ジオの夢 三十七話 アルギラの憂鬱
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人生とは、この様に変わっていくものなのか?
家に、領地に、帰りたくて、帰りたくて仕方がなかった・・・しかし、もう二度と帰ることは無いと思っていた・・・
今は、領地へ戻る途中だ。
・・・虎殿は顔に傷を作り、皺を出しているが、肌は若い。恐らくは二十歳には達していないだろう。十代半ばかも知れない・・・そんな虎殿によって救われた・・・
しかし、父が亡くなり、私が当主か・・・わかっていた事だが、いざそうなると、何をどうしたらよいか不安であったが・・・
あの虎殿が心を落ち着かせ、あるべき姿を示してくれた。
毅然とせねば・・・虎殿より年上なのだ・・・
『アルギラ様。追手が参ったようです。打ち合わせ通りに。』と、傍らの虎殿が言われる。
『はい、大丈夫ですございます。』
と、大きな木の元に座る。家人たちも私から遠ざかり、草原に隠れる。
虎殿は、木の柄の短槍を左右のに手に持っておられる。
『アルギラ様、見ていて気持の良いものではありませぬ。目をお閉じに。』と言われる。
しかし、私の為に人を殺めるのに、目を閉じている訳にはいかない。しっかりと目に焼き付けておく・・・
我らは囲まれる。何人だろう・・・二十人程が我らを囲んで、じりじりと向かって来る。その後ろにも多くの兵が寄せている。間近に見る兵士の顔は、緊張と興奮で、目が血走り、息が荒い・・・
それに比べ、虎殿は何を考えられているのだろう、静かに立って居られるだけだ。
兵士の上の位の者だろうか、声を上げて剣を振ってくる。それを合図に囲んだ兵が向かって来る。虎殿の両手が動く。剣を受けた音がする。先頭の者たち数名の首が飛ぶ。更に、虎殿が踏み込む。まるで、舞を舞っておられるように見える。また数名の首が舞う。虎殿は、もう私の前に戻っている。兵が恐怖で後退る。
『槍だ、槍を使え。』と追っての指揮官が叫ぶ。
と、槍を持った者達が前に出て来る。虎殿も、いつの間にか槍を手にしている。
囲んだ者達が槍を突いて来る。虎殿はその槍全てを上、左、右にに弾く。と、虎殿が舞う。虎殿の槍も虎殿の体の周りの宙を、舞っている。両端の刃が煌めく。突いた者達の首が落ちて転がる。
囲んでいた者達が悲鳴をあげて逃げ始める。しかし、兵が寄せている。その寄せている兵にぶつかり、倒れる。倒れた兵は這いずって逃げようとする。兵たちに混乱が広がっていく。
『逃げるな。囲め。』と、指揮する男が叫んでいる。その周りの兵はもういない。と、その指揮する男の首が転がる。虎殿の槍が閃いている。もう追手の者達は近くにいない。来た道を走って戻って行く姿が見える。
『虎殿。見事なものですね。もし、私が居なければ、追手全ての首を落としたのでしょうね。』と、顔に飛んだ血を拭って差し上げる。
『いえ、向かって来なければ落としたりしませんよ。そこまで極悪非道ではありませぬ。怖くはありませんでしたか?』と心配される。
『いえ、私の為になされた事を、怖いなどと言っておれません。』と。
虎殿が微笑まれる。
家人達が戻って来る。しかし、首の転がった凄惨な現場に声も出ない。皆が虎殿を非難する様な顔をしている。
感謝の言葉も無いのか、我が家人は・・・狙われたのは私だと言うのに・・・怒りがこみ上げてくる
『・・・』
私が何か言おうとしたが、虎殿が私の前を塞ぎ、首を横に振って止められ、移動するよう促される。
私は不満であったが、虎殿の指示通りに移動を指示する。我等は新たな場所で、我が兵の到着を待つ事にする。虎殿は離れたところで休んでおられる。
時が経つ・・・
虎殿が私の所に参られる。
『兵が来たようです。千名程の様です。』と。
間も無くして、兵の姿と紋章が見える。黄色に中央に青の線、我が家の紋章だ。虎殿を探して振り返るが、虎殿はもう居られなかった。虎殿は次の依頼があると言っていた。報酬は、本来なら十億ギルだと。しかし三千万ギルに負けておくと言われたが、今は商符も金もないから、二十億の価値があるからと、家宝の宝飾品を預けた。
出来ればまた会いたい・・・
