狂気の軍④
粛清はみんなで行う事にした。
こちらに来た王都の兵士の約半数が偽者、死者、紛い物だったからだ。
全員がそうなら話は早かったのだが、中途半端に人間が混じっているのはかなり都合が悪い。よって多くの人手が必要だった。
俺達は準備を速やかに、そして何より秘密裡に進めていった。
「そっちの準備は出来たか?」
「うむ! 楽しみであるな!!」
作戦決行は街から少し離れた場所で行う事になった。
連れ出す名目は歓迎会である。
だったら街中で、と言われそうだが、相手はグランフィストの外から来た兵士である。元から町の外に駐留しているし、酒を用意すると伝えたので特に不審に思われる事はなかった。酔って暴れる事を警戒しているというという建前だ。
会場に選んだのは、かなり広い平原である。
飲み食いするための簡易テーブルが立ち並び、近くには調理用のかまどが組まれている。料理用の材料だけでなく酒樽なども積まれており、酒好きなのか、数人の兵士がその近くをウロウロとしていた。
調理担当の冒険者はいずれも『料理人』系統のジョブ持ちであり、何人かがすでに大鍋でシチューを作っていた。
もちろん、全て相手を騙すための擬態である。
酒などは戦闘開始前に≪アイテムボックス≫で回収する手はずになっている。食べ物は出来るだけ粗末にしない方針である。
怖いのはこいつらが実は囮というパターンで、俺達が出払っている隙をつかれる事だ。
だから、今回の殲滅戦は冒険者ギルド単体で動くようにしている。街は衛兵などがしっかり守っている。
そもそも冒険者ギルド主催の歓迎会って名目なので、グランフィストの兵士たちが居たらおかしいんだけどな。
全員に酒を配り、辺りを見渡す。
すでに人外どもはマーキング済みであり、そのマーカーとしてジョッキを使っている。
いくつかある色のうち、赤か黒のジョッキを持っているのが人外である。白やら青やらその他の色のジョッキを持っているのは一応人間だ。
人間だからと言ってマトモであるかは別問題なので、何かあった時は躊躇なく切り捨てる段取りだ。
「では、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
グダグダと挨拶する気は無い。俺はジョッキを掲げ、音頭を取る。
周囲の者達もそれに合わせ「乾杯!」と言うと、兵士たちはそのまま酒を口にして。
俺たち冒険者は武器を手にして人外の頭部を狙って一撃を入れた。
「な、何をする! レッド!!」
俺が相手にするのはもちろんエンデュミオンである。他の奴に任せる気は無かった。
エンデュミオンはレベルが高い戦士系の為、半分魔法使いで防御よりの俺の攻撃力ではHPを削り切れなかったようである。と言うか、不意を突いたつもりがとっさに防御されてしまった。
近くにいた≪アイテムボックス≫持ちから受け取った槍を構え、俺はエンデュミオンの死体を睨む。ゾンビか何かは知らないが、日の光の下でも動けるって事は結構レベルの高いモンスターのはずだ。油断はできない。
とりあえずはゾンビと認識しておく。肉は付いているし。
このゾンビ野郎は不意打ちをした俺に喚いているが、すべて無視する。
もしかしたら召喚モンスターの一種かもしれないので、≪感覚共有≫スキルでこの会話を聞いているかもしれない。
俺の≪魔力掌握≫は一応機密扱いをしているので、ここでバラすのは得策ではない。
「こんな所で、死ぬわけにはいかんのだ!!」
ゾンビ野郎は武器の無い状態であったけれど、それでも俺をどうにかしようと死に物狂いで飛び掛かってくる。すでに死んでいるのに死に物狂いと言うのも変な話であるが、容赦する理由が無い。傍らに控えていたティナと協力して追い込む。
純粋な近接戦士職であろうと、レベルはこちらの方が上だし数も多い。そしてこちらは武器を持っているのに相手は無手だ。この戦力差は覆しようが無い。
しばらくはスキルなどで凌いでいたが、俺の槍が腹を貫通し背骨に損傷を与えるとさすがにHPが尽き、正しい死に至る。
「俺は……ダンジョンで……鍛え……、ま……英雄に…………」
ゾンビが何か言っていたが、腹を貫いたせいでまともに喋れず、俺の耳には何を言っているのか分からなかった。たぶんかつての栄光を取り戻したいとかそんな事だろう。
周囲を見れば他の連中も自分の標的を仕留めており、俺たちの戦いが最後の方である。俺たちは既に仕事を終えた奴らの視線をけっこう集めていたようだった。注目されている。
ゾンビ野郎の死体に目を向ければグズグズと死体が崩れていき、此奴がアンデッドだったという証明がされた。
それを見届け、俺は酒杯ではなく槍を天に掲げる。
「英雄に扮したアンデッドは俺が始末した!! これが答えだ!!」
一先ずはこの場を収めるのが大事だ。
俺は周囲に声を響かせ、なんでこんな事をしたのかを王都の兵に伝えるとともに、仲間たちへ勝利宣言をした。




