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ジオの夢 三十五話 アルギラ


タイレルには、亡くなったコンスタンチン家の当主より依頼を受けた猫殿の依頼で来ている。コンスタンチン家の息女がタイレル家の当主に嫁いでいるが、特に希望して嫁いでいる訳では無い。


コンスタンチン家は宝飾に使われる赤華石と呼ばれる石が算出する。その為、財政は豊かであり、周りの家からは狙われている。特にヴァイス家が赤華石の出る領地を欲している。その為、ヴァイスの圧力による斡旋でタイレル家への婚姻を受けざる負えなかった。


コンスタンチンの当主にも、婚姻は時間稼ぎにしかならない事は分かっている。当主は自分が生きている間は娘は十分安全である事は確信しているが、自分が死んだ場合には娘の命のない事も分かっている。そこで、自分が死んだ場合の娘の身を安全に領地に届けて貰う依頼をしていた。


その依頼先が闇夜の黒猫であり、それを受けたのがオレだ。死んだ者の依頼は受けてやろうと気楽に考えていた・・・


街の商店地域は賑やかだ。この家の領主は知らないが、商才はあるようだ。

と、中々の腕の男が店に入って来る。やはり、青い制服を着ている。三十前後の中肉中背の黒い短髪の男だ。

『少し、話がしたいが、いいか?』と、短髪の男。

『はい、何でしょう?』

『お前さんのお陰で面倒な事になった。俺がお前さんを殺らないと、俺が職を失う事になる。』と、オレを睨む。

『それは、困りましたね。貴方は職を失くすか、命を失くすかの瀬戸際ですか?』と、困った顔をして見せる。

『いや、お前さん。お前さんは俺の腕を知らないから、そんな呑気な事を言ってるんだ。忠告するが、先程のぼんくらと一緒にしないで貰いたいが・・・』と、のんびりと言っているが、目は鋭い。

『勿論、貴方の腕が特級であるのはわかります。えっと、ボーマン殿。しかし、これ、分かりますか?』と、黒猫殿が貸してくれた紋章を見せる。


『確か・・・それを見るのは二度目だ。一度目は紅蓮殿が付けていた・・・お前さんは紅蓮殿の縁戚か?』 

『おっ、と言うことは、キーファー殿やバークレー殿の知り合いですか?』と聞いて見る。

『二人を知っているのか・・・ああ、暁にいた・・・』

暁・・・どっかで聞いたことがあるな・・・まあ良いか・・・

『お二人相手でもこの通り生きておりますが、貴方とは如何でしょうか?』

『二人は・・・死んだのか?』

『いえ、途中で諦められました。』

『・・・そうか、では、やれば命を失くすのは俺か・・・運が無いな・・・生き甲斐の次は命か・・・』と、嘆息される。


『・・・では、こう致しせんか?もし、私の手伝いをしていただければ、今の処の退職の金を取り立てて差し上げましょう。それに新しい職を紹介して差し上げますが。如何ですか?』と、微笑む。

『それは願ったり、適ったりだが・・・』不思議そうにオレの顔を見る。


オレ達は執事の家に向かっている。

『おっ、流石に広い家ですね。』

『ああ、しかしわざわざ行かなくても良いだろ。俺の為なんぞに・・・』

『用事はもう一つあるのですよ。あの宿の女性達に何か有ったら困るのですよ。ですから、釘を刺して置かないと・・・』

『ああ、確かにな。しかし、音無しくするようなやつではないぞ。』

『・・・でしょうね。』


俺等は門を入って玄関に向かう。

と、脇の小屋から泣き声が聞こえる。女性のようだ。その小屋に向かうと、扉を開ける。男が女性を倒して、何か言っている。


『困ったな。お嬢さん、お助けしますか?』と一応聞いて見る。

ボーマンは呆れたようにオレを見てから、男を睨む。

女性を倒していた男が、女性を離して立ち上がる。

女性が起き上がると急いでオレ達の後ろに周る。

『お、お前。それにボーマンも。ここは俺の家だ。勝手に入るな。』と怒鳴っている。


『お嬢さんはここの方ですか?』とオレは聞く。

お嬢さんは声が出ないのか、首を横に振る。

『では、家に帰られたほうが良いですね。もう、この人は居なくなりますから、気にするな必要はないですよ。忘れてくださいね。』と告げると、女性は頷くと、門の方へ走っていく。


