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04 : この世界の魔王。





 ツヴァイは自分の緑竜に、ノルジスはセヴンと一緒にレヴンの黒竜に騎乗し、一向はアルファンデス国の城へ向かう。

 トーエイの森から南に約一月の距離に、アルファンデスの首都リデルはある。竜の体調次第では半月の距離を、さっさと安眠を得たいノルジスは、魔術で約一週間の距離に縮めることにした。


「無茶です」


 と、もちろんツヴァイは言った。竜の体調次第で半月の距離を、もっと時間をかけて進むつもりでいたらしいので当然だ。だいたいにして、竜の機嫌が悪くなれば半月の距離も一月に伸びる可能性がある。そんなに時間をかけていられないノルジスは、無茶を承知で一週間に縮めるのだ。


「僕に不可能はない」

「さすが魔王だね、ノルジス!」


 セヴンが気分を乗せてくれるので、もっと気分を向上させるために、ツヴァイが騎乗している緑竜の周りに陣を描いた。ちょっと魔術師っぽいことをしている自分に満足して、短い詠唱をさらに追加する。同じようなことをレヴンの黒竜にも施して、準備は万端となった。


「え、それだけですか?」


 なにをしたのだ、というツヴァイに、簡潔な説明をする。


「つまり、速度の調節をしたのです」

「え、いえ、なにもわたしの口調を真似ずとも……その前に、簡潔過ぎて意味が」

「竜騎士に魔術を説明しても意味ないでしょ」

「は……ま、まあ、そうですが」


 それでも説明が欲しい、というツヴァイに、それでも時間の無駄だとノルジスはそれ以上の説明をしなかった。


「さっさと行こうか。僕は眠いからね」

「移動中、休まれてもかまいませんが」

「それができれば苦労はないよ」

「は?」

「行くよ」


 道案内しろ、とツヴァイを促し、ノルジスが巨大化した黒竜の背に騎乗すると、まもなく出発する。


「寒くないか、ノルジス」

「咽喉が渇いたりしたら言ってね。とりあえず、あるだけの食糧は持ってきたから」

「気分が悪くなっても言ってくれよ? ベジは気をつけると言っているけど」

「ああもう、竜の上でも本読もうとしないでよ。風が強くて無理だよ、ノルジス」


 息子たちの甲斐甲斐しい世話に、しかし不思議に思うことなく接していると、斜め前を進むツヴァイが半眼した顔をこちらに寄越した。


「過保護ですね」

「そうかな」

「ええ。残念どころか、とても立派過ぎて、少し心配になってきました」

「まあ僕もたまに心配になるけど。それより、竜騎士さんの緑竜の名前は?」

「あ、はい。紹介が遅れました、緑竜のララファです」

「ララファ。子守唄みたいな名前だね。女の子かな」

「はい、雌の緑竜です」


 ちらりとノルジスに視線を寄こしたツヴァイの緑竜から、よろしくね魔王さま、という声が聞こえてくる。僕は魔王ではないよ、という苦笑と共に声を返すと、あらあなたは可愛らしい魔王さまだわ、と返された。だってわたしたちの声を聞くのだもの、と。


「意志疎通できるだけなんだけど」

「は、なにか?」

「いやいや。もうそろそろ気をつけてね」

「はい?」

「速度が上がるよ」

「速度……?」


 注意を促したとたん、完全の風の軌道に乗った竜たちの速度が、目に見えて上がった。身に受ける風の抵抗を魔術で回避させているので問題はないが、下の景色は見ないほうがいい。まず目を回す。


