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Side:ロイス



どうか私の胸の内を聞いてほしい。これは、私の後悔であり、そして懺悔を綴ったものである。


私は公爵家の次男に産まれ、殿下の筆頭側近であった。殿下とは、第3王子であり、正妃様を母に持つレイド様である。比較的、近い血筋であるため、殿下と同い年の私は、幼い頃から殿下と歩み進める道が決定していた。

勿論、私もその道に誇りを持っていた。輝かしい未来、頼りになる仲間たち。殿下は子供っぽい所があったけれど、彼に仕える事を、嬉しく思っていた。

――――――だというのに私は、道を間違えたのだ。あの、偽りの手を取った私は、恐らく、主人である殿下を裏切った、最悪な側近筆頭なのだ。


全てはあの日、一人の少女と出会った事から、私の運命は変わってしまった。そう、もっとも最悪で、そして、やり直すための茨の道へと、私は足を踏み入れたのだ…………。それが、地獄へ続く道であろうとも、全ては皆と共に歩む、輝かしい未来の為に、一歩を踏み出したのだ。


あの件の娘と出会ったのは、図書館であった。私の趣味は読書で、そして特に、戦記ものや政治もの、武人が活躍するヒーローのような話まで、まあ、気の向いたものなら何でも読む。若い令嬢が読むような恋愛ものは、あまり好きでは無いが、中には面白いものもあり、中々侮れないのだ。


「さて、次は何を読もうか………」


蔵書が大量にあるこの図書館は、私のお気に入りで、だから迷っていた。いつものように。

只一つ違ったのが、困った様子の女性がいたこと。それがあの件の娘であるのだが、何も知らない私は親切心で声をかけた。かけてしまった……………。もしもやり直せるなら、張り倒してでも距離を取らせたであろうに。やり直せないのが非常に残念である。


「どうしました?」


そう声をかけると、その少女は困ったように最上段にある一冊の本を指差した。それは中々興味深い、この国の歴史について書かれた本で、そして中々に分厚い本であった。近くに踏み台を探すが無く、だが自分は踏み台が無くても取れる高さ。まあ、小柄な女性には確かに取れないだろう。


「私がお取りしましょう」


親切心で私は、彼女にその本を渡し、そして彼女が思わず守ってあげたくなるような、そんな美少女である事を何とはなしに感じた。お礼を言った彼女の顔が、ドキッとする位に可愛らしくて。それからは、堕ちていくのは早かった。当たり前だ。私には婚約者はいない。側近候補の筆頭である私には、中々条件に合う令嬢がいない為、私の隣はいつも妹か従姉妹にお願いしていた。けれど……………彼女なら。その気持ちが本気であった為か、私は自分でも驚く程にあっさりと堕ちていったのだ。周りに殿下達が集えば集う程、私は彼女を渡したくなくて、けれども何か腑に落ちなくて。

そしてあの日、私達はどれだけ自分達が愚か者であったのか、思い知ったのだ。




「こぉんのぉ、馬鹿者がぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」




陛下を筆頭に、私達の父親が険しい顔でこちらを見ていた。殿下の姉君たるリアン姫様のお陰で、我々は殿下を失わずにすんだ。本当に、心の底から、ホッとした。涙が出るくらいに。殿下を失ったらと思ったら、背筋が嫌になる位に冷えた。

……………こんな自分にも、まだ主人を思う気持ちがあったのかと、僅かに驚いたけれど。


「お前ならと期待していたが、私は何を見ていたのやら」


父は、昔から私を可愛がってくれた父は…………その瞳に、何も映してはいなかった。まるで、もう私などいらないとばかりに、無関心になった。


「お前を見損なったよ、出ていくなら早く行けよ」


兄には、そう言われた。


「こんな子がわたくしの子だなんて、恥だわ」


母はそれ以来、私と会う事も無くなった。

私の居場所は、屋敷には無くなった。自分の部屋でさえ、落ち着かないのだから、仕方ないだろう。我に返ったのが、もう少し早ければ、何かは変わったかもしれない。けれど。


「何を…………っ、してたんだっ! 僕はっ!!」


父から部屋での謹慎を言われた私は、毎日が後悔の嵐であった。涙が止まらなかった。あれ程、輝かしい未来を見ていたはずなのに、現実は、部屋で後悔をする日々。勿論、食欲もなく、このまま死ぬ方が殿下の為になるのでは、とそこまで考えた。

が、それは叶えられなかった。それは父が言った言葉だった。


「レイド殿下は、今一度、学ぶ事を選ばれた、お前はどうする?」


父の目は、とても真剣なものであった。試されているのだと、思った。父が私に、こう話すのは、私が自分で選ぶ必要がある事なのだ。

しかし、私は殿下のそばにいて、いいのだろうか。一度、あの方を裏切った側近が、傍にいる事を、許してくれるだろうか。

もし、許されなくても…………私はあの方の見る未来を、一緒に見たい。


「父上、お願い申し上げます、私は、今一度学びたい! 殿下と共にいたい………っ! あの方の傍で、支えたい! 今度こそ、あの方を本当の意味で支えられる側近でありたい! 父上っ、私は学びたいですっ! あの方の為にっ!!」