『さて、貴方が街に居られないように、街中に触れ回ってあげますね。さぞや、親御さんは恥ずかしいでしょうね。このまま、執事などやっておられないでしょう。うん、楽しそうだ。』と笑う。


オレは男に背を見せ、ゆっくり玄関に歩いていく。それを見た男は剣を抜くと、オレに斬り掛かる。オレは男の剣を躱すと、振り向きざまに剣を一閃させる。男の首が落ちる。


『やはり、こうなりましたね。』とボーマンに言う。

ボーマンはオレの顔を見ている。気を取り直すと、

『紅蓮の姐さんも凄いと思ったが、兄さんも凄いな。』と。

『では、取り立てに行きますか。その前に遺体を小屋にしまって下さいますか?』と笑う。ボーマン殿は何とも言えない顔をしていたが、遺体を小屋に入れてくれた。俺等は屋敷に向かう。


屋敷の書斎に首を落とした男の親がいた。その親である執事はボーマン殿に怒鳴っているが、ボーマン殿はどこ吹く風だ。オレは券を抜くと、執事の首に剣を当て、に息子の悪行を世間に知らしめると脅し、金を出させた。


やはり、息子も息子なら、親も親だ。

金は腐る程有ったが、全て持って行くには重すぎるな・・・などと執事に背を見せていたら、斬り掛かられた。仕方無く、執事の首も落とした。


『兄さん、やっと分かった。許す気はなかったのだな。』とボーマン。

『まあ、お好きにお考えを。』と笑う。 

『で、金は手に入りましたね。次はコンスタンチン家の件なのですが・・・お願いできますか。』とボーマン殿に笑いかける。


ボーマン殿はコンスタンチン家の執事の顔を知っていた。執事の一人コリン殿は政務担当で柔軟であり、話もする仲だと。ドラガン殿は権威に頼る男で、好きではない。アルギラ様は娘の名であり、会ったことはないと。


ボーマン殿にはテンフォのジンツァー殿を尋ねるように、紹介状を渡した。

紹介状には・・・この者を使え、役に立つ。銀の虎は笑う。・・・と書いた。


オレは、遅い昼食を取りに、姉妹の店に入る。

どうしたことだ・・・店に客で溢れている・・・さて、困った・・・と空いている席はないかと見回す・・・ 

『お兄さん、何してるの?兄さんの席はここでしょう。』と妹殿が声を掛けてくれる。

朝に座っていた席が空いている・・・人が多くて気が付かなかった・・・おお、専用席と書いた物が、置いてある・・・


『店主の妹さん、有り難う、助かります。こんなに繁盛している店なんですね。』と、オレ微笑む。

『違うんです。兄さんがあの男を懲らしめたでしょう。それと、ボーマンさんとも仲良く話しをしていたでしょう。それで皆、安心して来てくれたんですよ。』

『これも兄さんのお陰です。』と妹殿。


店は昼の営業が終わり、夕方に備えて休憩中だ。オレは変わらず、外の見える壁際の席に座らせて貰っている。通りは変わらず人で賑やかだ。各店に買い物に来る人が多い。ここの領主は領民に優しのだろう。行き交う人に不安の顔は見えない。人は皆、楽しそうだ。オレものんびり見ている。


・・・何故、緑の作務衣の奴等がいる?それも、一緒に行動するでなく、四方から囲むように散らばっている・・・

見た処、あの女性を囲んでいるようだ・・・お付きがいるにはいるが・・・


オレは姉殿が妹殿を探す・・・姉殿がいる・・・

『姉殿、姉殿・・・』

『何か?』と姉殿が側に来てくれる。

『姉殿、あの女性はどなたか分かりますか?』

『・・・あの方は領主様の奥方様ですね。』と、姉殿。

『成る程・・・』


オレは、フードを被ると、店を出て女性の近くへ、緑の作務衣の男たちから見えない様に歩いて行く。緑の作務衣の男たちはまだ動かない。

と、急に通りの奥が騒がしくなる。人の意識が女性とは反対の方角に向く。男たちが動く。四人の男が女性を担ぎ上げようと囲もうとする。オレは、一人にわざとぶつかり倒れ込み、ぶつかった男も引き摺り倒す。更に、転がってもう一人も倒す。それを見た女性が悲鳴を上げる。立ち上がった男の二人と立っている二人は慌てて四方に離れて行く。


