狂気の軍⑥
敵は軍団の名を冠してはいても、所詮は1体だけである。
多少レベルが高くHPが多かろうと、手数の多さの前には無力である。俺とかヤタは参加できないが、≪共鳴魔法≫の聖属性攻撃魔法まで放たれればあっという間にネクロレギオンは消滅する。
楽な戦いだった、そう言いたかったが、俺は、俺達は臨戦態勢のまま周囲を警戒する。
そしてその警戒は、無駄ではなかった。
「『ネクロレギオン』、追加です!!」
「こっちも! 一体? いや、三体出現しました!!」
ゴキブリは一匹見かけたら~~と言うが、この状況下で同じ事が無いなどと誰も言わない。
予期された状況だけに、不意を打たれる事も無く、次の戦いに移る。
「伝令を! 街に俺たちの状況を伝えろ! 援軍が必要だ!!
街の方にいる奴の撃破を優先! 囲ませるな、道を作れ!!」
拙いながらも、俺は指揮官としてみんなに指示を出す。
パーティ規模での指揮官はやっていたけど、1000人近い人間がいる状況では命令を出すにも一苦労である。ミレニアの妖精に頼み、≪ウィンドボイス≫という周囲に声を届ける魔法を使ってもらうが、ちゃんと伝わっただろうか?
こんな事なら伝令用に一部隊50人ぐらいを集めておくんだった。
俺達は冒険者であって軍人ではないのだ。ダンジョン探索のようにパーティ単位で自由に動いてもらえればいいと考えていたので、軍のように命令系統としっかり作ってはいなかったのだ。
最初は上手くいっていたし、途中で敵の増援が来ることも考慮していたけど、こんなふうに囲まれるとは考えていなかったのだ。
戦場の天秤は連携の拙さから徐々に敵方に傾き、俺達が押されていく。
敵は無尽蔵とも思える数と言うか、倒しても倒しても追加が来るためキリが無いのだ。恐らく倒した奴が復活している。
倒す前にスキル封印系のアイテムを使っているが、どれだけ効果があるかは疑問である。
ただ、それでも徐々に街の方に近づいているし、援軍要請はしたのでもうしばらく持てば状況は改善する、きっと勝てると信じて戦う。
いざって時のために逃亡用のMPは温存しているが、思わず召喚に頼りたくなる場面が増えていく。
そして、状況は改善するどころか悪化するほうに針が振れる。
「おい……街の方でも戦闘をしているぞ!」
「援軍が来ないと思ったら、そういう事かよ!」
俺達が戦いながらもグランフィストの方に移動し続け、ようやく外壁が見えてきたと思うと、その外壁の下で戦闘の砂煙が見えた。
目の良い弓兵系のジョブ持ちがそちらを確認すると、『死霊術士』系か『人形遣い』系ジョブが使う『竜牙兵』というモンスターが多数、グランフィストを襲っていた。その数は100を超え、けして楽な戦いではない様子が見て取れた。
グランフィストの常駐兵は衛兵を合わせて6000人はいるけれど、その全てを1つの戦場に投入することはできないのだ。
街を囲うように守らねばならないし、こちらのボス、領主を守る兵士も必要だ。
それでも1000か2000は動かせるだろうけど、すぐに動かせるという訳でもない。移動時間や装備を整える時間など、戦闘前に1時間以上かかったとしても不思議ではない。
俺たちの事があるからすぐに500人は動いただろうけど、陽動じゃないかと警戒するためその全員が動いたなんてことも無いはずだ。
まさかこちらが攻められるとは――考えていたけど、実際にそれをやられると精神的にくるものがある。
直近の問題としてすぐに援軍が来ない。
俺達は自力でこの場を切り抜けるしかないようだ。