「は、はや……っ」

「これぞ魔術」

「こ、これは、竜たちの体力を」

「だいじょうぶ、僕の魔術は完璧だから」


 ノルジスが施した魔術は、竜の体力を奪うものではない。いくら速度が増しても、その疲れが竜を襲うわけではないのだ。


「うーわー、速い速い。これならすぐに首都に辿り着くね」

「セヴン、下を見たらいけないよ。レヴンも、酔うよ」

「だいじょぶだよ、おれは。レヴンだって、ベジに乗り慣れてるんだから」

「……だと、いいけどね」


 数分すると、黒竜の手綱を握っていたレヴンがぱたりと転がってきた。


「よ、酔った……」

「なんて間抜けな子」


 だから下を見るなと言ったのに、やっぱり残念な息子だ。

 乗りもの酔いしたレヴンに代わってセヴンが手綱を握り、自分の前に具合が悪くなったレヴンをノルジスが介抱する。ノルジスのほうこそ眠気で倒れてしまいたいくらいなのだが、レヴンがこれではそうも言っていられない。


「う、気持ち悪……」

「ちょっと竜騎士さん、僕の話のどこを聞いていたのかな」

「すみませ……」


 ツヴァイまで乗りもの酔いしてくれた。仕方ないので回復魔術を施してやろうと、先にツヴァイにその魔術を施したところで、さすがのノルジスにも体力の限界がきた。


「ん、レヴンはこのままでもいいか。セヴンがいるし」


 ツヴァイのほうは騎乗しているのがツヴァイだけだから仕方ないとして、こちらにはセヴンがいてくれる。レヴンを放置していても問題はない。そのうち回復するだろう。


「ノルジス? 具合が悪くなった?」

「僕はいいから、きみは休みなさい。まったく、なんで僕の忠告を聞かないかな」

「……ごめんなさい」

「素直でよろしい。ほら、おとなしく横になってなさい」


 膝にレヴンの頭を抱いて、ぽんぽんと撫でてやる。役得、とか思っているのか、ちょっと嬉しそうだ。セヴンが睨んでいる。


「おれもノルジスに膝枕してもらいたい」

「レヴンが回復したらね」

「いいの?」

「いい加減、僕も眠りたいからね」

「首都なんてあっというまだよ!」


 任せとけ、とやる気を出したセヴンに笑っていると、ツヴァイに「申し訳ない」と謝られた。


「これに懲りたら、黙って前を見て進んでね」

「はい、ありがとうございます」


 自身の竜で乗りもの酔いしたということがかなり悔しいのか、それからツヴァイは口を閉ざし、目的地の指示をしたあとは話しかけても返事くらいしかしなくなった。


「暇だな……」

「やっぱり本読む?」

「そうする。風の精霊さん、本読みたいから、できるだけここを避けて通ってね」


 持っていた本に魔術を施すと、精霊の協力をもらい、レヴンの頭を膝に乗せたまま読書に入る。この一週間ずっと読んでいる本は、以前にも読んだものだ。とくに面白いわけではないが、先が気になる程度には読み易く、以前読んだ内容を咀嚼し直すことができる。


「ノルジス、一日めの移動が終わったよ。騎士の砦にお世話になるけど……って、駄目か。レヴン、ノルジスお願い。おれ、食事の用意するから」

「わかった。ああそうだ、風呂にも入れたほういいよね。もらえるのかな」

「どうだろ? ねえ竜騎士のお姉さん、お風呂もらえる? おれたち、二日に一回はお風呂に入りたい派、なんだよね」

「風呂はかまわないが……ノルジスさまはいったい」

「気にしないで。むしろ邪魔すると怒って手がつけられないから、こっちに意識が向くまで待つしかないの。じゃあお風呂の用意、お願いね。厨房ってどこかな」

「そうなのか……あ、厨房はこちらです。わたしたちのほうで用意するが」

「ノルジスはおれが作ったのじゃないと食べないから。ああでも、お姉さんは自分でどうにかしてね?」

「はあ……」


 本はどんなものであれ、読み始めると止まらない。なにかきっかけをもらえればふと意識が外のほうに向かうのだが、それまでは本から意識を引き離せないから自分でも困る。


「ノぉール!」

「ん……んん?」

「ご飯だよ」


 はっと、本から顔を上げる。身体がほかほかしていた。


「……あれ?」

「お風呂もらったの。気持ちよかったね」

「気持ちよかった、ね?」

「さあ夕食。お昼は炊き込みご飯だったからね。今度は炒めたご飯だよ。お吸いものは南瓜を煮詰めて甘じょっぱくして、あとは野菜を生で彩りよく添えてみました。レヴン用に肉もちょっと炒めたけど、食べる?」