『だ、大丈夫ですか・・・有り難う御座います。助かりました。』

『いえ、よく分かりませんが、お気を付けて。あっ、人を呼ぶのを忘れずに。』と、急いで街の奥に歩いていく。

女性が何か言っているが、聴こえない振りをして去る。

・・・これで、危険なのは理解したかな・・・


『あっ、兄さんやはり、着替えられたのですか?』と、店に入ったオレを見て、姉殿が言われる。オレは念の為、黒から灰色の外套と内衣に着替えて来た。

『姉殿、見ていましたね。忘れて下さいね。』と笑う。

『はい、何も見ていません。』と姉殿も笑われる。


酒を貰ってゆっくり飲んでいる。

・・・さてこれからどうするか・・・自分から売り込みに行っても相手にされないだろうし・・・今日に、もう一度来るだろうな・・・


『失礼致します。』と声が掛かる。

オレは変わらず酒を飲んでいる。 

そろそろ、寝に行こうかと考えていた・・・目は虚ろだ

『何か?』

『実は腕の立つ人を探しております。』

『ボーマン殿からお教え頂いき、参りました。』

『仕事は?』

『人を一人脱出させて頂きたいのです。』

『それは簡単な事だが。何時までに?』

『早ければ早い程良いのです。』

『年と性別は?』

『二十五、女性です。』

『事前に当人と話が出来るか?』

もう一人の苛々していた男が怒鳴りだす。

『金は言うだけ払ってやる。黙って言われた通りにやれ。嫌なら他に行く。』

『・・・なら、他に行け。』とオレは目を閉じて眠りに入る。

怒鳴った男が何か言っているようだが・・・眠い・・・まずい・・・


目が覚める。周りを見回す。姉殿が湯を持って来てくれる。

『どれくらい寝ていましたか?』

『四半刻程です。』

『客は帰りましたか?』と聞いて見る。

『あちらに・・・』と姉殿が顔を向ける。

『ふーん』

温和な少しふっくらした男がいる。

『お嫌なのですか・・・』と、姉殿。

『態度の大きな人はきらいです。』と笑う。

姉殿も笑う。

『では、まだ用があれば聞きますとお伝え下さい。』


男はコリンと言った。もう一人はドラガンで二人共にコンスタンチン家の執事をしていると。コンスタンチン家の当主が亡くなった。それで、領地に戻るつもりであったが、先程、お嬢様から誘拐されそうになったが、奇特な方が身を挺して邪魔をして下さったと聞いた。それは、もしかしたら簡単に出て行けそうにないと思うに至った。今日、ボーマン殿が別れの挨拶に来られた。事情は兎も角、今なら腕の立つ者が居るから、何かあれば頼めと言われて出て行かれた。それで相談しに来たが、あんな事になって申し訳ない、と言う。 


私はコリン殿にこう告げた。

『私はボーマン殿が何と言われたか知らぬが傭兵だ。

傭兵は失敗すれば評判が地に落ちる。それだけでなく、命も落ちる。だから、あらゆる事を頭に入れ、その上の判断で、出来るか、出来ないかを判断する。出来ない事を受けて失敗すれば、お互い不幸の極みだ。下手すれば命がなくなる。だから受ける依頼に失敗はない。私が逃がす対象者に会わせろと言ったのは、貴方がたと対象者の思いが一致しているかどうかの確認をしたい。何故ならば対象者はいい大人で、まして今や当主だ。依頼中に齟齬を起こしたくない。それに、その対象者が依頼中は、私の命に沿えるかどうか確認する。』


コリン殿は話を聞き納得された。今から一緒にと言われたが、何も注意を引く必要は無い。暗くなってから伺うと告げた。

・・・まだ、危機感が足りないようだ・・・


辺りが暗くなった。オレは姉妹に礼を言って店をでる。コンスタンチンの娘の住まいは、領主とは離れている。

不思議な事だ・・・

教えて貰った屋敷に着く。敷地の周りは石垣の塀だ。敷地の周りに、監視が居ないか確認する。監視はいる。正門と裏門だ。石垣の塀の周りの道の反対側には高い木が植えられ、監視し易くなっている。そして、石垣の塀も、見栄えだけで、侵入は容易だ。


