ご馳走様。その悩み、美味しく頂戴しました。――妖怪カタルシスのつぶやき
【美味なる憂鬱】
あらあら、とても良い匂いがするわ。極上のご馳走の気配。
……我慢、我慢。先にお茶を飲んで落ち着かなきゃ。これから先は、あの「優しいおばあちゃん」を演じなきゃいけないんだから。少し疲れるけれど、これも美食のため。
私は妖怪カタルシス。
昔はただの「モヤモヤした霧」のような存在だったの。誰かが号泣したり、理不尽な怒りをぶつけたりして感情を爆発させた瞬間に、背中にスッと取り憑いて、その感情を「栄養」として吸い取るだけの存在。
けれど、もう何百年も前から、私は「グルメ」になったのよ。
人の心に溜まった「澱」は、言葉にできないほど美味しい。でもね、質が大事なの。心根の腐った者の澱は重油のようにドロドロで、とてもじゃないけれど食べられたものじゃない。だから、私の茶屋にはそういう人は絶対に足を踏み入れさせないの。
もっとも、今の時代の人間は警戒心が強いからね。そのままの姿で現れても不審がられてしまう。だから私は、とっておきの「妖術」を使うのよ。私の得意中の得意。相手の警戒心を霧散させ、心の壁を無防備に解き放つ、あの甘美な術をね。ひとたび術にかかれば、誰だって私をおばあちゃんだと思い込み、安心して心を開いてくれる。
私は外の世界に蜘蛛の巣のような網を張り、繊細に調整しているわ。私の好みの味、純粋な怒りや理不尽を抱えた「純度の高い澱」だけを、ここへ導くために。
ここへご馳走がやってくると、私は一杯の緑茶を差し出すの。
このお茶は澱を少しだけ解かし、私が食べやすくするための調味液。でも、濃すぎてはダメ。一杯だけ。一杯で十分なの。
時に感情が硬すぎて馴染まないときは、甘い飴をひとつ添える。これで浄化が早まって、最高の味に仕上がるのよ。
ほら、目の前のご馳走が、お茶でほぐれ始めたわ。
そう、この味。口の中で転がして味わう、この香り……。
あらあら、もう終わり? 今回は少しばかり少なかったわね。……あぁ、なるほど。指の先の人の強い感情が伝わったから、そちらへ引っ張られたのね。
ご馳走としての役目を終えたあなた、もう帰っていいわよ。
お引き取りの印に、この「折り鶴」をあげるわ。これを持っていれば、私の蜘蛛の糸に二度と引っかかることはない。私は美食家だから、一度食べた味はもう二度と食べないの。新しい味の方がいいものね。
「恐ろしい」なんて顔をしないでちょうだい。
人間は心が救われて、私はお腹が満たされる。Win-Winの契約でしょう?
私のご馳走になって救われたんだもの。そして私は美食が満たされる。誰も損をしない、良い仕組みよね……。
ふふふ……。
さて、今日はどんなご馳走が私のもとに来るのかしら。




