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ジオの夢 四十八話 戦とオーロフ

ヴァイス、アラゴン連合がやっと動き出した。オレ等は、のんびりと待つしかない。何せ、我々からオーロフ家への侵入をするつもりは無い。

クロノの兵は事実上ベルファーレンが統率し待機している。

『レイ様。驚きました。クロノ殿が逃亡してしまうとは・・・』とユリア様が言われる。

『はい。見事な逃げっぷりでした。ああ云う御仁は、嫌いで無いですよ。』と笑って見せる。

『そうでうすか・・・レイ様は変わった人がお好きなのですね。』

『いえ、負けると分かっていて、兵を突っ込ませる者より、自分は逃げる、兵も勝手にしろ。さすれば、兵は突っ込んでは行かない。死なせる事も無い。良い考えです。』

『なる程、そう云う考えも有るのですね・・・』とユリア様が笑われる。


『レイ様。こちらの先陣は誰が務めるのですか?』と、ユリア様が望まれる顔でオレを見る。

『はい。こちらは、レーベン殿とミュンツァー殿が先陣なのです。ユリア様とシュニッツァー様は左翼オーロフ家の牽制をお願いしたいのです。』

『牽制でございますか?』

『はい。牽制でございます。』

『オーラン殿へは六万のレーベン殿とミュンツァー殿が、後続にシュニッツァー殿で追い立てていきます。ギル兄はオーロフ家に向かうそうです。それに私とユリア様の一万が加わります。』

『はい・・・』と、残念そうだ。


ヴァイス、アラゴン連合は、オーロフ家の領地を過ぎ、シュターフ家領に移動を開始する。それを確認し、ギル兄が攻撃の合図を送る。黒と白の兵が動き出す。ガイは兵を進め、コンテッサ家の兵へと進んで行く。ギル兄の二万と我らの六万もオーラン殿が指揮する二十万へと向かう。今回はそれほど急ぐ事なくゆっくりと衝突する。


オレとレーベン殿、ミュンツァー殿はオーラン殿の陣形中央の部分から切り裂いていく。勿論、狙いは後ろに配置されたオーラン殿の本陣である。ワーレン殿も左方面より突いて行く。相手右翼のオーロフ兵を牽制しつつオーランの兵に当たっている。ギル兄は集団中程に位置し、戦況を見守る。


今回のオーラン殿の陣形はよく耐えていたが、一度崩れ始めると、それを支える人材がいない。徐々に崩れていく。挙句に、左翼のコンテッサ家が崩れるのが早い。ガイの右翼からもオーランの兵に当たり始める。コンテッサの兵たち及びレイズ、プラッターの兵が逃亡を始める。もう、烏合の衆に成り果てている。それに引きづられる様に、中央オーランの兵は更に崩れていく。後ろでは逃亡が始まっているようだ。


オレはオレの兵を止める。相手方の兵が逃亡するに任せる。

オーランはいないか・・・

それを見たギル兄はそのまま、オーロフの無傷の陣形に、ワーレン殿を当てる。


ワーレン殿は強い。確かに一騎当千の何に恥じぬ戦いぶりだ。ワーレン殿に当たる兵が当たる間もなく倒れて行く。その部下の方々もしっかりとワーレン殿を補佐されている。それを見ていたオーロフ家の当主は、自ら戦う事なく、身を翻す。


