使うと、ジョンの持つ剣が断ち切られた。
相川の持つ剣はただの剣ではなかった。戦争後、放浪のさなかに手に入れた魔剣である。回収され、王国の宝物庫に仕舞われていたはずのそれは今、相川の手にあった。
回収され、ここに無いはずの武器を使われてジョンは動揺する。実物を見たことは無かったが、能力ぐらいは聞いたことのある魔剣だったからだ。
ジョンは慌てて予備の剣を手にするが、動揺したために一瞬だが隙ができてしまい、相川の強烈な一撃を受けてしまう。
一度大ダメージを喰らってしまえば立て直すのは難しい。
ジョンの周囲には仲間がいたけれど、そちらにも竜牙兵がいた為に何もできない。
二人の命運を分けたのは剣の腕ではなく『剣』そのもの。
領主を守る最強の剣は折られ、魔手はグランフィストを落とそうとしていた。




