マル VS ナタリア
「急報、急報です!」
ジュリは槍隊を薙ぎ払う剣を一瞬止め、苛立った視線を向ける。
「なんだ?このくそ忙しい時に・・・・・・」
伝令は息を切らし、額の汗を拭いもせずに言葉を続ける。
「部隊長ジンメル殿が討たれました!南側に橋頭堡を築かれています!」
ジュリの目が見開く。剣を握る手がわずかに震えた。
「なんだと!?南側の敵は全て丘の裏側を攻めてたんじゃなかったのか?」
「それが・・・・・・敵の師団長エレーナが、少数の精鋭を率いて直々に特攻した模様です。ジンメル殿は・・・・・・それを止めるべく動いたのですが・・・・・・」
ジュリは口を開けたまま、驚きの余り一瞬固まった。戦場の喧騒が遠くに聞こえる。彼女の頭の中で、戦況の盤面が急速に再構築される。
「・・・・・・つまり、この目の前の攻撃も、北も南も、全てが助攻に過ぎず・・・主攻は南の丘だったということか!?」
伝令が慌てて頷く。
「アルスさまは!?このことは知ってるのか!?」
「いえ・・・・・・それが、わかりません」
「わからないっ!?なぜだ?」
伝令は顔を伏せ、震える声で答える。
「それが、その・・・・・・本陣に陛下はいなかったのです」
「行き先は?」
「わかりません」
「なっ・・・・・・!?」
ジュリは再び口を開けたまま、今度はしばらくの間、そのまま固まった。戦場の風が彼女の髪を乱し、遠くから聞こえる悲鳴が耳に届く。頭の中で、アルスの姿が浮かぶ。アルスがいなくなっている。アルス不在で本陣が空だということは・・・・・・。
「それでその・・・・・・せめてジュリさまにお知らせしようと・・・・・・」
ジュリは深く息を吸い、吐き出した。彼女自身も状況が飲み込めない。だが、将が取り乱しては兵にも伝染する。彼女は剣を握り直し、伝令に鋭く命じる。
「南は?」
「は?」
「は?じゃない!!南はどうなってると聞いてるんだ!!ジンメルが討たれたら誰が守備してるんだ!?」
「わ、わかりません。騎士団が乱入してきたせいで、丘の上も下も戦場が混乱してまして・・・・・・」
伝令は取り乱すばかりで、言葉が出てこない。ジュリは小さく舌打ちし、視線を北斜面に戻す。ナタリアの剣がまだ閃いている。死兵の波が止まらない。
「・・・・・・くそっ」
ジュリは周囲を見回し、マルを呼んだ。鬼人族の少女は、短双剣を血に塗れたまま、息を荒げて駆け寄る。
「マル、一時的におまえにここの指揮を任せる」
マルは目をぱちくりさせる。
「・・・・・・私に?」
ポカンとした表情を無視して、ジュリは続ける。
「事態は一刻を争う。私は今から南に救援に向かう。おまえは攻め上って来てる第六師団の副将を、北口でなんとしても押さえろ。奴はおまえしか止められない。出来るな?」
マルは一瞬、目を逸らしたが、すぐに瞳をジュリに向けた。つい先日まで王を暗殺しようとしていた自分が、一時的にでも軍を預かるなど、夢にも思わなかった。頭がついていかない。だが、戦場に迷っている暇はない。それだけは、彼女にも理解できた。
「・・・・・・出来る」
マルは小さく頷き、短双剣を握り直す。ジュリはわずかに笑みを浮かべ、剣を肩に担ぐ。
「兵500は私について来い!南の救援に向かい、敵の師団長エレーナを討つ!!」
ジュリの声が北斜面に響き渡る。ファニキア兵が一斉に視線を向け、士気が上がる。彼女は馬に飛び乗り、血の臭いが濃い南斜面へ向かって駆け出した。背後で、マルが残された兵たちに叫ぶ声が聞こえた。
「北口を死守する!誰も通すな!!」
ジュリは振り返らず、馬を飛ばす。心の中で祈るように呟く。
(アルスさま・・・・・・無事でいてくれ。エレーナの首は、私が取る・・・・・・!)
戦場はさらに熱を帯び、丘の南北で二つの嵐が交錯し始めた。
北側の丘斜面は、血と土煙で覆われていた。ナタリアの死兵たちは、狂気に駆られて盾壁を叩き続け、槍の穂先がファニキアの前線を削り取る。ナタリア自身は馬上から剣を振るい、時折衝撃波を放ってはファニキア兵を吹き飛ばしていた。オーラの粒子が舞い、岩が砕け、悲鳴が連続する。そのとき、低い跳躍音が響いた。
鬼人族の少女、マルがナタリアの前に躍り出た。短双剣を交差させ、ローブの隙間の瞳が燃えている。
「副将・・・討つ」
ナタリアは馬上で一瞬眉をひそめ、剣を構え直した。彼女の瞳に、冷たい軽蔑が浮かぶ。
「小娘が・・・・・・邪魔だ!」
ふたりの剣が交錯した瞬間、丘の北斜面に衝撃波が走った。マルは低く身を沈め、短双剣を風のように振り回す。彼女の敏捷が炸裂し、ナタリアの死角を狙った斬撃が連続する。左から右へ、右から左へ、交差する刃が空気を切り裂く。ナタリアは即座に後退し、剣を横に払って受け止める。
金属の絶叫が響き、火花が散る。その瞬間、マルの体内の魔素が膨張しオーラが揺らめく。軽く衝撃波を放って自身の身体を宙へ飛ばす。そして「空歩」で宙を蹴って、ナタリアに向けて一気に加速した。ナタリアは、マルの動きが理解できず一瞬身体を動かす判断が遅れる。刹那、マルの身体から放出されたオーラはふたつの短剣に集束し性質が変化した。
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