ジオの夢 幕間一話
オレは屋敷の庭の吊り寝台でうとうとしている。
おかしな夢を見たものだ・・・その夢と云うのは・・・
オレは個室で目が覚めた・・・周りを見回す・・・色は白っぽい・・・首は動いた・・・点滴が見える・・・
頭が少々痛いが・・・恐る恐る、右指を動かしてみる。親指、人差し指、中指、薬指、小指と。痛みはないし動くようだ・・・次に、左手の指を同じ様に動かして見る。動く。次は腕、足の指、足、顔、そして腰。多少の違和感は有るが、動く。ほっとする。
しかし、オレは誰だ?名前が思い出せない。ここはJ国なのは分かる。聞こえて来る言語は理解できる。おれが話せる国の言葉だ・・・今は朝か・・・
『気づかれましたか、良かったですね。』と入ってきた白の作業衣・・・看護婦・・・が言う。
『はあ、しかし、名前が思い出せないのです。それに私は何故此処にいるのでしょうか。』と聞いて見る。
看護婦さんは予期された質問なのか、特に驚いた様子がない。
『此処に財布、スマホが有りますから、見れば思い出すと思いますよ。先生には伝えて起きますね。』と、その看護師がテーブルの引き出しを少し開ける。
そして、白湯を近くのテーブルに置く。点滴を外す。
『昼からお粥を出しますから、ゆっくりよく噛んで食べてくださいね。』と言うと、部屋を後にする。
ベッドは電動で動くタイプだ。背を起き上がらせ、テーブルの引き出しを開けて見る。セカンドバックが一つ入っている。一般的な市販品から桁の一つ上の価格のメーカー品だ。同じ模様が繰り返される好きになれない柄だ。
眉を潜めながら、中を開ける。中には、同じ柄の長財布と片手で扱えない大きさと重さのスマホが見える。更に部屋の鍵がある。財布をとりだす。中には免許証、マイナンバーカード、四枚の千円札、それに硬化が数枚。免許証の名前は荒井時生。マイナンバーカードの名前も同じ、荒井時生・・アライトキオ・・・
やはり思い出せない。思い出せないと言うより、知らないと言ったほうが良い気がする・・・
スマホを取り出す。やはり大きい。片手操作の・・・私には使わない大きさだ・・・それにこの某国のスマホは一度使って見たが、仕様が独特で使い難い・・・それは知っているのか・・・
スマホが開かない・・・
指紋認証が外してあるのか、とすれば、PINか顔認証か・・・何度か、顔を動かしスマホを見る。三度目で認証される。目を見開き、アルカイックスマイルで・・・
確かこの機種の顔認証は優秀な筈だが・・・顔が変わったのか・・・いや、そんな事は無いな・・・免許証の顔は同じだと思う・・・
免許証で名前と住所は分かった。次は預金だな・・・
スマホのメモ帳に銀行口座に証券口座の記録がある。
それで、銀行の残高を確認する。残高は一千万少々の金額がある・・・証券からの振込だけだ。証券口座を確認する。こちらは現金として、やはり一千万程ある。取引記録を見る。最後の取引は三週間程前だ。毎日々、午前中に売買をしている。午後の取引はそれほど無い。一回の取引で、数千円の利益、それでも午前中に十回から数十回の取引で十万代の稼ぎか・・・月にすれば何百万になる・・・
殆ど、株の翌日持ち越しはしていない・・・
非合法での収入ではないのには安心した・・・スマホのスプレッドシートにも毎日の、売買の記録と取引予定の株価
の変動が残っている。熱心な事だ・・・
そうか・・・このまま同じアカウントを使用しているのは不注意極まりないな。時間は沢山ある。変更しておくか・・・その知識は有るのか・・・
病院で考える時間は沢山あると思った。しかし気がついてからニ日後には退院の運びとなった。此の病院は私にいて欲しくないようだ。医者も、私が気がついてから、一度しか顔を見せなかった。その時も、なにか聞くわけではなく、
『大丈夫です。悪いところはありません。記憶も直ぐに戻りますから。』と。
『検査もしていないのに、悪い処が無いと判るのですか?』と聞いたが、不自然な笑いが固まったまま出て行った。看護師も退院の日の朝まで顔を見せなかった。
看護師は、重そうな紙袋を下げて部屋に入ってくる。
看護師は、治療費の精算は終了している。これは連れの人が渡してくれと置いていかれたと。準備を済ませて、早急に退院して下さい、と言うと部屋を出て行く。
重い紙袋を下げ、バスに乗り、病院に近い駅に向かう。駅は住宅地の中にある普通の規模の駅だ。やはり、来た事は無いようだ。思い出せない。取り敢えず、免許証にあった住所にむかう。世の中は便利になったものだ。スマホのマップを開き住所を登録すれば、その場所から経路まで表示してくれる。
・・・私はいくつだ・・・免許証で見ると二十六歳だが・・・
そのマンションは駅からの地下街に通じている。名の知れた街の駅の一つだ。入口のガラスドアの横のインターホーンに暗証番号を打つ。扉が開く。入って行く。階段を上がり、一階のエントランスに出る。エントランスは広い。受付に人もいる。軽く会釈をしてエレベーターに向かって歩く。
会釈をされた方人は、驚いて急ぎ、会釈を返してくれる。
・・・可笑しな事をしたか・・・
エレベーターは三つ。一番右のエレベーターに鍵を差し込み回す。随分と高そうなマンションだ・・・
部屋の扉の前に来る。鍵の他に、カード式、暗証番号方式と選べるようだ。鍵を入れ回す。鍵は解錠される。ほっとする。
扉を開け、部屋に入る。玄関は広い。二畳はある。玄関から続く廊下も広い。部屋は左に二つ。まず最初の扉を開けて入る。特に何も無い。絨毯が敷かれている。高そうな絨毯だ。クローゼットが付属し、壁面収納にもなっているが、中身は空だ。
次の扉に入る。寝室だ。広い。ベッドが二つ。壁の向こうとこちら側。それに扉の無いクローゼット。薄いブルーのジャケットが三着。それと綿のパンツが三着。空いた空間が寂しい。壁面収納には下着、靴下他。やはり、空が多い。
リビングに向かう。右側にキッチンとテーブル。左手がリビング。壁からソファー、テーブル、全てが白い。窓は奥と左手。その片隅に、白く長い机にPCが四台並ぶ。
PCを起動させる。パスワードをいれる。PCも問題なく開けられる。ほっとする。




