狂気の軍①
かつて王国には四大都市と呼ばれる都があった。
四大都市にはダンジョンがあり、ダンジョンから得られる産物を使って大いに発展した。王都はそれら四大都市の中央に位置することで交通の要所となり、やはり大きく発展した。
しかし、ダンジョンとは関係ない所で四大都市は一つを除き大きく衰退することになった。特に、大地の都は完全消滅というほど被害が大きかった。
四大都市の衰退は王都の衰退である。
王は四大都市をよみがえらせるべく、精力的に取り組んだ。臣下の物も王を支え、よく頑張った。
だが、どれだけ王が、臣下が一丸となって事に当たろうと、人のやる事には限度がある。
目に見えるほどの成果を出すことは難しい。
かつての栄華を取り戻すのにかかる時間はどれほどなのか、考えたくなくとも判ってしまう。思考はどうしても暗い方向に向かう。
絶望に人の意志が絡むのであれば、抗えないほどに。
グランフィストから離れた地で。
俺の気が付かないうちに“終わり”が始まっていたようであった。
「国がグランフィストのあれこれを接収しようって? 本気か、それ」
「ええ。かつての独立運動、反乱から国が大きく混乱したことは事実。その埋め合わせをグランフィストにも求めているようです。
うちは、被害があまり出ていませんからね」
俺が名実ともにギルドの代表となって数日。
俺の所にジャニスが「王都から強い干渉があった」と愚痴を漏らしに来た。
どう考えても俺は関係ないと思っていたのだが、そんなことも無かった。俺もそこそこ関わっている。
王都よりも金属関係が容易に手に入るグランフィストは電灯を始め色々と生活が便利になっている。
隠し立てしていないし王都にも日本人はいるので王都でも同じことはやっているのだが、金属の入手難易度の差が、都市面積の差が全体の進捗に大きく関わっているようだ。
銅の入手が難しく面積の広い王都はまだまだ電灯が一般的とは言えない。ごく一部の、貴族街などでの利用に止まっている。
技術はともかく銅の入手には冒険者ギルドが大きく関わっているため、俺が無関係とは言えないという訳だ。
「それで? 銅をどれだけ接収しようって言っているんだ?」
「月、10トンは納めろと」
「馬鹿じゃないのか? なんだよ、その無茶振り。出来ないものは出来ない。他にもやる事があるんだ、人手が足りない」
冒険者ギルドからの銅の納品は、月におおよそ2トンである。軍も銅を回収しているはずだが、合計しても5トンかそこらだろう。
ギルドはいろんなダンジョン品を要求されるため、銅だけに構っていられない。全人員を投入すれば可能ではあるが、それをする道理もない。
いや、人員はともかくソラカナが足りないか。アレの過半数は軍が抑えているからな。冒険者ギルドだけではなんともならない。
銅は4層の産物であり、4層はソラカナが必要。グランフィストのダンジョン関係者には常識である。
「人が足りないは通じないと、王都の軍をこちらに送り込むらしいです」
「ソラカナは? 移動手段が無ければ何もできんぞ?」
「それを、寄越せと」
「馬鹿じゃないのか? 軍用品でもトップシークレットを軽々しく動かせるわけないだろ」
この時代、この世界では王であろうと領主の持ち物を寄越せというのは問題発言である。
王と領主では確かに王の方が立場が上だが、絶対王政と違って領主が王命に逆らうのも珍しくない。銅10トンも問題だが、軍を領内に入れろというのも問題だし、さらにグランフィスト軍の備品を接収するとは有り得ない行動である。
完全に、侵略者の行動でしかない。
「対応は?」
「……」
俺の発言に対し、ジャニスは首を横に振る事で答えた。この場で明言はしないようだ。
厄介な事になった。
そして俺も無関係ではいられないらしい。




