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ジオの夢 幕間十一話

 

今、橘病院の理事長室にいる。漣さん、堅田弁護士、片岡税理士、高田看護部長、田中事務長もいる。理事長室の楕円のテーブルは大きい。十五人は座れる。

福田外科部長、大久保内科部長の両名を待っている。


『お待たせいたしました。』と福田外科部長が言われる。一緒にもう一人の白衣の男性が入って来られる。その方は私を見ると、会釈をされ、直ぐに目を逸らされる。そして、福田部長と共に空いている席に座られる。

この方が大久保先生か・・・向こうは私をご存知のようだが、私は分らない・・・


『全員が揃われましたので、始めたいと思います。この度、色々な不祥事がこの病院及び私の回りで起こりました。私の不甲斐なさで皆様にご迷惑をお掛け致しました事をお詫び申し上げます。』と、私は話し始める。

その細い経緯を含め、高田さんの事、漣さんの事を除き全て話した。勿論、私の記憶が曖昧と濁しはしたが、その事も話した。


福田先生も大久保先生も驚いている。おそらく、内容ではなく、立板に水の如く説明する私に対してのようだ・・・

彼らの知っていると云うか、最後に会った時生君(..)は不機嫌な顔で睨みつけるだけで、何も言わない少年であったようだ・・・


『で、此処にお集まり頂きましたのは、病院の新たな理事にご就任頂きたいのです。皆様と共に、母の作った病院のさらなる飛躍が出来たらと思っております。』と私。

『一ついいかな?』と大久保先生が言われる。

私は黙って頷く。


『私は、美苑先生を尊敬していた。だから今までやってきたんだ。それが全く知らない人とやれと言われても納得はできない。』と、目を合わせる事なく言われる


『大久保先生。何か勘違いされておられませんか?この病院は母が一人で資金を出して作った病院です。その母が亡くなった以上、この病院の権利は私の物なのです。極端な言い方をすれば、私のやりたいようにするつもりですし、その協力者を理事にするつもりでおります。で、納得がいかず、協力が出来ないと言う事であれば、理事にはできません。今後ご自由になさって頂ければと思います。』


『時生君、随分強くなったね。』と福田先生が言われる。

先生の顔からではその真意は分からないな・・・好意か悪意か・・・

『先生。私が今までに、何回、命の危機があったか、ご存知ですか?』

『・・・』福田先生も大久保先生も無言だ。

『家族が亡くなり、それから始まりました。工事現場の鉄骨落下、トラックの居眠り運転、そしてデパートのビル火災。ビル火災では多くのた方が無くなりました。そして、病院での意識不明。』


『ビル火災では私の所為で、多くの方が亡くなりました。他の事故にあっても、多くのかたが事故に会われ怪我を被る事態と為りました。それで出歩くのを、極力控えるように致しました。』


『先生方。その時の私の気持ちが分かりますか。自分が出歩くと、多くの人が亡くなる。母が生きていたら、悲しんだでしょうね。人の命を救う仕事をしていた母ですから。でも、ここに来て、引き籠もっていても仕方ないと思いました。せめて、生きていられるうちは、母のように、何かを為そうと考えました。』


過去の自分に何が有ったか、何を考えていたか、日記なり、メモ帳なり記録していないか、ずっと探していた・・・

事故の事は、PCのメモ帳の奥底に隠してあった。日記と云うより、覚書の類で、事故に巻き込まれた記録だ。感情は無い。どの様な思いであったか分からない。


『私の好きなようにと言っても、勿論、病院で働く方々にも満足して頂かなければならないのは当たり前の事と承知しております。その上で、私が行ないたいのは、親の恵まれない子供達への協力なのです。その為の施設と高校と大学の新設。大学は医学部まで作りたいのです。その医学部の為に、病院を活用して行きたいと思っております。その若い人材として笛井さんを理事に推しております。』