一気に吹き上がる思いを父にぶつけた。絶対に、私はあの方の傍に行きたい。そのためなら、土下座だって何だってしてやろう。勿論、迷惑をかけたユリアナ様への謝罪はしなければいけないが。誠心誠意、あの方の迷惑にならないように、謝罪をしなければ。


「本気なら、ついてこい、私は息子だからと手加減するつもりはない」


父は言葉通り、とても厳しかった。そして、私がどれくらい無知であったかを思い知った。勉学は読書好きが講じたお陰で、何とかなったものの、それだけだった。実践的な知識など何もなく、父からの扱きは、日々厳しい物になっていく。それでも私はめげなかった。必死だった、ただあの方の傍にいる為だけに、私は日々の扱きにも冷たい目にも、必死で耐えた。


それから暫くして、殿下が学園に戻る事が知らされ、私も学園に戻る事が決まった。毎日寝る間を惜しんで勉学に勤め、余りの必死さに食事を忘れる私に対し、初めは腫れ物でも触るかのようにしていた使用人達が動いた。特に、メイド長は私でも頭が上がらないため、食事や寝る事を忘れる私は、度々ストップを言い渡され、強制的に寝るなんて事もあった。


そして学園に戻った私は、やはり冷たい視線で出迎えられたのだ。それでも、久しぶりに見た殿下は、顔立ちが変わっていた。いや、表情が、というべきかもしれない。まず目が違うのだ。あの、全てを拒絶していた目が、力強く、何より輝いて見えた。


「殿下、お久しゅうございます」


それしか言えなかった。色んな思いが胸を過り、私はこれ以上の言葉を、話す事が出来なかった。


「あぁ、また頼むよ、怠けそうになったら、しっかり叱ってくれな?」


そう言って笑った殿下は、眩しくて、優しくて、そして何より、情けなくて……………。だからより一層の忠誠心が胸に沸いてくるのだ。


さて、学園に戻ってからは、私は寝る間を惜しんで溜まった書類や仕事を片付けていった。他の皆も一緒だったからか、笑えてきたけれど。

そしてとうとう、ユリアナ様が帰って来る日になった。殿下は朝からソワソワしていて、私達側近は、その姿を微笑ましく見ていた。

私には、皆のように婚約者はいない。だから、恋については残念ながらアドバイスは出来ない。それでも、殿下が楽しそうに進むこの道は、意外といいものなのかもしれない。

勿論、デレデレな殿下はユリアナ様を迎えに行き、見事に振り向いて貰えないという事態になったが。

因みに私が謝った時は、いとこな事もあり、みぞおちに見事なクリーンヒットが来た。まあ、これは仕方ないだろう。私は彼女に、それだけの事をしたんだから。

家族とは、今だに疎遠ではあるが、父とはたまに話をしている。これから挽回するしかないだろう。

最後になるが、我らを騙したリリカ嬢は、規律のもっとも厳しい修道院へと入れられた。恐らく、一生をそこで暮らす事になるだろう。身分詐称は本来、一族もろとも死刑なのだが、未成年者である事。並びに王家と優良株たる貴族達の醜聞が重なった事による恩情が出たのだ。ある意味、リリカ嬢は一生を辛い日々で過ごす事になる。まさか、頭が可笑しい令嬢だったとは思わなかったが……………。


さて、私達は今、ある意味、かなり危険だったりする。実は、あれからかなり頑張った我々は、やはり優良物件として狙われ始めているためである。


「おいっ、オレは婚約者がいるんだよっ!」


「それは私も一緒ですよ!」


「それは私に対する嫌みですか!? 本当にどうしたら………」


二人はいい、いいんだ。婚約者がいるから、何とかなる。だが、私はいないんだよっ! 本当に何で、令嬢達は恐ろしい目で自分をみるんだっ!? あれは肉食獣の目だろう!?


……………果たして、私の好みの令嬢と結婚できるだろうか?



しかし、殿下。

私は貴方が、しっかりした道を歩み始めた事を誇りに思う。

どうか貴方が、この国にとって、無くてはならない尊い存在になることを、私はずっと願っている。

殿下、今度こそ、私は何があっても、貴方を正しい道へ進めるように、全力でお止めしましょう。


私の忠誠を貴方に―――――。


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございますm(__)m


中途半端感がありますが、これにて終わりでございます。最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました!


感想等は、きちんとお返事させて頂きます。

それではまた、どこかでお会いしましょう。

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