「肉はいいかな。野菜多めにちょうだい」

「はいはーい」


 いつのまにか夕食の時間だ。親子で揃って食べるのは、どれくらいぶりだろう。


「竜騎士さんは?」

「砦に食堂があるからそっち」

「もう砦にいるのかい」

「思った以上に進めたね。あと三日もあれば首都に着くんじゃない?」


 生野菜をたっぷりよそってもらった椀を受け取りながら、ふぅん、と適当な相槌を打ち、いただきます、と声を揃えて食事を始める。

 食べながら周りを見渡すと、いかにも砦といった様相が目に入った。この部屋は客室だろうが、なんとなく豪華な感じがした。貴族階級の高官が泊まることも考えて作られたのかもしれない。


「そういえば……森を出たのは随分と久しぶりかなぁ」

「レヴンが学校の先生になってからは、初めてかな?」

「うん、そうだね。十数年ぶり……あんまり変わってないなぁ、外は」


 窓から見えた夜景は、十数年前に眺めた景色とあまり変わらない。少し光りの数が増えたくらいだろうか。


「ねえノルジス、いっそこのまま森との接続、切っちゃったら?」

「なんでまた」

「しばらくおれとレヴンは国仕えの魔術師やるつもりだし、ノルジスだけ森に返すなんていやだし、それに森に居続ける理由もないでしょ」

「まあ……」

「ノルジスの正体がアルファンデスの偉い人に知られちゃったら、森に居続けることもできなくなるかもしれないよ」

「うーん……目くらましの結界があるから、それは問題ないけど」

「どうしても森にいたいの?」

「そういうわけでは……ただあそこは、僕が生じた場所だからねぇ。きみたちが生まれた場所でもあるし」


 故郷、と言える場所があるとしたら、今はあの森だけだ。だから、護りたいかと訊かれたら、護りたいかな、と思うくらいの執着はある。けっこう大切な場所だ。簡単に捨てることはできない。


「今すぐ、とは言わないし、強制もしないけど……まあいいか。ノルジスがいいなら、そのままでいいよ」

「ごめんね?」

「謝ることじゃないよ。ただし、おれたちを置いて帰ったりしないでね?」


 一緒にいてよ、と言ってくるセヴンと、同じような顔をするレヴンに、いい息子たちに巡り合えたなぁと思いながら頷いた。もとより息子たちを置いていくつもりはない。自分の子どもだ。子どもから自立できない親だから仕方ない。


 夕食後、ツヴァイが様子を見に少しだけ顔を出し、明日朝一番に砦の騎士団長が挨拶したいと言われたが、見てくれが忌み子だからと遠慮した。それでも、と砦の騎士団長は思ってくれたようだが、そもそもノルジスは挨拶される覚えがない。国仕えの魔術師になるつもりでいるのはセヴンとレヴンであるし、それならふたりの息子に挨拶してくれと言ったら、今度は息子たちが願い下げだと文句を言ってきた。


「まだ国仕えって確定したわけじゃないし」

「見せものになる気はないよ」


 どうやら砦内では、きらきらした容姿の息子たちがかなり目立ったらしい。ちょっと注目の的になっているようなので、そんな好奇な視線をもらいたくないのだろう。


「将来的なことを考えるなら、団長と挨拶くらいは、いいんじゃないの?」

「団長だけならいいけど……どうする、レヴン?」


 あまり乗り気ではない息子たちだったが、最終的に砦の騎士団長にだけは、声をかけることにしたらしい。

 ほっと安心した様子のツヴァイが立ち去ると、ひとりで眠るには大きいが、だからといって親子で眠るには小さい寝台に、親子で潜り込んだ。というのも、ノルジスが寝台の中心を陣取って本を広げたら、右にレヴン、左にセヴンが潜り込んできて、ノルジスを挟んで勝手に「おやすみ」と宣言したからだ。