イサムにマジドがいる。外に出ていた筈だが、父が亡くなったのを知って戻って来てくれたのか・・・
『アルギラ様、ご無沙汰しておりました。』と二人が挨拶をくれる。
『イサムにマジド、よく帰って来た。宜しく頼む。』
と。
二人が顔を見合わせ、
『はっ。』と応える。
コリンにドラガンとイサムにマジドがいる。
イサムがヴァイスの方向に五千の兵がいると報告をくれる。
五千か・・・
『これからどうする?』と聞いて見た。
『直ぐに、ヴァイス家に挨拶に参りましょう。』とドラガンが言う。
他の三人か顔を見合わせ困った顔をする。
三人は現状からヴァイス家を危惧している・・・
『ドラガン、それは危険ではないか?タイレルとヴァイスは仲が良いが?』と私が聞く。
『お任せ下さい。私は長年ヴァイス家との交渉に当たっております。お嬢様の婚姻を進めたのも私でございます。』と。
何だと・・・お前か・・・顔色が変る・・・
コリンに見られた・・・平静にせねば・・・
『そうか・・・』
『しかし、取り敢えず、領地に戻られてからで良いのでないか?』とコリンが言う。
『お嬢様が直ぐにでも行かれなければ、誠意が伝わらん。』と。
『伯父貴、俺は反対だ。裏にヴァイスがいるかも知れんのに・・・もしそうなら、相手の思う壺だ。そんな危険な真似ができるか。』とマジド。
『何が危険だ。ヴァイス家がそんな事をする理由なかろう。』
『しかし、五千の兵がいます。襲われたら勝てません。』とイサムが言う。
『私も領地に帰りたい。皆も領地に帰りたかろう・・・帰ってから考えよう。』と私。
三人はほっとしているが、ドラガンは不満化だ。
虎殿の言われた通りだ・・・困ったな・・・
『で、真っ直ぐ帰れるか?』と私。
当主とは面倒なものだ・・・しかし成り立てでは強引にこうしろとも言えんし・・・
『いえ、それでは危険は回避できません。南の道ディレントの街を通していただきましょう。』とイサム。
『ディレントの街は別の意味で危険ではないか?』とコリンが言う。
『それが、最近、賊の一党が駆逐され、自治になったと聞きました。自治であれば金で通してくれるのではないですか。駄目なら駄目で、五千の兵が去るのを待てばよいのです。』と、イサム。
それで、少々戻り、南下してディレントの街を目指す事になった。途中、また惨劇の跡を目のあたりにしながら移動する。
それを見たイサムとマジドが慌てて飛んで来る。二人に誰かと聞かれた。正直に、虎と呼ばれる黒い髪で、顔に傷のある男と伝えた。虎と呼ばれるのは数名いると聞いた事も。二人は納得した様な、しない様な顔で戻っていった。
ディレントの街の門の前にいる。門には二人の男が居る。わたしは馬車から下りる。門の前の男に話し掛けようと歩きだす。
ドラガンが前を塞ぎ、
『私が話を。』と言う。
『よい。私が話す。』と、門の前に歩いて行く。
コリン、ドラガン、イサム、マジドも付いて来る。
『お嬢さん、大人数で何か用かい?』と細身の方が聞かれる。
『はい。私はコンスタンチン家の当主のアルギラと申します。こちらは自治都市となられたとお聞きしました。それで、お代はお支払い致します故、お通し下さいませんか。ただ通過させて頂くだけで申し訳ありませんが。』
『コンスタンチン家の御当主殿か・・・』と考え込んでいる。
『こちらも、今は事情があってね。身分の分からない者、ましてや大人数だ。簡単に、はいどうぞ、と言えないんだ。何か身分を証明する物はお持ちかい?』と。同じ方が聞かれる。
確かに、初の所だし・・・何かあったかな・・・
『おい門番。旗があるだろう。金だって払うと言っとるんじゃ。何が不足だ?あっ、上の者に変われ。』とドラガンが怒る。
あっ・・・しまった・・・皆も慌てているが・・・
『爺さん。あんた、今何をしたか分るか?当主殿が丁寧に、下手に頼んでいるのに、何故、お前は高慢ちきな言い方なんだ?お前の一言で交渉が終わっちゃただろう。今、お前がコンスタンチンの家に泥を塗り、当主を辱めたとわかるか?なぁ、あんた、当主より偉いのか?』
・・・辛辣だ・・・
ドラガンが唖然としている。
