狂気の軍③
かつての恩人を引き合いに出され、引き受けたダンジョン案内人のお仕事。
可能ならその前にクラン『北極星』でダンジョン攻略を終えておきたかったのだが、それはレベル不足、準備不足を理由に敵わなかった。バランがいなくなったことでバランパーティでの攻略もお預けになっているため、ダンジョン5層は二度目の攻略をできないでいる。
それはともかく、お仕事である。
たとえやりたくない種類の仕事であろうが、金になるならちゃんとやろう。
「おう、レッド! 息災であったか!?」
今回の兵士を率いてきたのは、俺の顔見知りにして“英雄”のエンデュミオンであった。
騎士爵にして元将軍の彼は、ダンジョン行きを熱烈に希望していたが妨害にあってそれも叶わなかった。なので、俺はかなり驚いている。
「王都から動けるようになったのですね」
「うむ! 悔しい事に外から実力者が流れてきてな。もう拙者など怖くないという事であろう!」
いや。俺が驚いた理由はそんなものじゃない。
見たくないモノが見えた。
だから驚いたのだ。
≪魔力掌握≫は≪魔力感知≫の効果を含み、より上位の結果を出せるため、今のエンデュミオンの状態がよく分かってしまう。
エンデュミオン。彼は“終わっていた”。
魔力の流れ、魔力の質というのは人間という規格が存在し、個人差はあるけど大きくは変わらない。犬と人間を見間違わないようなものだ。
だからこそわかる。
このエンデュミオンは、人間ではない。
元人間、アンデッド。
前に王都であった時は確かに人間だったはずが、すでに終わった存在であった。
俺は笑顔でエンデュミオンと別れ、一人、部屋に戻って泣いた。
知り合いが、そこそこ付き合いのあった人が死んでいたのだ。とても悲しい。
蘇生の条件はいくつもあるが、時間経過はその最たるものだ。もしも王都を出る前に死んでいたのであれば手遅れである。もう、エンデュミオンは生き返らないかもしれない。
あのアンデッドをその場で対処したかったが、それをするとアレが率いてきた兵士がどう動くか分からない。
兵士一人一人をちゃんと確認したわけではないので、その中にいるであろう混ざり物を確認してから、動くべきだろう。
桜花だけでは手が足りないだろうから、聖属性攻撃魔法のスペシャリストを招こう。ミューズは動けるかな?
引退したバランを引っ張り出すのもいいな。手はいくらあってもいい。
いっそのこと、ジョンも呼ぶか。いや、治安維持名目でアゾールさんにも声を掛けなきゃ。
そもそもジャニスは何をやっているんだろうね。アンデッドを街中に引き込むとか。なんで門の前で気が付かないんだか。
誰が何を考えてこんな事をしたのかは知らないが、犯人は絶対にぶっ殺す。
俺は自身にそう誓った。




