狂気の軍②
「それで、兵士たちのダンジョン攻略の手伝いをお願いしたいという話なのです」
「――いいの、そっちで?」
「そうでないと、内政干渉となるのですよ」
ジャニスがこんな話を振ってきた一番の理由は、ダンジョン攻略の手伝い要請であった。
今回の話の場合、相手の要望に応えるには二つの方法がある。
一つは、今ジャニスが行ったように、王都の兵士をダンジョンに送り込んで、自力で銅を入手させる方法だ。
もう一つは、グランフィストの兵士を使って銅を回収させ、グランフィストの兵士の替わりを王都の兵士にやらせる方法である。
普通に考えたら前者なのだが、それは俺ならまず選ばない方法でもある。
なぜなら、彼らがダンジョンに潜ればそれだけレベルアップされるわけであり、それが可能な兵士が多数、グランフィスト近辺に駐留すると言う事だからだ。
俺が反対する理由は沖縄におけるアメリカ軍の基地問題を例えにすると理解してもらえるだろうか。どう考えても厄介ごとの臭いしかしないのだ。
では、後者を選んだ場合は何が問題か?
兵士の仕事は治安維持であり、それを削ると言う事は領主たちの身の回りを守る兵士に異物が混ざると言う事だ。付け加えるなら周辺の地形などを正確に把握され、防衛施設を含む地の利が消えるというのもある。
ただし、敵兵――もとい、王都の兵士の質とグランフィストの兵士の質を比べればどちらが優秀かは歴然としているため、俺はあまり危機感を抱いていない。
王都の要求を受け入れるとして、どちらを選ぶかはジャニスら領主側の人間なのだが、正直な感想を言えば「そもそも王都の要求を跳ね除ける」が正解だと思っている。
ある程度の要求は受け入れたってかまわないが、ここまで酷い要求を受け入れるというのはまず有り得ない。馬鹿じゃないかと思う。
「怖いんですよ」
俺の呆れを感じ取ったのか、ジャニスは言い訳するように言葉を漏らした。
「王都の様子が普通じゃないんです。私達の知らない間に何かが変わってしまったというか、顔見知りと話をしても同じ顔をした誰か別の人を相手にしているようだったんですよ。
ですから、情報を得るためにも一度中に引き込まないと、何も分からない。そういう事なんです」
その割には俺達冒険者が連中の相手をする算段を付けている訳だが、こちらとしては引き受けたくないんだぞ。
そっちでどうにかしてくれよと思う。
ジャニスの泣き落としは俺に通用しないので、この場は完全にジャニスを切り捨てる形で話を終えた。
しかし、俺が世話になったと自覚しているアゾールさんが引っ張り出され、俺は渋々であるが王都の兵士の相手をする事となった。
多少ではなくかなり荒っぽくても良いようだし、とりあえず数人殴り飛ばしてから話をすればいいか。
俺はこの時、王都の様子がおかしいという話を忘れ、その程度にしか考えていなかった。




