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ジオの夢 五十一話 クロノ

オレは、ゴドロノフの総督府にいる。裏庭の吊り寝台で寝ている。最近は不思議な夢を見る事が多くなった。あの石の建物群は見たことがないはずだが、何故か懐かしい・・・中に何度も入った様な気がするが・・・


『レイ様。お客様がお見えです。』とエラム殿が言われる。

『客ですか・・・予定は無いのですが・・・』

『はい。その方はクロノと言って頂ければ分かる、と。』『クロノ殿か・・・会いたくはないな・・・どうするか・・・居ないとう言うことにしておきましょう。』

『そ、それは困ります。居られると言ってしまいました。』と、困った顔をする。

『・・・ですか。では仕方ないですね。』と、苦笑する。

エラム殿がほっとしたかおを成さる。

あい変わらず・・・冗談は通じないな・・・


オレは客間の入口を開けて中に入る。半面を付けている。

『クロノ殿でございますか?』とオレ。

『はい。初めてお目に掛かる。』とクロノ殿。

クロノ殿は五十代前半に見える。お顔の皺は太く深い。短髪に白髪の混じった黒髪、口髭を生やされている。口髭は丁寧に整えられている。目は細く鋭い。笑うことがあるのかと思う程に、厳しい顔をされている。


『で、私の所に何用でございましょう。』

『実は、触れ状の事でございますが、』

『ロンバニア公の出されている触れ状でございますね。では、私ではなく、ロンバニアに行かれるのが筋だと思うのですが。』と困った顔をして見せる。


『確かに、仰られる通りかと思うのですが・・・何せ、宗家のご当主は、人格者との評判で有りますれば、ロンバニア公へのお口添えをお願い致したいと思いまして。』と言われる。

口添えと言われても・・・

『触れ状には、髪の毛一本損なう事無く、お連れ願いたいとあったと思いますが。今更私が口添えすることなどありましょうか?』

『確かに。普通であればそう思うのですが・・・相手がロンバニア公であれば、皆がそう思うでしょうか。逆に命さえあれば良しとすると思いませぬか。苦痛は苦手なのです。それは是非避けたい。』と。

しかし、クロノ殿は隠されているが、一騎当千に近い腕前だ。ベルハーレン殿も言っていた・・・


『一つお聞きしたいのですが、何故ベルハーレン家を裏切られたのでしょうか?』

『それを聞いてどうされる?』と、眼付が変わられる。

『はい。参考までに。私にも多くの家人がおります。ですから。』と。

クロノ殿の眼付が落ち着かれる。

何かあるのか・・・

『それは、そこに背中が有ったと申すか。思わずしてしまったと云うことだな。その様な主を倒すなど考えた事は無かった・・。』

『成る程、隙を見せるなと言う事ですね。』と。

違うな・・・言えないことか・・・


エラム殿とユリア様そしてクロノ殿とロンバニアに向かっている。エラム殿がたまには一緒に行きたいと言うので連れて来た。ユリア様はいつも通りだ。面はしていないが、髪は隠している。

『ご当主殿は何時も少人数なのか?』とクロノ殿に聞かれる。

『昔は一人でふらふらしておりました。今は誰かが付いて参りますので、おいたが出来ませぬ。』と笑う。

ユリア様もエラム殿も聞いているのかいないのか、知らぬ振りだ。


『もう一つ聞いてもよろしいか?』

『何でしょう?』

『ご当主殿は、いつも面を付けられているのか?苦しくはないかな?』と。

『我が家の仕来たりなのです。外では素顔を晒さないというのは。もう慣れました。それに、今の私は影かもしれませぬよ』と更に笑う。

『それは無いな。何故なら髪が銀色であられた。』

『それは作り物でいけますよ。』

『そうか・・・しかし宗家のご当主殿がこれ程気安い方とは思いもしなかった・・・家人の方にも丁寧だし。』


『何を申されます。皆、同じ人ではありませぬか。生まれた処の違いしかありません。本来、人に差など有る訳は無いのです。人の差は生い立ちか、生きるに真摯かどうかで出来てくるのではありませぬか・・・それに私は皆より年下なのです。』と笑う。


『本音を申しますと。農家をなされる様な一般的な家に生まれたかったと云う思いはあるのです。自分と回りの事だけを考え、日々同じ作業をする。その同じ作業が大きな収穫に繋がつていく。そんな生活に憧れるのです。私にとっては、宗家の当主は似が重過ぎます。』と笑う。


