↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/87

ジオの夢 四十二話 ギル兄

シュターフ殿は微動だにせず、目を瞑っておられる。

『では、レイ様。あれもそう言っております。送ってやってください。』

『送って差し上げるのは簡単ですが・・・あの世で恨みませぬか?』と、オレ。


『ユリア様のお知り合い三人にお会いしましたが、皆、総督に成れて喜んでおられますが・・・お一人だけ、あの世では・・・』と剣を抜く。

『し、少々お待ちを・・・キーファーとバークレーはお聞きしましたが、もう一人は誰でございましょう?』とシュターフ殿が言われる。

『ボーマン殿と言われたが・・・』

『レイ様はボーマンとも知り合われたのですか?』とユリア様が驚き、聞かれる。


『はい。タイレルで衛兵隊長をなさっておりまして、ひょんな事で、争いになり、首を落とそうかと思いましたが、生きがいも、命も失くなるのか、と嘆かれておりました。でユリア様の知り合いだと判ったので、ユリア様の御知り合いであるのなら仕方ない、職をお世話するからと、ジンツァー殿に総督にしてやれ、と言う内容の紹介状をボーマン殿に渡して於きました。』とオレ。 


『レイ様は、お優しいですね。』とユリア様が微笑まれ、メドラー殿とバビアナ殿も頷かれる。

・・・優しさだけではないのですよ・・・


『気が変わりました。出来れば、私も生かしておいて頂けませぬか?ボーマンの生きがいで思い出したのです。暁を潰した男の事を。キスリングだけは許さんと思っていたのに。つい己の事にかまけていて、失念致しておりました。』と言われる。

無念そうな顔だ・・・そうか死ぬ気は失せたか・・・


『ふん、愚か者が。ばっさりやってくれ、などと言わねば良いものを・・・レイ様お手数をお掛け致しました。』とユリア様。

・・・ユリア様は怒っておられたのか・・・

『で、今後はどうする?』と聞かれる。

『はい。まず領地を取り戻そうかと・・・』とシュターフ殿が言われる。


『この辺りの地は、ロンバニア家に了解をとっておいたほうがすんなり進みます。ロンバニアに行かれませぬか?一緒に行きましょう。』

『ロンバニア家ですか・・・』

『お嫌ですか?』と、私が聞く。

『いえ、我らでは簡単に会えぬ家なのです。紹介が無ければ領地にも入れませぬ。』と言われる。 

『大丈夫です。紹介はありますから。』


北辺街道と南辺街道が合流する場所に到着する。この後、砂漠へと進入する道を通り、ロンバニアへ向かう。オレは寝ている。幻馬に揺られ、気持ちがよい・・・砂漠の風も、今日は弱いようだ・・・この砂漠で夜に湯に浸れたら、どれだけ気持ちが良いことだろうか・・・


砂漠から、数人の人が表れる。知った気も感じられる・・・

『申し訳ないが、どちらに行かれるかお教え願いたい。』と声が聞こえる。

『ロンバニア家に向かっているが。』と、メドラー殿の声。

『どなたの紹介で、どの様なご要件かお教え願いたい』と。

現れた方々の気が剣呑になる・・・

メドラー殿も相手の気に当てられ、尖り始めたご様子。あまり、迷惑を掛けてもいけないか・・・

幻馬から起き上がる。

『兄殿、私です。お忘れですか?』

私を見て大層驚かれる。

・・・そんなに驚かなくても・・・


『こ、これは気が付かずご無礼を申し上げました。』と言われる。

『兄殿、前に来た時は、これ程厳重でなかったですが、何か有りましたか?』と聞いて見る。


『レイ様であれば・・・。実は、先日暗殺隊に入られまして、ギル様とガイ様は笑っておられましたが、長老たちが心配されまして、暫く厳重に警備しようと云う事になりました・・・』

『そうなのですか、それは大変ですね。ご苦労さまです。』と。

兄に、挨拶をして通り過ぎていく。兄殿も不快な思いは為されなかったようで、良かった・・・


シュターフ殿が難しい顔をされている。

『シュターフ殿。どうかされましたか?』

『いえ。もしかしたら、レイ様は宗家のご当主であられますか?』

『あられると云う程の者ではないですが、宗家の当主は、私です。』


『一つお聞きしても?』

『何でしょう?』

『宗家のご当主とあろう方が、一人で出歩き、悪党どもを成敗される、どうしてなのですか?』


『当主になってからは忙しくてしませんが、当主になる為の修行ですね。父も祖父も、千人は刎ねたと言っておりましたが、聞いたことはありませんか?』

『・・・そういえば、父が、首切りの御仁が、また表れたと言っているのを聞いたことがあります。で、首切りの御仁とは何だろうと思った記憶があります。』と、納得したような顔で言われる。