 なんだこの愛情過多な子どもたちは、これはなんの我慢大会だ、と思いつつも追い出さないのがノルジスである。


「きみたちね……。おやすみ」


 懐かれているのは、慕われているのは、素直に嬉しいノルジスである。ぽんぽん、と息子たちの肩を撫でて安眠を促すと、自分は少量の明かりで本を読み明かした。どんなときでも本を読もうと思う気持ちがあるから、たまに自分自身に対して便利だと思う。


「熊が鎧着て帯剣してたけど、あれって知力あるのかなっ?」


 翌朝、朝食を終えてから砦の騎士団長に挨拶してきたセヴンとレヴンが、声を揃えて明らかに失礼な発言をしてくれたので、とりあえず一発ずつ頭を叩いておいた。


「この世界に獣人はいないよ」

「えっ、いたよっ?」

「団長は人間です」

「うそ、あれ熊だって!」

「もう一発叩かれておこうか、セヴン」


 熊な騎士団長には逢っておくべきだったか、とちょっと惜しい気もしながら、その日も首都の城に赴くべく支度をすると、一時間後には竜の背に乗って空を飛んでいた。


「わがあるじのことを、お話しておきます」

「ああそうだ、そういえば竜騎士さんのあるじさんに、僕らは呼び出されたようなものだったね」


 最初に訊くべきだったが、セヴンもレヴンも国仕えの魔術師になることばかり話していたから、うっかり訊きそびれた話題だ。


「わがあるじは、名をアルマ・フェリトワ・アルファンデス。アルファンデス王の第二子、継承権第三位のお方です」

「竜騎士だから王サマがあるじかと思ったんだけど、違うんだね」

「はい。わたしはフェリ殿下の部下です」


 もちろん王に対しての忠心はあるが、それ以上に王の第二子への忠心が強いらしいツヴァイは、逢いたいと言っている王の第二子フェリトワのもとへノルジスたちを連れて行くようである。王には逢わなくてもいいと言われた。


「王サマに挨拶しなくていいの?」

「魔術師団を統括しておられるのはフェリ殿下です。王は魔術師にそれほど興味はありません」

「ふぅん……魔の増加を気にしているなら、魔術師は防衛の要だろうに」


 息子たちやツヴァイには下の景色を見るなと言ったが、自分は見てもなんともないノルジスは視線を下に送り、魔が増加しているという様子を窺う。

 確かにあちこちから、魔、と人々から称される存在の気配が確認できた。これくらいなら人間の手でも討伐くらいはできるが、やけに気配が多い。というより大きな気配に、少しだけ首を傾げた。以前より大きな魔が、世界を闊歩するようになったのだろうか。いやそもそも、魔が溢れる理由がどこにあるだろう。魔は、一定の数から揺るがないはずだ。多くもなければ少なくもならない。


「なにか感じられるようですね?」


 目ざとくノルジスの様子に突っ込んだツヴァイは、ちゃんと学習しているようでノルジスの視線の先を追わない。


「感じるというより、僕は魔に近いからね。気配は、僕も魔も、似たようなものだと思うよ」

「……そういえば」

「魔王と呼ばれたくらいだからね」


 苦笑しながらツヴァイに視線を戻す。複雑そうな顔をしていた。


「なに?」

「あなたは、魔術師であられる」

「そうだね」

「なぜ、魔王と?」

「そう呼んだのはきみたち人間じゃないか」


 勝手に、ノルジスを魔王と呼んだのは、人間たちだ。だからノルジスは、自分を人間ではない存在だと、思うしかなくなった。いや実際に、人間とは生態が異なっているかもしれないから、人間ではないのだろうけれども。


