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ジオの夢 五十七話 快気祝いと騒動

ーーーーーーーーーーーー

『兄貴、どうすんだ?多くの部族長が騒いでいるぞ。宗家の当主が居ない西に恩などないとな。攻めるなら今だと。』

『お前もそう思うのか?宗家と西に勝てると・・・』

『ああ、やるなら今なのだろう。しかし、俺は・・・解らん。トレドの時、あれだけの兵を連れて行ったのに勝てる気がしなかった。それどころか、相手にもされてなかった。だけど少年が、俺に声を掛けてくれて、歓心が向いたんだ。びっくりしたよ。少年があの強者たちに一目置かれ、まして俺にまで歓心を向けさせる存在なんだってね。あの少年が一対一にしてくれて内心ほっとしてたよ。俺が勝てなくても、少年は口が悪く罵るが、許してくれるから・・・』

『ああ、だが、しかし今度はないぞ。解るだろう。当主が弱っている時に攻め込むんだ。当主の回りが許さないぞ。』


『トレドの後の、アイリーン様と俺はゴドロノフに行ったのは知っているだろう。』

『ああ・・・』

『遊びに行った訳ではないぞ。宗家の戦力を見に行った。当主も隠さず見せてくれた。いいか、俺が会っただけで、カイ様と対峙出来る者が四人はいたんだ。』


『そんな者達と戦って勝てるか?まして怒りを買ってだ。下手すれば草原の民五十万殲滅されるぞ。』と、俺は弟を見る。


『・・・兄貴、本当に戦いたいのはメイリン様なんだよ。だから、どうしようも無いんだ。誰かがメイリン様を担いでという空気になってるけど、ここで戦功を挙げて代表になりたいんだよ。』と、弟は項垂れている。

『メイリン様は宗家を、簡単に考え過ぎている。会った時に、少年は気を見せていなかったから・・・それにアイリーン様が気に入っているのも、面白く無いんだと思う・・・』と弟が言う。


『宗家当主は、目覚められた。お見舞いに行く事にした。アイリーン様も行く。お前も来い。』

『目覚めたのか?少年が・・・本当に?』

『ああ、確かめるのもあるがな。』


ゴドロノフから馬に乗り、トレドを先頭に、俺シレン、アイリーン様、メイリン様、弟のダレンで北の都と呼ばれる地に入った。

ゴドロノフの総督から許可を貰っている。案内は出せないが、トレド殿が居れば大丈夫だからと言われた。トレド殿を見知っている者は多いからと。


この地は北の都と呼ばれる、宗家当主が代々住む土地だ。余所者がこの地に足を踏み入れる事はまずないと言われる。

この地に足を踏み入れて、その意味が理解出来る。数里進む度に、刺さる圧、そして納得して消える圧。何度繰り返す事か。

『兄貴、何だか大丈夫だろうか・・・』と、弟が声を掛けて来る。

『ああ、大丈夫だ、気にするな。』と俺。

『アイリーン様は如何ですか?』と、訊いてみる。

『大丈夫よ。私には優しいわ。』と、アイリーン様が笑っている。

アイリーン様には優しいのか、思わず苦笑が洩れる。

メイリン様はどうだろうか?特に、気にしている様子はないな・・・

『あの館では、有りませぬか?二階建ての大きな屋敷ですね。門も開いていますよ。』と、トレドが言う。



門より、見知った若い方が駆けて来られる。

ゴドロノフでお会いした事のある方、エラム殿であったな。

『トレド様、アイリーン様、シレン様。それにメイリン様、ダレン様。ようお越し下さいました。ご案内申し上げます。』と、トレドの馬の轡を持って歩き出される。

門で馬を預け、館へと案内される。


『こちらで、お疲れをお取り下さい。汗なども流せます故、ご準備が整いましたなら、これにてお呼び下さい。レイ様の処へご案内申し上げます。』と、エラム殿は去って行かれた。