『おお、そうですか。やはり当主は皆、行っているのですね。実は心配していたのです。私一人がその様な行いをしていたらどうしようかと・・・』と笑う。

シュターフ殿は何とも云えない顔をなさる。

そのお顔は何を思われてか・・・


砂漠の中に現れる街の青い塔はいつ見ても美しい


『レイ、よく来たな。』とガイが笑う。

『ああ、暫くご無沙汰したから、顔を見せに来た。』と笑う。

『そうか。俺は暇だったから、訪ねようかと思った。』とガイが言う。

『それも良いな。しかし、兄が不機嫌にならないか?』

『どうだろうな。』


知らせを聞いたのか、ガイが屋敷の入口で待っていた。兄の部屋へ向かいながら話す。

『暗殺隊が来たと聞いたが?』

『ああ、暗殺隊にしてはお粗末だったな。面倒だから逃がしてやった。後を付けてだがな。』と笑う。

・・・その笑いは止せ・・・皆が怯えているぞ・・・まるで獅子が餌を前にした顔だ・・・


『で、何処へ?』

『クロノ家に一人は帰ったな・・・』


兄の部屋に入る。

『ギル兄、具合いは如何ですか?』と微笑む。

『火種拾いが、やっと来たか?上々だ。』と笑う。

『兄こそ、何を企んでいるのですか?』

『企んでなどいないぞ。向こうが勝手に仕掛けてくるんだ。』

で、皆を紹介する。兄も女性には愛想が良い。増して強いとなると尚更だ。顔がにやけている・・・


『で、シュターフが何のようだ。』と、男には無愛想だ。

『この方はユリア様の知り合いなのです。来る途中で会いました。で、領地を取り戻したいと。それにはロンバニアの二人の許可がいる、と申して連れてきました。』

『ふーん。ガイ、どうする?』と兄がガイに聞かれる。

『ああ、オレは領地は要らん。好きにしろ。ベルハーレンにも好きにしろと言ってあるしな。』

・・・ベルハーレンも来てるのか・・・そうか、クロノは潰すつもりなのか・・・


オレ等は三人で話を続ける。女性等とシュターフは案内人を付け、街へ見物させに行かせた。

『ギル兄。どう思われますか?』

『おそらく、まず草原に向かうのではないか。コンスタンチンもクラウスも取れなかったからな・・・草原であれば楽に取れると・・・』

『しかし、それは大事に成りそうですが・・・』

『だな・・・』

『何がだ?』とガイが言う。


オレも女性達も、ロンバニアの領都で四日程ゆっくり過ごした。女性達は海を見るのが初めてらしく、随分驚いていた。シュターフ殿はベルハーレン殿と引き合わされ、誼を結んだようだ。


俺はロンバニア家の屋敷の最上階の湯殿が好きだ・・・まるで砂漠と海に包まれ、浮いている不思議な気がする。どこかで、入った事のある既視感を感じる・・・


シュターフ殿の事はガイに頼み、オレ等は帰領した。

帰り際、ギル兄に、戦の時はお互い様だ、笑って言われた。


そのまま、領都に戻った。久し振りの屋敷だ。バルツァーもネイルも皆も元気だ。帰って来たのが直ぐに伝わり、近隣の方々も顔を見せてくれる。

・・・さて、これからの事を考えるか・・・


ジンツァー殿とミュンツァー殿を呼ぶ。二人は、総督をオレが寄越したボーマン殿に譲って、こちらに戻って来ていた。二人も、北の住人だ。帰れて、喜んでいた。二人に、今後の事を説明し、指示書と兵符を渡しておく。


屋敷に一人の若い娘が訪ねて来る。ゾフィー殿と言われる。ジールマン殿の娘との事。応接間で会う。

娘にしてはお若いような気がする・・・ 私よりも若いが・・・

ジールマン殿の文を持参されている。


『ご当主殿。先々代がご当主に文句を言えとの事で有りましたが、特に文句を申し上げる事は有りませぬ。ただ、私も、もう長くは有りませぬ。それ故、娘、ゾフィーの事が心配でなりませぬ。不届き者のお願いではありますが、娘を宗家にてお育て頂く訳には参りませぬか。勝手なお願いではありますが、何卒、宜しくお願い申し上げます。

それと、後日、兵がモトロフ家を通り、トレド草原に侵入致します。しかし、モトロフ家には、兵を出さぬよう、きつく申してあります。と、申しましても大して兵はおりませぬ。モトロフ家には恩がございます。その為、一つお願いを致すことをお許し下さい。それは、モトロフ家の責を不問に処して頂きたいのです。出来たご当主殿と伺っております。良しなに、ジールマン。』


