ジオ 二部十三話 ジョング
二十人程が、森の中より現われる。皆が緊張と警戒を露わにしている。ハーバーは、それ程気にしていない。変わらず、木の根元に座っている。二十人の中に凄腕と思われれる者が、居ないのがハーバーには分かっている。
二十人がハーバーに近づくと回りを取り囲む。其内の代表らしき者が、ハーバーに声を掛ける。
『何処からきた?何しに来た?』と、男は喧嘩腰だ。
ハーバーはため息を吐くと話し出す。
『砂漠に居た。草原があった。涼みに草原に入った。そしたら向こうに居た。』と指をさす。
『草原の筈が、森がある。何処に飛ばされたのかと思った。見回したら此処に倉庫が見えた。だから此処は何処か、聞きに来た。此処は何処だ?どうしたら、来たところに戻れる?知っているか?』と、ハーバーが男を見る。
回りの者達が顔を見合わている。
なんか変か・・・とハーバーが思う。
『草原かどうかは知らんが、此処は砂漠に有る事は確かだ。それで、戻る方法は知らん。』と、その代表らしき男が答える。
ーーー 坊。聞こえてたか?
ーーー ああ、ハーハー。聞こえてたぞ。
『剣を渡せ。一緒に来てもらうぞ。』と代表の男。
『嫌だな。付いていかねばならん理由は無いな。オレはここから動かん。』とハーバー。
『おい、痛い目に遭いたいのか?』と男が言うと、
他の者も身構える。
ハーバーはゆっくりと立ち上がると、大剣を背中の鞘から抜き、地面に剣先を刺し、構える。
『痛い目では済まないが、いいか?』と男を睨み、回りを、見渡す。
大剣が白銀の白さをを放っている。
『そ、それは白銀か?』と、男が聞く。
『ああ、分かるか?切れ味は良いぞ。試してやろうか。俺は腕も良いから心配するな。』
皆がハーバーの言葉にたじろぐ。
ーーー ハーバー。あまり脅かすな。何処へ連れて行くつもりか、気になる。今からそっちへ行くから待ってろ。
ーーー わかった。
『ああ、わかった。何処へ連れて行くつもりだ?付いて行っても良いぞ。』とハーバーが剣を背中の鞘に収めて言う。
『教祖様の処だ。』
『教祖様?』
『教祖様が、どうするかお決めになる。』
『そうか・・・ちょっと待て。今、仲間が来る。仲間も一緒に行きたいらしい。』
『仲間?』と男が驚いた顔をする。
ジオは結界に自分の力を加えて穴を開けてみる。穴は簡単に開いた。その結界は反発はしない。 普通は反発し穴を開けさせまいと力が加わるはずだ・・・ジオは首を傾げる。
今度は大きく開けてみる。やはり、反発は無い。その向こうには、遠くに森がみえる。
ハーバーの言っている通りだ・・・しかし、やはり力はかからない。ジオが力を消すと、結界が閉まる。
この結界はオレの言う事を聞くのか・・・とジオが笑う。
『母者、サラ、大母、ネティ、ゼルト、。向こうへ行くぞ。テントでは大き過ぎるから馬車に代えるぞ。移ってくれ。』
皆が馬車にぞろぞろと乗り込む。ゼルトとジオは馭者台に座る。
馬車が結界を抜け、景色の変わった中を木造の倉庫らしき物に向かって進む。勿論馬車を引く馬は居ないし、馬車の車輪は回っていない。しかし、馬車は滑るように倉庫らしき物に向かって、そこそこの速さで近づいて行く。
『坊。何で森がある?先はなかったろうに・・・』とベロニカが聞く。
『大母。理由は分からんが、やり方は分かるぞ。馬を一緒に飛ばす時の目隠しと同じ方法だ。母者、サラ、ゼルトは知っているぞ。』
呼ばれた三人は頷く。
『最初は、私も、サラも騙されたのよね。地面を走っていると思ったら、空を飛んでたわ。』と、レディティアが笑う。サラも微笑む。
馬車は、ハーバーと男達の近くで止まる。男達は馬車に馬が従けられていないのに不審を覚えている。
『坊。テントはどうした?』とハーバー。