「誰かがノルジスを魔王だと言った。だからノルジスは魔王になったんだよね」


 と、セヴンが、笑いたいような憎らしいような、そんな変な顔をしながら言う。するとレヴンも、黒竜を操る手綱を握り締めながら振り向き、変な顔をした。


「ノルジスを魔王にしたのは人間だよ」


 セヴンの言葉も、レヴンの言葉も、まるでツヴァイを責めているようだった。

 この息子たちは、とノルジスは軽く息をつく。

 いったいどこで、そんな情報を仕入れてきたのか。魔王だとか、そんな話は一度もしたことがないのに、わかってしまうなにかが自分にあったのだろうか。


「……もう一度、お訊きしたい」

「なにかな」

「あなたが魔王だというのは、本当か」


 ツヴァイの問いに、ノルジスは大きく深呼吸して、微笑んだ。


「誰かがそう言ったなら、そうなんじゃない?」


 今度はツヴァイが変な顔をした。


「随分と他人任せな……なんというか、投げやりな言葉ですね」


 ツヴァイの言葉は的を射ていた。


「まあ、どうでもいいからね」


 突っ込まれたくない、と思う。本当に、そんなことはどうでもいいのだ。


「僕は帰りたいと願っているだけだし」


 びくりと、レヴンとセヴンが震え、心配げな顔を寄こした。だいじょうぶだよ、と息子たちに微笑みかけ、読みかけの本に手を伸ばす。

 ずっと読み続け、先が気になる程度には面白いと思い、繰り返し読み続けている本は、幾度も手にするからもう背表紙はぼろぼろだ。紙質も、幾度も捲るから、最初はつるつるしていたのに今はざらざらとしている。繰り返し読んでいる本なら、内容も完全に覚えてしまうだろうが、眠るたび忘れてしまうから繰り返し読んでいるのであって、それでも読み終えてから眠るとまた忘れてしまう。いったい幾度この本を読み返せばいいのだろう。わからない。


「僕はもう、二度と、故郷の地を眺めることができない……」


 背表紙に書かれた題名は、この世界で読める文字ではない。ノルジスだから、読むことができる文字だった。けれども、この文字も忘れてしまう。なんて書いてある本だろう、と手を伸ばして漸く、いつも忘れてしまう本だということに気づく。忘れないようにしよう、そう心がけているから、忘れても本を見れば思い出すことができる。


「思い出、なんだろうねぇ……」


 その郷愁だけで、忘れないようにするのが手いっぱいだった。


「ノルジス……」

「ん。だいじょうぶだよ、レヴン、セヴン。僕にはきみたちがいるからね」


 できることなら、このきらきらした息子たちを、孫だよ、といって両親に紹介したい。紹介したかった。できないのだと、わかっている今でも願ってしまうくらいに、郷里への想いがあった。


「今さら無理だけどね」

「なに……?」

「あれからもう何百年も経ったから」


 諦めた、とは言い難いけれども、半ば認めてしまった。自分はもう、帰れない。人間でも、なくなった。


「……泣きたいの、ノルジス?」

「なんで? 僕はもう泣かないよ。悲しいことは、もう昔の記憶になったからね」

「泣いてもいいよ、ノルジス」

「きみが泣きそうだよ、セヴン。どうしたの」

「ノルジスが悲しそうだから。おれにわからない目で、遠くを見るから」

「おやおや。まだ子どもだね、セヴン。おいで」


 泣きそうなセヴンを腕に抱きしめると、手綱を握っていたレヴンも少し場所を移動して、寄り添ってきた。なんだか息子たちが可愛らしく萎れているので、ノルジスは朗らかに笑んで息子たちを撫でた。


「魔王……なのですね」

「そう見える?」

「人間の寿命は、長くとも一五〇年。数百の年を超えることは、できません。超えることができるのは魔、そして魔を統べる王、つまり魔王です」

「……そう。それなら、僕はきっと、魔王なんだろうね」


 忌み子だとか魔王だとか、そんなことはどうでもいい。ただノルジスは、帰りたかっただけだ。忌み子だとか魔王だとか、そう呼ばれない郷里に、ただ帰りたかった。半ば諦めている今でも、諦めたくない気持ちがあるから郷里に縋っている。この世界の故郷を切り離せずにいる。

 ああ、早く眠りたい。眠ってしまいたい。眠ればそんな気持ちも忘れてしまうから。

 目覚めたとき、それでもきっと、自分はこの世界に在るのだろうけれども。







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