教えられた塀の部分から庭に侵入する。庭から居間の中が見える。建物は焼き石を積み上げた平屋の建物だ。

平屋にしては高さが高い・・・不自然だ・・・


居間に近づく。女性が居る。庭から居間の中に声を掛ける。

『失礼する。』

『あら、本当にお越しになられたのね。此方へどうぞ。』

女性が席に座った私に、御茶を入れてくれる。

『頂きます。』とオレ。

『お若いのね・・・』

『はい。この仕事は若い方が合っていると思います。』

『・・・そう。少し待って頂いても良いかしら?』


『危機感が欠除していますね・・・』

『危機感?』

『御当主殿とお呼びすればよろしいですか?・・・コンスタンチンの家が今、置かれている状況がお分かりになっておられますか?』

女性がオレを見ている。

『執事の方々は、新当主殿に詳しく説明されておられますか?』

『今後、コンスタンチン家が生き延びて行く為にどうすれば良いか、どうして行くべきか、方向について話されて居られますか?』

とオレは金髪の長い髪を後ろで束ねた女性に尋ねる。


『当主は、頼るのは大事です。しかし、最後は自分で結論を出すものです。出す時は、自信を持って命じます。不安を見せてはいけません。間違ったと思った時には、笑って謝り、直ぐに転換するものです。』

女性は、更にじっとオレを見ている。


『貴方は今のコンスタンチンをどう思われますか?』と不安な顔で聞かれる。

『当主は敵地に居られる。敵にすれば、自由に出来る。殺す事も。領地も自由に出来る。』


女性はオレの顔を見ている。意を決した様に言われる。

『食事を用意させるわ。その間に湯殿でもいかが?』

『・・・では、有り難く。』

女性がにっこり笑うのが分かる・・・


ここの湯殿は洗い場も湯床広く清潔だ。汗が流れないように、ゆっくりと身体を動かす。

・・・誰か来た・・・殺気は無い、穏やかだ・・・誰だろう・・・女性であるのは分かるが・・・


『お流しします。』

その女性が、オレの背中を洗い、流してくれる。次に、前に周り、同じように洗い、流してくれる。そしてオレを抱かれる。そして髪に触られる。と、納得が言ったように、オレの顔をまじまじと見られる。

『当主殿?何か?・・・髪は染めているので、手が汚れたかもしれませんよ。』

『アルギラで構いませんわ。』と微笑む。

『やはり貴方は施福の御子なのですね。何故かその様に思ったのです。』と言われる。

『さあ、私には分かりませんが・・・』


『私の亡き母が、無くなる前に私に教えてくれました。』

『この世界には幸せと安らぎを与えて下さる御子がおられると、その方に会えば女性であれば誰でも分かると、その時は抱いて差し上げるように。もし、御子であるならば、黙って抱かして下さる。そして、己の抱える不安や災難が飛んでいくのが分かる、と。』

『アルギラ様、多くの方が、そのように仰り良くして下さいます。しかし、私のお返しできる事は些細な事しかありません。』


『私がお流し致しましょう。』

と、アルギラ様の身体をゆっくりと洗い、湯で流す。

『凝りは流れましたか。』と。

『はい。』と、私をお抱きになる。

『私はこちらに来てからは一人でありました。家人はおります。家人は私の為にと言いながら家がどうのとしか申しませぬ。夫は、夫とは名ばかりで、会うことも有りませんし、人質と同じでありました。父は、父として先の事を教えてくれずに、亡くなりました。私はこれから・・・』と、泣かれる。


落ち着かれると、私か首から下げた紋章ついて聞かれた。

『これは私が仕事を受けた先での格を示しております。猫の形が依頼先であります。その者の能力により金の猫、銀の猫、黒の猫、赤の猫とあるようです。』

『では、貴方は能力も、お支払いも、お高いのですね。』

『はい、金猫の方は、他に数人おられると聞きました。その金猫の皆様は一軍に匹敵し、失敗無く、依頼を熟します。私も一人で兵士の万の数に当たる事ができます。依頼の失敗は有りません。』


『他の方々にはご内緒に。私はご先代様から、貴方様のご救出を依頼され、此処に参りました。ご先代はアルギラ様の事を大層心配されておりました。ただ不用心な者がおります故、満足に連絡も出来ぬと。』

アルギラ様はそれを聞くと、オレを抱いたまま、また泣かれる。


抱かれたままオレは聞く。

『お一人で脱出と聞いておりますが・・・それでよろしいのですか?』

『私は皆で出ていくのを願っておりますが、ドラガンが駄目だと・・・』

『私の考えでは・・・皆で出ていくのであれば、家人の方も無事に帰る事が出来ます。残していけば、おそらく、無事では済まないと思いますが・・・』

アルギラ様が目を剝かれる。














変更 三十六話 → 三十五話

   ひらがな → 漢字 三箇所

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