『ああ。森に入るには大き過ぎるからな。馬車に替えた。ハーバーも乗るか?』
『俺は傍を歩こう。』
『そうか・・・ところで、頭はどいつだ?』
『あの、先頭にいるやつだ。』
『分かった。おい、お前。元々は何処からきた?』
『俺らは元々から此処だ。』と、怒った様に男が言う。
『ふーん、しかし結界が有った筈だ。結界があるのにどうやって出入りした?』
『結界は部分的に空いていたんだ。それが、ある時から閉まってしまった。出ることは出来た。しかし入れなくなった・・・』
『それで、今は入ることは出来るが、出れないと云う訳か・・・』と言うと、ジオは考えている。
『坊。此処に居ても何だ・・・教祖とか言う奴に会いに行こう。』とハーバー。
『それは、そうだ。おい、男。連れて行け。』とジオ。
『・・・付いて来い。』と男。
男達が森に向かって歩き出す。男達はそれぞれに振り返って、馬車を見ては何かを言っている。ジオは気にせず目を瞑っている。ハーバーは傍らを歩きながら、左右に注意を払っている。ゼルトも前を見ている。道は曲りくねっているが、馬車が通るには十分の広さが有る。整備もされている。
暫く、木々しか無い中を進んて行くと、開けた場所に出る。広場があり、その中心には、教会の様な屋根が尖った建物が有る、更にその奥には平屋の家々が連なっている。広場の右脇、森の手前に、木で作られた檻の様な物が三つ並んでいる。それぞれに人が入っている。
『ハーバー。あれが見えるか?』とジオが聞く。
『ああ、あれは罪人の檻かな・・・一つに十人くらい入ってるぞ。』
『声を掛けてみろ。知った気配が感じるぞ。』
『そうか・・・』
ハーバーがその檻に近付いて行く。
『オレはハーバーだ。誰かいるか?』と、大きな声で尋ねる。
『ハーバー。ジョングだ。此処だ三つ目だ。』と弱々しい声がする。
ハーバーは三つ目の檻の傍らに行くと、前に出て来たジョングを見つける。
『おお、ジョング。久しぶりだな。あまり、元気そうじゃないな・・・大丈夫か?』
『ああ、ハーバー。それより、一人か?ハーバーも捕まったのか?此処からは出れない。早く逃げた方がいいぞ。』
『ジョング。心配するな坊が居るからな。』
ハーバーは振り返ると、
『坊、ジョングがいるぞ。』と大声で呼ぶ。
坊は、馬車から地面に降りることなく、そのまま宙を飛んで、三つ目の檻の前に行き、ジョングの目の高さに浮いている。馬車も坊の後を付いて来る。
それを見ていた男達がざわついている。それを気にすることも無く、ジョングに話し掛ける。
『ジョング。盗みでもしたか?久しぶりだと言うのに、こんな形で会うとはな。』と。
『坊は、相変わらずだな。俺が盗みなんかするものか・・・』
と、ジョングの声が途中で止まる。ジョングがジオの後ろを見ている。
それを見たジオが振りかえると、レディティアの指がジオの額を弾く。ジオが額を両手で押さえて踞る。ハーバーとゼルトが呆れた顔でジオを見る。
『ごめんなさいね、ジョング。ジオは大変そうな所に軽口を叩くなんて・・・・』
サラも、ベロニカも、ネティも馬車の外に出て来て、ジオを見て困った顔をしている。
『これはレディティア様、サラ殿にゼルト殿。ご無沙汰しております。このような処から挨拶を申し上げなければならないのは、大変恐縮しております。』とジョングが礼をする。
ゼルトとサラも礼を返す。
『いいのよ。事情がお有りなのでしょう。』とレディティア。
『ジオ。早く出してお上げなさい。』と怖い顔でジオを睨むレディティア。
『はい、母上。』とジオが両手で額を押さえたまま答える。
ジオが手を上げる。檻の屋根が後に飛ぶ。そして四方の柵がそれぞれ四方にに倒れ、檻の用を成さなくなる。三つの檻が同時に同じ姿になる。