それを見たオーロフ家の兵達も、誰が纏めたのか整然と退き始める。ギル兄もオーロフ家の当主が身を翻したのを見ると、ワーレン殿に指示し、兵を止める。


『レイ。あ奴らは皆、この程度なのか?あまりにもお粗末だな・・・』

『ギル兄。兄は分かっておりましたでしょう。我らの様な者はそうそう居ないと・・・兄の望む相手は、草原の民か、夏の大炎殿しかおりませぬ。』

『そうだったな・・・』とギル兄。

『ですから申し上げました。クロノ殿が面白いと。戦ではなく、頭で競いなさいませ。それが、クロノ殿でございます。私は兄のお相手は出来兼ねますので。』と笑う。

『ああ、レイとは・・・やりたく無いからな・・・』

『さて、オーロフの先代の顔でも見にいくか』とギル兄。


ーーーーーーーーーーーー

『どうだ?』

『はい。やはり、六十万など何の役にも立ちませんようで。皆、散散に逃げ出しております。』とカトー。

『あれは?』

『一人逃げ出され、屋敷に戻られて、籠もって居られます。』

『意気地の無いことだ。我が息子とはいえ、情けない。別邸に移せ。出るなと申しておけ。見つかれば、首を刎ねられると言っておけ。』

『はっ。』

『兵はどうした?』

『はい。皆、陣形を崩さず、慌てず戻って参っております。それに、追撃はありませんでした故・・・』

『そうか、追撃は無かったか。』

これもルッソのお陰か・・・ルッソがいればやはり止めたであろうな・・・


『父上、兄を別邸に連れて行かせました。随分怯えておりましたが・・・』

『ミリアムか・・・ロンバニアが来る。予想通り大負けだ。済まないな。』

『では、最後に一戦しましょう。』とミリアムが言う。

『やっても、勝てんぞ。多分、ルッソが生きていても勝てないな。なぁ、カトー?』

『はい。宗家も同道されておる様です・・・』

『宗家?』とミリアム。

ーーーーーーーーーーーー


六十万の兵は散り散りに、自分たちの家へと逃げ戻っていく。ガイはコンテッサを追って、南街道を東へと兵を進めている。そして、中央街道をレーベン殿とミュンツァー殿、シュニッツァー殿が、参加した相手方の家の街々へ取り立てをしに兵を動かす。最終はヴァイス家である。


オレとギル兄は、オーロフの街を占領すべく、ギル兄の二万とユリア様の一万の三万の兵を進める。それ程急がない。急いで進軍すると、追い抜いたオーロフ家の者が兵を集め襲って来る可能性がないとも限らない。ギル兄もオレも無駄な戦をする気はないし、させるような油断もしない。


オーロフの街が見えてくる。ゆっくり進みながら状況を確認する。兵はいる。しかし、その前方に剣他の武器が積まれている。

戦はしないの表明か・・・


『レイ。行くぞ。』とギル兄から声が掛かる。弊を待機させ進めて行く。オレは幻馬を、兄の馬車の左横に付けて進ませる。ワーレン殿は右横に。そして、ユリア様はオレの右横後ろに付けている。ユリア様は白い外套にフードを被り、顔全面の白い笑い面を付けている。

・・・その衣装はオレと同じで面まで同一だ・・・そこまでしなくても・・・違うのは、俺は血まみれだ・・・


ギル兄は、オーロフの兵の中を悠然と馬車進め、オーロフ家の敷地に入れて行く。オレらも同じように入って行く。オーロフ家の兵には、我らを害する動きは見えない。ただ、我とワーレン殿の血まみれの姿を見ている。その敷地には多くの人がいる。その前面で、我等は止める。


すると、その中の一人が話し出す。

『ロンバニア公、この度は大変なご迷惑をおかけ致した。我らは直ぐにでも、退去いたす。』

『先代、ここで話をさせるのか?』とギル兄。顔に表情が見えない。

『ああ、そうですな。では広間に。』


ギル兄は馬車から降りると、ゆっくり歩き、広間に入って行く。その広間は豪勢で広い。豪華な椅子が周りに配置され、長椅子もある。ギル兄は長椅子を見つけると、そこに歩いて行き、横になる。オレはその後ろに立つ。ワーレン殿もユリア様も同じようにする。