勿論、アイリーン様とメイレン様とは別室で、汗を流し、着替えをして待っている。

『兄貴、怖いな。』と弟。

『ああ、強者は一人二人でないからな・・・嫌でも伝わってくるな。』と俺。

しかし、弟は、よく鍛練したものだ。これが感じられるとは。

『メイレン様はどうなんだろう?』と弟が呟く。


エラム殿に広間に案内され、広間に入って行く。何と、大層な広さの部屋だ。奥に居られる方が小さく見える。歩行の妨げにならぬよう食台があちらこちらに置かれ、多くの料理、酒も乗っている。豪勢なものだ。

しかし、広間の様子に気を取られたのは一瞬だ。広間の奥だ、渦巻く気の中に、一際強い気を発している御人がいる。カイ様を思い浮かばせる、見事な体躯だ。紛う事のない武人の理想形だ。羨ましい・・・


エラム殿が、奥より戻られた。

『どうぞ、こちらへ』

ーーーーーーーーーーーー


『トレド様、アイリーン様、シレン様、それに、弟殿と妹殿も、わざわざ恐れ入ります。』と、挨拶をした。

『坊殿、良かった、良かった』とアイリーン様が抱いて下さる。

『うん、うん、体力は弱いようだが、何も変わらん。安心したぞ。』と、仰って下さる。

『あはは、ご紹介を。こちらが、ガイウス・ロンバニアです。ガイ、こちらはアイリーン・ハーン様、その妹メイレン様、そしてシレン・エピドゥス様にその弟様だ。うん?名を知らんとは変だけど・・・まあ弟殿で良いでしょう。』と、アイリーン様がやっと離して下さった・・・


弟殿は苦笑しているが何も言われない。気に入っているのかな。

『弟殿、随分腕を上げられたな。うん、大したものだ。』とオレが言う。

『そ、そうか。しかし、まだ兄に追いつけん・・・』と弟が悔しそうに言う。

『ふ~ん、ではここにいる間に一人付けて差しあげよう。レーベン殿、お手数です。こちらに。』


近くで、ジンツァー殿と飲んでおられたレーベン様が近くに来られ、礼をされ、言われる。

『レイ様、何でございましょう?』


『はい。実はこの弟殿が、大層、腕を上げられたのです。半分、諦めておったのですが、人は変われるものだと、弟殿を見直しました。そこで少々手助けをと思い、十日程、弟殿を教えてやってほしいのです。シレン殿を超えるのはまだまだでしょうが、近づいたと思う処までは達っしましょう。でレーベン殿にお願いしたいのですが?』とオレが言う。


『畏まりました。。変わらず、手を差し伸べられますな。』とレーベン殿が笑われる。

『まあ、強くなる者は痛みを知る、と云うところでしょうか。』と、笑っておいた。


レーベン殿は、

『成る程。』と言われる。

戸惑う弟殿。この者が俺を教える?そんな顔だな。レーベン殿も気が付かれたな。

レーベン殿は、気を上げられ挨拶をされる。

弟殿も、不機嫌なメイレン様も驚かれる。

レーベン殿が笑いながら去って行かれる。


ガイがまなじりを上げる。

『レイ、お前の所には一騎当千は何人いるんだ?』と、ガイが、呆れて訊いて来る。

『うん?知ら無かったか?』

『ああ。』

『現役は、陰の三人と支族長の四人だな。他に、引退した方々も腕は落ちていないだろうし・・・』と考える。

『・・・もうよいわ。兄が、言っておったぞ。宗家の一騎当千の数が不明だから、戦えんと言った意味が分かったわ。兄も来るつもりだ。だから、俺は帰る。』と、ガイが言う。

『そうか。ルシール様にも礼をな。』

『ああ。』とガイは広間を出て行く。


シレン殿が、快方に向かっている事を喜んでくれた。しかし、目の隅に映る妹殿が気になる。

メイレン殿は不機嫌だな。・・・何かするつもりか。


と、メイレン殿が気を放つ。ユリア様に向かって。ユリア様は動じない。ただ、放たれた気を、躱すでもなく、受けるでもなく、ただ通していかれる。そして、メイレン殿を睨まれる。

