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君と暮らす退屈な日々  作者: サクラギ
≪第二章≫
38/53

>2

「俺も、元は人です。ベレスに故郷を襲われ、アードに保護されました。そして、これです」


 コウヤは覚悟を決め、シャツを脱ぎ、肌着をたくし上げて背を見せる。

 背中にある刻印は3つ。首にあるものと合わせて4つ。


 それを見たリトは、顔を顰め、本物かどうか確かめる為、コウヤの肌に触れた。


「……こんなことが許されるのか? アード当主は? 知っているのか?」


 よほど驚いたのだろう、冷静さを欠いたリトは、早口で言葉を紡ぐ。


 コウヤは苦々しく笑い、肌着を下ろし、シャツを着た。


「許さる、許されないも何も、刻印があることが事実。アード当主が知らないとは思えないけど、俺は会っていないし、話せる状況でもなかった」


「……おまえは、いったい何をしようとしているんだ?」


「何も」


 コウヤに不信感を募らせたのだろう、リトがコウヤから離れ、エルを背で守るように立つ。

 コウヤと彼らとの間には、3メートルほどの距離が開き、コウヤが身動きひとつでもすれば、襲い掛かるという張りつめた空気が流れた。


「本当に何も企んでいないよ。ただ、他種族の当主には思惑があるから、その道具にされているのだと思う。実際にどう使われるのかはわからないけど……。俺は自分の状況も良くわかっていないし、人が、種族が、どうなっているのかもわからないんだ。何も知らない。知らないから、知りたい。知って何になるのかも、わからないけどね」


 自分自身の言葉に、自分で呆れた。

 ただ流され、起きる状況に右往左往しているだけだ。

 何一つ自分で考え、動いていない。


「あたしは、種族が大っ嫌い。自分から人を捨てて、一族になる人も大っ嫌いよ」


 エルの憤りは、荒げた声とその表情から良くわかる。

 泣きそうな顔で頬を膨らませ、リトの腕に手を絡ませ、肩口に顔を埋めている。

 種族が嫌いと言いながら、リトは別なのだと思わせた。


「リトは別?」


 思わずそう言うと、エルは赤くなった目でコウヤを睨んだ。


「ごめん、俺も種族が嫌いなんだ。でも、それとは別だと思える一族の人がいるから。同じだなって思って」


 コウヤは、バジルのことを思い浮かべていた。


「そうなの」


 エルの怒りが静まったようで、涙を拭きながら、少しだけ笑った。

 コウヤはホッとし、同じように笑って見せた。


「一緒にここに来ていたんだけど、当主たちに傷つけられて、たぶん眠ってしまったんだと思う。心配だけど、探そうにもどうしたら良いのかわからなくて。ここには知り合いもいないし、頼る相手もいないから……」


「当主に傷を負わされたのなら、当分は目覚めないだろう。だが心配はいらない。意識を手放す前に安全な場所で眠ることくらいはできる。ここはアード管理区だ。隠れる場所はいくらでもある」


「……そう……心臓がなくても、大丈夫なのかな」


 バジルの心臓は、ユズナの傍にある。

 ユズナを欲する気持ちが本物であるという証に、心臓を渡したのだ。


 コウヤの呟きを聞いたリトとエルは、顔を見合わせ、躊躇いの表情を見せた。

 コウヤは途端に不安になる。何かあるのかと焦ってふたりを見つめた。


「心臓の持ち主が、その人の死を願わない限り、肉体を維持できると言われているけれど、肉体が傷付けば、心臓が戻るか、持ち主が目覚めを願わない限り、眠ったままの状態が続くかもしれないわね」


「眠ったまま?」


 コウヤは、いつまでも眠り続けるバジルの姿を想像した。


「でも、持ち主が目覚めを願えば良いんだね」


 だったら、アード城に戻り、ユズナに頼んで目覚めさせてもらえば良い。

 しかし、その為には、生きて大陸に戻らなくてはならない。その間、バジルが傍にいない。助けを期待することができないのだとわかり、さらなる不安を呼び寄せていた。


「心臓は、時として道具となるのよ。むやみに誰かに取られないようにしないと」


 エルは表情を曇らせながらコウヤを見た。


「何も知らないようだから、教えてあげても良いわ」


「エル!」


 リトが咎める。


 しかし、エルはリトの意思を一瞥で退け、コウヤに知る意思があるのかというような視線を向けた。


「お願い、教えて」


 コウヤは、何があるのかと息をつめた。


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