『まして、俺等より偉いのか、いつオレ等の上になった?いくら優しい俺等だって、そんな口の聞き方されたら、どこの誰だかわからん奴の首など飛ばすぞ。』
『そこの兄さん達も強いのは分かる。しかし、俺等傭兵の頃は特級だ。俺等に勝てるか?兄さん達?』
『いえ、勝てないと思います。』とイサム。
『実戦は腕だけではないが、俺等は、実戦でも引けは取らんよ。』
『爺さん、そんな事も分からん奴が喧嘩を売るなんて、耄碌してるんじゃないか?いいか、この世界には、俺等特級が二人で掛かっても相手にならない化け物だっているんだよ。死にたいのか知れんけど、口には気を付けろ。』と捲し立てる。
しかし、言って貰ったのは有り難い・・・
流石にドラガンは何も言えず、下を向いている。
『しかし、美しい姉さんだから通してやりたいが・・・どうする?』と、彫像のように動かない、もう一人に聞いている。
・・・あっ、美しいお姉さんで思い出した・・・忘れているとは・・・
『これが証明になるか判りませんが・・・』と、文を渡す。
『美しいお嬢を通してやってくれ。後程、銀色の酒を下さる。虎の分は取って置け。饒舌な寡黙の総督は元気か?』と読み上げる。
『おお、これなら十分ですよ。なっ?』と。
彫像の方も頷いている。
『これはお返し致しましょう。また必要かも知れません。それに、酒を忘れられたら困る。何せ、あの方は酒にはうるさい。もし届かなかったら、我らが飲んだのだろうと疑われる。あの方に疑われるのは怖い。』と笑われる。
返して下さったのは、これがお守りになる事を存じているのだろう。気の利く方々だ・・・我が当家の者にもそうなって欲しい・・・
ディレントの街を通れたのは有り難かった。特に邪魔も無く、屋敷に戻れた。久々の家だ。家の者も皆無事だ。あの方のお陰で、また屋敷に戻れて嬉しい。
我が地は木々が豊かな緑の地だ。山も近い。その山の一角で、他所では採れない高価な赤華石も採掘出来る。お陰で領民含め豊かな生活が送れる。
屋敷は広い事は広い。しかし贅沢な造りではない。広いのは必要だからと父は言っていた。父は普段も派手な生活を送ることは無かった。いつも、いざという時の為に蓄財を心掛けていた気がする。
屋敷に到着して一日立った。もう夕方だ。皆忙しそうだ。色々あるのだろう・・・
『ご当主様。お客様がお見えなのですが・・・』と家人が言う。
未だ、その呼ばれ方に慣れない。気恥ずかしい・・・
『うん?誰でしょう?』
『何でも、家宝を預かっていると仰られておりますが・・・』と家人。
動悸が高鳴る・・・虎殿であろうか・・・
『こ、こちらに。』と私。
家人が下がる。
紛れもない虎殿ではないか・・・どうされたのだろう・・・
『アルギラ様、早々とは思いましたが、お伺いさせて頂きました』と笑われる。
笑い方も美しい・・・
『いえ、本来であれば、お届け致すのが当たり前ではありますが。』と。
そうだ、湯殿に入って頂こう・・・
虎殿の背中を流している。
『有難い事です。何せタイレルで入って以来でございます。』
『そのお顔の傷もお流し致しますが・・・』と笑って言ってみる。
『そうですね。もう必要ありませんね。では髪の色も落としましょう。お手伝いをお願いできますか。』
黒い色が流れ、元の髪の色が表れてくる。
白とも、銀とも取れる不思議な色だ。この髪の色は見た事が無い。とても美しく輝いている。真に御子に相応しい色だ・・・
前に回る。皺が取れ、傷も無い。肌はお若い肌だ。そして、お顔は美しい。この様な男児を見た事が無い・・・
『どうかされましたか?』と虎殿か笑っておられる。
『今までに見たことの無いものばかりで、見とれておりました・・・』と。
母が宗家の男性の髪は銀色だそうです。一度は見てみたいものだと仰っておられた・・・のが思い出された・・・
『虎殿は宗家の一門であられるのか』と、上からの問になってしまったが・・・
虎殿が笑いながら言われる。
『姉様。遅くなりましたが、宗家当主レイゼンと申します。』
姉様は止めてほしい・・・しかし、何と、宗家の当主が何故に・・・暇なのだろうか・・・頭が働かない・・・
『姉様、私の様な若輩者は内政には手を出さない方が上手く行くのです。ですから、私は世間の見聞を広める事に時の多くを費やしております。』と笑われる。
