ジオ 二部十話 悠久の森
ジオは一人、座布団に座り、悠久の森に向かっている。
上からみた悠久の森は、ノルデノルンの西にある西の森と変わらないように見えた。
ジオは悠久の森の上空から森の中に入って行く。
木々の間のある地点で停まる。
『この森の主よ。居るか?少し聞きたい。』
と声を出す。
『何だ、坊。』
『うん?主はオレを知っているのか?』
『ああ、坊がいつも話し、相手するのは儂だ。』と主と呼ばれた者が答える。
『そ、そうか・・・それは考えていなかった。』
『今、この世界には儂しかおらぬ。もう一つは変質している。』
『・・・取り敢えず、この辺りに村はあるか?』
『知らぬ。というより、儂が認知するのは坊と森だけだ。他の事は認知しない。』
『あの永遠の者はお前の仲間ではないのか?』
『仲間というより、砂漠を仕切る定義だった。しかしあれは変質した。変質した物に定義はない。あるのは己だけだ。個とも言う。』
『定義なのか?定義とは何だ?』
『定義だ。定義は定義と言うしか無い。』
『オレは、二つの世界の夢を見る。そこにも変質した物はいるのか?』
『・・・いる。それらは形はちがうが己だ。だから、いつかは消える物だ。本来、正しくある物は連だ。儂も連と言える。連が己を消していくが、たまに己が増殖することもある。三つの世界は、三つで一つだ。それを移動するのは ✕✕✕ だからだ。それがお前だ。己も稀に動く。己が動けば定義が変わる。その己があの永遠だ。己は本来自己完結だ。だから、自己完結するために力を欲している。』
『わからぬな。』
『わかる必要は無いが、永遠に会えば分かる。』
気配が消えた。ジオは一人になったのを感じた。
主が話したのは、オレにはどうする事も出来ぬからだろう、とジオは思う。必要のない事は、忘れる事にする。無駄な事を背負うのはごめんだ。母者の胸でゆっくりと寝て、心を新たにしよう・・・
ジオはテントの中で目が覚める。目が覚めた時は大概一人だ。それは気にならない。
また、夢をみた。そのオレは、楽しげに山の木々の間を走っている。その時のオレは、ただ何も考えず、足に任せて走る。地面の凹凸を苦も無く駈けて行く。何故だか、楽しい。悲しい事を忘れられるからだろう。涙が出ていた。何故泣いているのだろうか・・・楽しいはずなのに・・・
さて、今日はテントを飛ばし、村を探そうとジオは思う。
人の気配があれば気が付くだろう・・・
皆は居間兼食堂にいる。ジオも部屋を出てそこへ歩いて行く。それをハーバーが見ている。
『坊、珍しいな、歩いてくるなんて。どうした心境の変化だ。前は魔力使いが歩くなんて、可笑しいだろうと言ってなかったか?』
『ああ、ハーバー。オレも昨日までそう思っていた。しかし、夢の中の八歳頃のオレは、山を走っていたんだ。で、その時のオレの爺が、その時のオレに、随分早く走れるようになったな、と褒めていたよ。夢の中のオレは剣使いなんだ。その爺が言うには、体を使い慣れないと、心が停止した時に動いてくれないから、しっかり体を使える様にしなさい、と。』
『だから、おれも体を使う事にした。心が停止しても動ける様にな。ハーバーは動けるか?』
『ああ、心は働かない。体が覚えてるんだ。それだけ体を動かす。毎日な。』
『そうか、ハーバーでもそうなんだな。隠れてさぼってばかりと思っていたぞ。』とジオが言う。
『坊、なんて・・・』と言い掛けたハーバーの声が止まる。ハーバーはジオの顔を見ている。
『坊、何故泣いている?何かあったか?』とハーバーが聞く。
皆がジオの顔を見る。レディティアがジオの傍らに来て抱き上げる。レディティアは何も言わない。
『そうか、涙を流していたか・・・夢の中でも泣いていた・・・特に悲しい訳でも無いのにな・・・だから気にするな。』
ジオがテントを飛ばす。悠久の森と砂漠の際を西ヘと飛ばす。西の果て、人が住める限界まで飛んできた。これ以上の先は、砂漠が終わり人の住めない森が広がる。
テントを停める。皆で話し、亀裂都市ムエルタに戻ろうと云う事になった。ジオがテントをムエルタに向ける。
外を見ていたネフェルティが驚いている。
『坊、どちらに向かう?』と、ネフェルティが聞く。
『ああ、話し合った通りムエルタに向けている。』と、ジオが言う。
『坊、このテントはムエルタに向かってはいないわ。南に飛んでいるわよ。』と。
それを聞いた皆が、窓を開き外を見る。が、砂漠で生きているネフェルティと違い、サラを除いた他の者には、砂漠の上では方角がわからない。サラがその事を説明している。
ジオがテントを森に向ける。速い。森が近づいて来る。
『ネティ。森は近づいて来ているか?』とジオが聞く。
『ええ、森が近づいて来ているわ。』
『ジオどうしたの?』とレディティアが聞く。
『母者、分からんが、時間がない気がした。森であれば何も起こらんと思う。取り敢えず、森の上空に行く。』とジオ。
テントを森の上で停める。皆が心配そうにジオを見ている。
ジオは、椅子に座って卓をじっと見ている。
いつ侵入された・・・そう云えば、最近夢を見るのは決まって砂漠にいる時だ・・・寝ている時か・・・死んだ様に寝ていたはずたが、あの時は夢を見なかった・・・わからん・・・ノルデノルンなら・・・
『母者、皆。ノルデノルンに戻るほうが安全な気がする。』とジオが、いきなり言う。
『そうね。森はジオの守り地だものね。そうしましょう。』とレディティア。