メイレン殿は何が起きたのか理解出来ずに、呆けておられる。

その刹那、

『メイレン。お前、何しに来た?私の顔を潰しに来たのか?』とアイリーン様が怒られる。気の入った低い声だ。

『姉様、そんなつもりでは・・・』と、メイレン殿が、アイリーン様の本気の怒りに慌てておられる。

今まで、本気で怒られた事は無いのだな。


『草原の指導者、統率者などというものが欲しければ、くれてやる。しかし、この代表は私だ。勝手な事は許さんぞ。二度とするな。よいな。』と更に言われる。

『・・・』下を向くメイレン殿。


『アイリーン様、妹殿は世間がお分かりになられていないようだ。私は元は傭兵だ。本来、そのような事を仕出かす馬鹿者は傭兵でなくとも、腕一本、足二本、ひいては首を落とされる。それが一国の当主であっても、力無き者、思慮なき者は同じ目に会う事を胆に命じて於かなければ、生きていけぬ。ここで、それを教えて差し上げよう。』

とユリア様が気を上げられる。


メイレン殿の顔が蒼く変わられる。

皆が注目し始めたな。困ったが・・・


『妹殿、その大層な剣を抜かれよ。そこそこお強いのは分かる。しかし、そんな剣では役に立たぬ事もお教えしよう。こちらに。』と、ユリア殿が広い所に移られる。


『どうされた?我ら宗家の者は常在戦場。いつ死んでも悔いはないが。私が顔だけでレイ様の傍らに、ましてガイ様のお相手をしているとでも思われたか?人も見れず、人を侮る者が上に立てるとお思いか?』


ユリア様はメイレン殿がお嫌いか・・・どうしたものか?

『ユリア殿、そこ迄に。坊殿も困っておられよう。ユリア殿も、若気の至りで、夏の大炎様と打ち合ったと聞いておるが。若いとはそう云う者であろうが。それに、今は快気祝いじゃ。余興になされよ。』と、婆様の声。


『これはシュニッツァーの婆様。確かに。余興はこの辺りに致しましょう。』と、ユリア様が引いて、他の集まりに移られる。

メイリン殿はその姿に悔しさを滲ませている。


『婆様。よくお越し頂きました。』と、婆様を抱いて差し上げる。

『坊、良かった、良かった。また抱けるとはのう・・・』と婆様が泣いて下された。中々に続かれる。


落ち着いた婆様が言われる。

『どっちにしても妹殿は足りん。カリーナ、基礎を教えてやれ。ユリア殿が何を言われたかも理解出来んようじゃ、怨みだけが残る故な。』と、婆様が私を抱いて下さっているカリーナ様に言われる。

カリーナ様は笑って頷かれる。

そして、そっとオレに言われる。

『暫く、滞在される理由が出来て、ようございました。これで、婆様のご機嫌も直られましたし。』と、カリーナ様が微笑まれられた。

そうなのか・・・婆様がご機嫌であるなら良いな。


それに、妹殿を鍛えるのは良いな。きっと馬鹿な考えも飛ぶだろう。

それを聞かれたアイリーン様も婆様に挨拶と感謝をされている。

アイリーン様が、それを愚図るメイリン殿に、地位を譲る事を条件に承知させたようだ。まだ、不満を言うメイリン殿を、シレン殿と弟が部屋に連れて行く。


残られたアイリーン様に私が訊く。

『譲るなどと、宜しかったのですか?』

『ああ、最初からそのつもりであったからな。シレンも引退する。二人で決めた事だ。』


『草原の民は、シレンと五十万の兵がいれば、西など簡単に跪くと。自分らの力も知らずにな。だから、坊が危篤と聞いた時は焦った。夏との約定が消えるからな。そしたら、メイリンを立てて、西へと云う話よ。本に、馬鹿ばかりよ。愛想が尽きた。多分、メイリンが立てば内乱じゃ。夏に攻められ、滅びよ。困ったわ。しかし、坊が戻ったと聞いた。でさっさと譲る事にした。今であれば内乱で済む。下手に、外になど出られた日には殲滅されるわ。また、出られた外も迷惑であろうからな』と、笑われる。


『で、相談だ。ゴドロノフに私とシレンに住む許可をくれんか?』

『ゴドロノフから西を見て回りたい。草原に居ては大海が見えないからな。』と、アイリーン様は楽しそうに笑われる。





久々に、書く事が出来ました。また空きますが、書きます。

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