『姉様は止めて下さい。アルギラと呼んで下さい。』
『そうですか・・・では、アルギラ様、四人のお方をお集め頂けますか?』
『少々、不穏な事になりそうで御座いますよ。』
そうか、急いで来て下されたのは、何かおこるのだろう・・・そういえば、イサムもマジドも忙しそうだ・・・
食事の用意も出来、四人も集まっていると家人が伝えに来た・・・二人でのんびりと飲んでいられたら・・・
客間には四人が立って待っている。我らが入っていく。イサムとマジドは直ぐに顔を伏せた。コリンとドラガンは私と虎殿を見ている。
何故なら私が虎殿に寄り添っているからだろう・・・しかし、気にしている暇はない、それを虎殿も許してくれるのだから・・・
『このお方は、昨日世話になられた虎殿である。また、宗家のご当主レイゼン殿でもある。皆、この方に御礼を。』
イサムとマジドは面を伏せたまま、礼を述べている。コリンとドラガンは慌てて頭を下げている。
『イサムとマジドどうした?なぜ顔を上げん?』
『お二方。お二方の生まれ地とは知りませんでした。お二方が戻られた事は、アルギラ様には、大いにお力添えとなられるでしょう。』とレイ殿が言われる。
『はい。』と二人の声は小さい。
まあよい、後でしっかり聞いてやろう・・・
『お二方の事です。周りの家の動静に付いてお調べの事と思いますが、如何でしょうか?』とレイ殿が聞かれる。
その様な事を調べていたのか・・・コリンとドラガンの顔をみるが、私と同じ様に驚いている・・・
『レイズ家もプラッター家も兵を編成しておりました。先のロンバニアの侵攻にあたり、多大な損害を受けておりますが、それでも一万の兵を集めたようでございます。』とイサム。
『その兵を何処に向けるつもりか、心配しております。』と、マジド。
『私はヴァイスにおりました。そこではコンテッサ家も来ており、ヴァイス、コンテッサ、レイズ、プラッターで話し合いを持ったようでした。コンテッサ家では兵の準備を終えており、いつでも出せるようでございます。おそらく、プラッターとレイズに兵を貸すのでしょう。』
『で、この兵はどちらに向かうのだろうと考えました。勿論、ギレン家もしくはクラウス家、トレド草原も考えられぬ事は有りませぬが・・・現実的には勝てませぬでしょう。で、その兵で勝てるところはと申しますと、コンスタンチン家であろうと。それにて、お知らせをと、参った訳でございます。』とレイ殿が言われる。
『イサム、マジド。レイ殿の言われる事、どう思う?』
『はっ。おそらく、その通りかと。』イサムが答え、マジドも頷く。
三万の兵か・・・我家は、父の考えで、傭兵を使う事を主としていた・・・
『イサム、マジド。その場合、兵はいくつ出せる?』
二人は、顔を見合わせ、
『使える者は、五千でございます。』とマジド。
『五千か・・・父が使っていた傭兵は頼めんか?』
『はっ、今、その傭兵団は解散いたしたとの事。また、有ったとしましても、数が足りません。』とイサム。
『そうか、やはりこれからは自前で持つ必要があるか・・・で、どうする?』
『その事、疑う訳では有りませぬが、先のロンバニア侵攻にあって、ロンバニア兵を無傷で通した事を糾弾され、両家へ領地を譲っております。此度は、我が方に何の咎もありませぬ。何故、兵の用意しているか問い質しては如何でしょう。もしかすれば、何らかの誤解が有るやも知れませぬ。』とドラガンが言う。
確かに、そんな事も有った・・・が、当時ヴァイスはまだ埋もれていた・・・
『伯父貴、それは泥棒に何処に入るつもりだ、と聞くのと同じことだ。無駄だ。下手すれば藪蛇になりかねん。』とマジド。
『しかし、やぶ蛇の可能性は無さそうだ。で、攻めるのは止めてくれと、話は纏める事は出来ますが、それには赤華石の採掘場の譲渡が必須になりましょう。』とコリン。
『やはり、そうなるな。しかし、コリン。あれを譲っては家が立ち行かなくなるだろう?』と私。
『はい。あれを取られることは、家が潰れるのと同じでございます。』
『では、仕方ない。攻めて来ないのを願いながら、来たら自分等で戦うのみだな。』