『ゾフィー殿は、それで宜しいのですか?』

『はい。文の内容は承知しております。ご当主様には宜しくお願い致します。』と言われる。


『ネイル。ネイルはいますか?』

『はい、ここに。』とネイルが入ってくる。

『今日から一緒に住みます。ゾフィーです。面倒を見て上げて下さい。後、学び舎とヘレン婆に連れて行ってあげて下さい。』

『承知致しました。』と、ネイルは出ていく。


『あの、レイ様はこちらに住まわれておられるのですか?』とゾフィーが聞いてくる。

『はい、此処はわたしの屋敷なのですが。お嫌ですか?』

『い、いえ。そうではありません。父から、ご当主の屋敷に住まわせて頂いて、お背中をお流しするようにと。それが亡き母の遺言だからと言われて参りました。可笑しな事を言っていると思うのですが・・・』と、情けなさそうな顔をなさる。

『その事は、ネイルかヘレン婆に聞いてみると、解るかもしれませんよ。』と、笑う。


そこに、バルツァー殿が来られる。

『バルツァー殿。ジールマン殿の娘です。今日から屋敷に住む事に為りました。』とオレ。

『それそれは・・・懐かし名前を聞きますな。その御仁は元気でありましょうか?』

『ご不調そうでありましたが、未だしっかりされておられるようです。今はモトロフ家におられます。』

『それは、良うございました。』と微笑まれる。

その顔を見て、ゾフィーも安堵したようだ。


俺は白の軍装にて、モトロフ家を訪ねる。領地に入るのは造作もない。モトロフの屋敷は街にはない。街に寄らず、直接向かう。屋敷の前に立つ。

門が出来ている。また、門番を置くようにしたらしい。門番にジールマン殿を呼んで頂くように頼む。俺は敷地には入らない。


ジールマン殿とモトロフの当主、その娘が表れる。ジールマン殿が近づいて来られる。俺は面を外し、素顔を見せる。

『ジールマン殿。軍装により、常在戦場、騎乗のままをお許しください。御息女は確かにお預かり致しました。ご安心下さい。ご要望につきましても、我らに刃を向けぬ限り、その通りとお考えください。』

『宜しく頼みます。』と、ジールマン殿が言われ、礼をされる。


オレは答礼をし、面を付け、馬を返す。

・・・もう、会うことはないかも知れないな・・・

ーーーーーーーーーーーー


わざわざ、来られたのか・・・律儀な方だ・・・最後に素顔を見せて頂いて良かった・・・あの世で、良い土産話が出来た・・・しかし、聞くのと見るのでは違うものだ、確かに美しい・・・


『ジールマン殿。如何なされた?』

『はい。宗家に娘を出しました。それのご挨拶にお越し下されたようです。』と、モトロフ殿に答える。

『御息女を?・・・何故でございますか?』

『おそらく、トレド戦の後、宗家どうして対峙した家は殲滅される事になりましょう。モトロフ家においても、その責を求められましょう。故に、前もってお願いをしておいたのです。』

『・・・そうでございましたか・・・それは申し訳無い事を・・・』と、当主殿が情けない顔で言われる。


『勝手な事を・・・宗家が参加せず、ヴァイス家が勝ったらどうされるのです。』と、お嬢様が言われる。

『その時はわたしをお斬りになられればよろしい。』

『・・・』とお嬢様は不機嫌だ。


『はっきり申し上げましょう。ヴァイスが勝つことは有りませぬ。もし、ヴァイスが勝てば、草原の民、百万が侵入してまいりましょう。その時は、西方地域は混乱に陥り、ヴァイスが続く事は有りませぬ。』

『・・・』お嬢は目を見開き、何か言いたそうだが・・・何も言われない。


『それは、誠でございましょうか?』と、当主が驚かれる。

『トレドの民と草原の民は同一のです。必ず、仇を討ちに参ります。』

『宗家の当主は、夏のみならず、草原の民とも縁があると聞いております。また、ロンバニア家とは家族の付き合いであり、最近、ロンバニアから戻られたばかりとも聞きます。そんな宗家がトレドへの侵入を黙って見ているとでも?宗家で足りないと思えば、間違いなく、ロンバニアも兵を出すでしょう。何故なら、草原の民の侵入に我慢できないでしょうから。本来、トレドには手を出してはならないのは不文律なのですが・・・誰が犯しているか・・・よくお考えになりませぬと・・・』


『お嬢様。私がおる間は何とでも出来ます。しかし、何れは全て己で考えねばなりません。正しい情報を仕入れ、その上で、能々熟考なさいますようご進言致します。口に出すのはそれでも、少なくなさいませ。余計な事を口に出されるのは災いの種となります。また、世の中には、能力のある者も多くおります。そう云う者を雇うのも肝要でありましょう。』 


ーーーーーーーーーーーー




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。