『ご当主殿でも辛いのか?』とクロノ殿が言われる。

『クロノ殿は当主になられて楽しゅうございましたか?』

『まあ。楽しくは無かった。当主とは窮屈な物であるのは知っていたが、さらに孤独でもあったが、気にはならなかったな。』と。

『そうでございますか・・・』


『今日はダイナに泊まります故、お願い致します。』とオレ。

『それは構わぬが・・・』とクロノ殿は不審顔だが。


ダイナには衛士はいるが、特に不審を感じなければ声を掛ける様な事は無い。街は、変わらず賑やかだ。オレは主要通りをマーヤさんの店に真っ直ぐ向かう。

エルム殿が言われる。

『レイ様。この街には来たことがあるのですか?』

『エルム殿。勉強不足ではありませんか。この街は自治都市ですよ。』とオレ。

『あっ、そうなのですか。・・・気が付きませんでした。しかし、このようなところまで自治都市をお持ちなのですか?』とエルム殿。

『はい。この付近には、もう二つあります。』とオレ。


マーヤさんの店だ。訪ねるのが少し空いてしまった。

『部屋はあいていますか?』

『済まないね。満室なのよ。』と奥からの声が聞こえる。

マーヤさんの声だ懐かしい・・・

『商売繁盛ですね。夕食だけでも摂れませんか?坊の紹介なのですけど・・・』とオレ。

その声を聞いたのか、奥の御簾から顔が覗く。と、そのままマーヤさんが飛び出して来る。そして、オレを抱いてくれる。

『坊、随分空いたわ。でも、色々聞いたわ。大変だったわね。でも無事で嬉しいわ。』と笑って下さる。

『姉様も元気で何よりです。少し遅くなりましたが、喜んで頂けて嬉しいです。』

『勿論よ。坊が来てくれるのに、嬉しくない訳無いわ。』と。

『で、姉様。連れがいるのですが、泊まれませぬか?』

『坊、大丈夫よ、家に来て。』

ーーーーーーーーーー

今は皆で、宿にて、食事をとっている。宿の主人マーヤさんは酒に飲まれている。いつものことなのだろう。レイ様がお相手をしている。レイ様には、いつも驚かされる。あの方支援者はどこにでもいる様だ。


『失礼する。宗家のご当主がお越しと聞いた。挨拶に来たが・・・』と、大きな声がする。

『ボーマン殿、姉様が起きる、静かに願いたい。』とレイ様が顔を顰められる。


レイ様とボーマンが話をしているが、私は特に聞いていない。

ここの酒も旨い。レイ様が寄られる理由の一つだな・・・

『ユリア殿とお呼びして良いか?聞きたいことが有るのだが』とクロノ殿が家荒れる。

『かまいませぬよ。何でしょう?』

『この地は確か、別の領主がいたはずだが?何故、宗家の支配に入られた?』

『ここの領主は、兄がミク教に薬で操られていたのを、弟が不憫に思い、兄を逝かせたのです。その時に手を貸したのが、レイ様だと聞いております。その後、弟殿が継いだのですが、再びミク教に入られてしまい、その弟殿がミク教徒に弑逆されてしまいました。それで、レイ様がここの住民に頼まれ、ミク教徒を追い出し、自治都市にしたと。』と。聞いた事を話す。


『御当主殿はミク教徒が嫌いなのか?』と聞かれる。

『ええ、命も狙われましたし、殲滅せよとの代々の申し送りがあると言われておりました。』

『そうか、宗家の当主も簡単では無いな。』と、クロノ殿。

クロノ殿は何を考えられているのだろう・・・


ボーマンとレイ様の話は終わった様だ。そのボーマンが私の前に来る。クロノ殿に会釈をされ話始める。

『お嬢。お嬢のお陰で、単なる衛士長が、今では総督だ。それも宗家のお墨付きの総督だ。感謝する。』と、嬉しそうに頭を下げる。

『ボーマン。それはお主の運だ。気にするな。それより、シュターフが言っておったぞ。キスリングだけは許さんと、分かるか?』と、ボーランの顔を見ている。

ボーマンの顔色が変わる。

『お嬢、シュターフは確かにその様に?』

『ああ、で首を切られるつもりが、忘れていたのを思い出したと。そして、キスリングだけは許さんと呟くと、切られるのは辞めたと言ったな・・・』

『そうか、やはり・・・お嬢、すまぬ失礼する。』と、ボーマンは慌てて去っていった。


『キスリング・・・』と、クロノ殿も呟く。

キスリングか・・・そういえば、私の事を避けていたな・・・何かあると思ったが・・・

ーーーーーーーーーーーー


マーヤ様はいつものように潰れてしまった。

しかし、元気そうで何よりだ。明日は午後からロンバニアへ向かおう・・・

『御当主殿は誰とでも気安いのだな。』とクロノ殿が言われる。

何だ・・・何が言いたい・・・


『私の様な未熟な者は、多くの方に教えて頂かねばなりません。それが、一般の方々であっても、色々な知恵をお持ちで、私の知らぬ事ばかりです。気安い事が行けませぬか?』とクロノ殿を見る。

『しかし、それは当主には不必要なのではないか?』とクロノ殿が顔をしかめられる。


『また、話が気安さに戻りましたね。そうでございましょうか?』

『私は八歳で外に出されました。それの主な目的は人を躊躇なく殺める程に剣を磨く事でありましたが、他に世間を知る事でもあります。当主などとは、穏やかな毎日であれば必要はないのです。皆、自分達で生きております。しかし、争い事は内にも、外にも起こります。それを内にあっては調停し、外に対しては先頭に立って打ち砕く。そう心得ております。ですから、気安かろうが、威厳を保持しようが意味はないので有りませぬか?』


『しかし、それでは領民の不満を抑える事はできぬのでは無いか?』と。

『クロノ殿。宗家一門に不満はありませぬ。長続くとはそういう事なのです。』とユリア様が言われる。

『不満がない?そんな事があり得るのか?』


『クロノ殿は知らぬかもしれませぬが、宗家にあるのは名君のみ凡君さえも無し、と言われております。故に不満など有ろうはずもありません。皆、当主が間違った事、領民の為にならない事、その様な事をするはずが無いと知っているのです。三千年とは伊達ではありませぬ。』とユリア様。

『・・・』


『クロノ殿。宗家の当主は、勝つ戦しか致しませぬ。それ以外は領民に任せて、話を聞くのみというのが、不文律でございます。』と笑う。


『まして、私は大人では有りませぬから、戦以外は関わらぬようにして、なるべく大人に任せるようにしております。』と笑う。

『そうか・・・』とクロノ殿が困惑した顔をされている。

『クロノ殿は真面目に当主を致そうと思われたのでしょう。誠実なのでございますね。』と私。

『誠実か・・・』

『はい。当主など本来邪魔な存在でございます。だから、私は、皆の邪魔をせぬように心がけております。』

『・・・』

クロノ殿のは変わらず難しい顔だ・・・







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