オーロフの多くの家人が、離れて取り巻く様に居る。三人がギル兄の前に立たれる。ギル兄は三人を眺めている。矢張り、感情のない顔だ。

『先代、ルッソは何故死んだ?』と、暫く黙っていた兄が話す。

『ルッソ殿か・・・ルッソ殿は心の臓を悪く致した。それで亡くなった。』と先代が驚きながら応える。

『ルッソの最後の言葉は何だ?』

『お心をお鎮め下さい・・・でしたが・・・』

『ふん。ルッソめ、相変わらずか・・・』

ギル兄は涙をこらえる様に天井を見ている。

ルッソ殿はギル兄の知り合いなのか・・・

ワーレン殿を見るが、ワーレン殿は下を向いていて表情は分からない。


『先代、当代はどうした?何故ここにいない?』とギル兄。

顔に感情はないが、声が冷たい。

『息子は逐電致した・・・』と、苦しそうだ。

『逃がしたか、逃げたかは知らぬが、責任も取らずにか?死んで逝ったもの達が。浮かばれぬな。なあ、レイ、どう思う?』

『ギルバート様。確かに。それに、当代様が哀れでございますな。』

『哀れか・・・』

『はい。当主の心得、覚悟をご存知とは思えませぬし、戦にあたっての覚悟、準備が分かっておられぬようでございます。でなければ、逃亡などなさるはずかありませぬ。』

先代とカトー殿は下を向いておられる。

『真にそうだ。』


『周りには経験豊かな大人の方々がおられるはずですが、何故教えられなかったのでしょう。よしんば教えられていたにも拘らず、このご様子であれば、当主にお付けすべきでありませんでした。不憫なコトで御座います。』

『耳がいたいな。』とギル兄。

『何を申されます。ギルバート様は稀代の名当主であられましょう。』とオレは笑う。

『ふん。レイに言われても嫌味にしか聞こえぬわ』と苦笑される。


『当主の事などわからい執事が何を言われますか。無礼で有りましょう。もし、よろしければ、私がお相手をいたしましょう。』と若い女性の方が

怒り出される。

しまった・・・言い過ぎたか・・・

『レイ、あれは当主の妹のミリアム殿だ。どうする?』

とギル兄が笑っておられる。

これは困った・・・


『レイ様。私がお相手致しましょう。』と、面を取り、フードを上げられる。

髪が赤い・・・これは正体が知られるな・・・

『紅蓮殿か・・・』とカトー殿が呻かれる。


『御息女とお聞き致しました。中々の腕前のようでございますが、レイ様に向かわれるにはまだまだ無理がありましょう。私がお相手いたしましょう』と気を上げられる。


『おお、やはりそこまで上げられるか・・・ワーレン、どうだ?お前、やってみろ。』と、ギル兄が小さな声でワーレン殿に謂われる。

『いや、それは困ります。若い者には勝てませぬ。』とワーレン殿。

『・・・』ギル兄がワーレン殿を睨んでいる。


『お許しを紅蓮殿』と、カトー殿が言われる。

『カトー殿と申されたか。ミュンツァー殿は許されたでしょうが、御息女は自ら口に出された。嫌とは言わせませぬ。何せ当主より弱い私がお相手するのですから。』とユリア様。

ミリアム様は流石に下を向かれている。腕の違いに気が付かれたのであろう。広間にいる家人達もざわつく。

これは困った・・・


『ユリア様、もう良いですから。収めて下さい。』とオレ。

『レイ様、ひとを見かけだけで判断し、見下す。その様な者達には仕置が必要なのです。体に覚えねば、また増長するのです。』とユリア様。

顔が怖い・・・どうしたものか・・・


『ユリア殿、ここはオレに免じて頼む。』と、ギル兄。

『ギルバート様。つい、出しゃばってしまいました。お許しを。』と、ユリア様が下がっていかれる。

『レイの一門は、皆、レイ思いだからな。俺も虎の尾を踏まぬように気を付けねば。』とギル兄が笑われる。

『今回は、私も悪いのです。顔を隠したままでしたから。』と、面を外し、フードを上げる。更に髪を外に流す。

ユリア様がしまったという顔をされるが・・・

広間にざわめきが広がり、あちらこちらで話し声が聞こえる。勿論、女性の声だ。


オレは下を向かれたままのミリアム様に向かう。

『ミリアム様と申されますか。宗家当主レイゼン・アストリアスと申します。お見知りおきを。』と。

『ミリアムと申します。ご無礼を致しました・・・』と答えられ、オレを見る。

ミリアム様の顔が呆けた様な・・・うん、なんだ・・・どうされ?顔が固まっているが、ここは微笑んでおこう。

オレはミリアム様に微笑む。


そして、先代に向き直る。

『ご先代様、先程はご無礼を申し上げました。』と一応謝っておく。

『これは・・・宗家のご当主はお若いと聞いておりましたが、誠にお若い。これでは我が息子が張り合おうとする訳だ。馬鹿な親で迷惑を掛けた。』と謝られる。







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