【6】 闇組織
永遠の命を得ることが、そんなに重要なことなのかと、コウヤは考え続けていた。
その代償が、血肉を喰うこと、生殖能力を失うことだというのなら、割に合わないのではないかと思う。
永遠の命をすべての人が持ち、共食いをする訳でもなく、子を産むことが可能であれば、人は増え続け、いつかは破たんするのだろう。
だからこそ、共食いをさせ、生殖能力を奪ったのかと、この理を生み出した見えない誰かを恨みたくなる。
人は、人間兵器として、一族を生み出そうとした。
しかし、生み出されたものは、人の理想とは違い、人を滅亡させる者として生れた。
だからこそ、封印し、その権限をアードに委ね、永い間、眠らせて来たのだ。
それが目覚めた時、人は多大なる代償を支払うことになった。
望んで生み出した者たちがいない世の中で彼らは目覚め、数を増やし、増やすことに飽きると、今度はお互いを捕食し始めた。
結果、人も一族も消え果て、残るは荒れた大地ばかりだと想像できる。
アードは、人の世を取り戻したいと言ったのだという。
それは人から聞いたことだから、本当なのか、偽りなのか、確かめることはできないのだが、本当にアードがそう思っているのなら、コウヤも協力したいと思った。
コウヤにとってアード当主は、ユズナを奪い、自身を操る、相容れない存在だと思っていた。それが本当に覆られるのかはわからない。だが、アード当主の話を聞きたいと思った。
ユズナは知り、コウヤは知らない話を、聞かなければならないと思い始めていた。
「血色が良くなりましたね」
何日ぶりかに現れた桐原は、相変わらず隙のないスーツ姿だった。
東都区内での自由を与えられていたコウヤは、日のあるうちは外に出て、日が沈むと部屋に戻って来るという生活をしていた。だが、初日のような収穫はなく、人は相変わらずコウヤを遠巻きにするし、一族に出会うことはなかった。
「なぜ一族は血肉を必要とするのでしょうね」
ベッドに腰掛け、外を眺めていたコウヤの傍に歩み寄った桐原は、仕事用の笑顔を表情に張り付けている。
桐原の答えようのない質問を無視したコウヤは、ベッドから下り、桐原に背を向け、窓際に歩み寄った。
「あなたの検査結果によれば、あなたの体の構造は、人と変わりがないそうです。不思議ですね。変わらないのに、血肉を欲し、特別な理の中にいる。全ては刻印に秘密があるのかもしれませんね。刻印が別次元に誘っているとしか思えません」
コウヤは桐原の言葉を聞きながら、ウンザリして振り返った。
「知りたければ刻印を施して差し上げましょうか」
コウヤは、どうやって刻印を他者に与えるのか、その方法を知らなかった。
しかし、できるような気もしていた。
刻印を受けたとたん、そういう不可思議な操作が可能になるのか。自分自身でありながら、自分自身が不安要素となる。
「いいえ、結構ですよ。私は死ぬ時まで人でありたいと思っていますからね。人であるからこそ、得られるものがあると思いませんか?」
「だったら、一族に加担などせず、人の生きられる世界を取り戻せば良い」
「もちろんです」
桐原は、コウヤの嫌味など気にする様子もなく、不敵に笑って見せた。
「結局のところ、この世界に一族など必要ありませんし、この世の理に反した存在が、いつまでも受け入れられている筈がありませんよ。排除されて当然の存在なのですから」
コウヤの目には、桐原の態度が不遜に見える。
どうしてそうまで強気でいられるのかがわからず、困惑ばかりが先に立った。
「そんなことを言っているけど、当主は本来怖い存在なんだ。なぜ当主たちがあなたに従っているのかわからないけど、淘汰されてからじゃ遅いと思う」
たかが“人”でしかない桐原が、当主と同じ空間で、同じように立っていられることが信じられなかった。“人”ではなく、一族にされてしまったコウヤでさえ、当主たちの傍に立てば緊張が走る。ただでさえ、思いもよらぬ力を見せつけて来るのだ。自身では想像のつかない展開が襲い掛かって来る。それだけではない。当主の手が、ほんの僅かに上げられただけで、死を覚悟しなければならない。当主たちに利用されているコウヤでさえ、淘汰される側にいる。
桐原は笑う。
まるでコウヤの言うことを馬鹿にするように、口元を押さえ、控えめにしながらも、目は笑っていなかった。
「私にとってあなたは、神にも等しい存在ですよ? それでもそんなことを口走るのですね。私でしたら、その力を十分に発揮できたでしょうに……。彼らは人選を誤った。そうとしか思えません」
「確かに、そうだね。譲ってあげられるのなら、そうしたよ。でも、俺なんだ」
コウヤは、馬鹿にして笑う桐原を睨みつけた。
負けられないという意思が芽生えている。
自分にしかできないことがあるとわかったから、人でもなく、一族でもなく、ただ見たものを清浄な状態に戻し、誰もが易く生きられる基盤を創りなおさなければならない。
それがアード当主の思惑の中にあるのか、ないのか。
それを知らなければ進めないと思うコウヤは、大陸に戻る道を探そうと決意した。