『私の今後の、病院に係る方向を話させて頂きました。協力されるも、放っておかれるも、出て行かれるも、ご自由と思います。』と、オレは自分の夢だけを話した。

集まって頂いた方々は、その後、特に何も言われることもなく理事就任を承知された。

まあ、青年の戯言と思った方も居たようだし、お手並み拝見と思っておられる方もいるだろう。

取り敢えず、次回までに経営計画を立てると云う事で、散会となった。


オレは、下町にいる。高田さんの言う、立花情報サービスと云う会社が気になった。ネットで調べる事は出来なかった。で、念の為、電話帳を調べてみた。有難い事に電話帳には載っていた。住所も書かれている。それでその住所に来てみた。


二階建ての古いビルの一階に一間の広さの入口がある。その入口は木の引き戸だ。その横に縦の表札が掲げられ、立花情報サービス株式会社とある。

株式会社か・・・

周りを廻つてみる。

隣は売地か・・・1メートルくらいの木杭とロープで囲われている・・・


『兄ちゃん、周りを見てるが、何か用か?』と、気の荒そうな人に言われる。もう一人の方も、話し掛けられた方の後ろで、黙って私を見ている。

『こんにちは。立花情報サービスの方ですか?』とオレはにっこり笑いながら聞く。

『ああ。』と、声を掛けて来た男の方が、短く答える。

『申し訳ありませんが、荒井と申します。社長にお会いしたいのですが?』と、私。

『要件は?』と、また短い。

『荒井時生が会いに来た、とお伝え頂けませんか?』

『あらいときお、だ?』と、凄まれる。

『はい。』オレはにこやかだ。

不思議と、怖いと思う気持ちは無い。今迄であれば、怖いと思い、近づく事さえせず、声など決して掛けないはずだったのに・・・


男の一人が建物の入口の引き戸を開け、中に入って行く。 

私は、もう一人を気にせず、建物の脇に回り、建物の土地の広さを確認する。ここも売りに出ている土地と同じ広さだ。

二つ合わせれば、四百坪か・・・と、茫っと考えている。


『あなたが、荒井時生さんですか?』と、声が掛かる。

おれは振り返る。五十代前半の男性が声を掛けてくれたようだ。その男の方は髪が短く、朴訥な雰囲気を漂わせているが、怒らせると怖そうだ。その回りにも五、六人の男の方が居る。が目に入らない。それだけ、其の方は印象的だ。

高倉健のようだと思った、が、高倉健とは誰だ?・・・


『はい。私は荒井時生です。母は橘美苑と申します。』

と。

『ここではなんです。事務所に入りましょう。』とそのかたが言われる。

涼やかなお声だ・・・


私はその男の方に付いて、建物の中に入る。建物を入ると、左に階段が見える。奥は事務机が並んでいる。私は男の方に付いて、階段を上っていく。その後ろからお二人がついて来ているようだ。

上った先の部屋にも事務机が並んでいる。その奥に扉が見える。そして、その男の方が扉を開けて、私に入るように促す。私はその通りに中に入る。中には応接セットと大きな木の机が二つ、コの字型に置いてある。応接セットは高くは無い、一般的な物だ。


応接の上座に座るように言われる。仕方ないので上座に座る。その男の方が対面に座られる。その後ろに、二人の男の方が立たれる。その男の方々は双子のようだ。

確か・・・本宮泰風に似ている・・・この二方は怖い・・・本宮泰風とは誰だ?

私では見分けがつきそうも無いと考えている・・・と、

『疑う訳ではないのですが、免許証か何か見せて頂く訳には参りませんか』と言われる。


私は免許証と、キャッシュカードにクレジットカードを机の上に出して、見せる。男の方は免許証を手に取ると、その顔写真見ながら、私と比べられる。にっこり微笑まれる。安心されたようだ。それらを私に返してくれながら、聞かれる。

『時生さん、何故、もっと早くお越し頂け無かったのですか?』


『実は、先日、橘病院に入院致しておりました。』

と、記憶が無い事。など今までの事を説明した。

男の方は驚いておられる。

『多分、記憶が在ったとしても、こちらの事は知らなかった様です。』と、高田看護部長の話をする。


『そうかもしれません。美苑様は、時生さんが知らなければそれで良いと、考えられていた節が有りました。』と男の方。


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