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ジオの夢 二十六話 再会

ーーーーーー

私は、集中している。

白い衣装と面を、血で真っ赤に染めた男が近づいて来る。先代が連れてきた緑の衣装を着る、横柄な奴等の首を瞬時に落とし、神憑きの症状が表れた息子を退け、導師と呼ばせた男の首をも落とす。そして、まるで何事も無かった如く歩いて来る面の男。

間違いなく私より凄腕であるのは分かる・・・それでも、ただ、殺られる訳にはいかぬ・・・


殺気も無く、無防備に近付いて来る面の男。手に剣は無いが・・・


私の前で止まると、声を発する。

『母様。お元気でおられましたか?』

『・・・』


私は声が出ない。何を言っている・・・母様と言われても私が生んだ子は二人だ。皆もざわついている。

『私です。お忘れですか?』

面を付けたまま言われても・・・思い当たる者は居ない・・・先程迄の集中力が何処へ行ってしまう・・・


『レイ様。着替えをされてから、ご挨拶をなされたら宜しいかと。もし、血が移りましたら、ご迷惑をお掛け致しますよ。それに血だらけの面を付けたままでは、誰かお分かりにならぬでしょう。』と新しい衣装を持った青年が、親しげに声を掛けている。面の男が私に礼をすると、少々離れた場所に移る。

私に礼をするのか・・・誰であろうか・・・わからぬ・・・

後ろの皆も騒がしい。


『エラム殿。世話を掛けます。最近は面を外す機会が少なくなりました。それで、つい、忘れておりました。』と話しているのが聞える。

声は・・・若いが・・・


面の彼は、血まみれの外套を脱ぎ、髪を晒している。長い銀色の髪だ。銀色の髪は珍しい。彼の昔に会った少年を思い出す。その少年の髪の色も美しい。縁者だろうか・・・と着替えをぼーっと見ている。


その若いと思われる彼は、顔を洗い、新しい白の外套を着用している。そしてこちらに向き直る。

そして、微笑えむ。


その容貌を見た我が一族の者たちより、何ともいえぬ声が上がる。

ああ、坊だ。坊に間違いない。見誤るはずはない。母と傭兵稼業をしていた昔に、多くの機会で出会った少年だ。今は青年に成らんとしている。相変わらずの美しさは変わらない。


『坊、坊では有りませぬか?こんなに大きくなられて、気が付きませんでした。』

急いで近づくと抱きしめてしまう。

周りのさわつきなど気にならない・・・


坊であるとは思ってもいなかった。何故なら坊が当主に成るにはまだ五年は掛かると思っていた。当主に成らねば自由にはならぬ。我らを探しに来ることもできぬ。母より我らの当主の事を伝え聞いた。それが坊の一族であると。必ず迎えに来られる事になっていると。


『母様。忘れられておられるのではないかと心配致しました。覚えて頂いている事が分り、嬉しゅうございます。』と坊に言われる。

『姉様とお呼びするには威厳が感じられませぬ故に、他の方々と同じに、母様とお呼びいたしましたが、ご迷惑でございましたか?』

『何の。坊であれば、何と呼ばれても嬉しいものです。』

『坊を忘れるなどあり得ませぬ。ずっと待っていたのです。一日千秋の思いでありましたよ。しかし、まだまだであろうと考えておりましたのに、この様に早くお会い出来るとは何と嬉しい事か・・・』と、涙か流れてしまう。


『まさか、・・・ご当主にお成りか・・・』と、嬉しさと坊の感じた悲しみを思い痛む心が混じり合う。

『はい、この歳で当主でございます。名ばかりで何もできませぬ。殆ど人任せにございます。』と坊が笑う。

『その様な事とは露知らず、喜んでしまい、私は何と・・・』

坊が、私の言葉を遮る様に話し出す。

『母様、それとこれは違う話でございます。一緒にする事ではございませぬよ。』


『当主に成りて、随分お探し致しましたが、中々にお二方の痕跡が見つからず、難渋致しておりました。それが、バビアナ殿とバルボア殿が現れ、やっと居場所が知れました。』と坊が微笑む。

『・・・バビアナとバルボアは如何なりましたか?』と残念な思いを抱きながら、坊を強く抱く。

『母様、ご心配無きよう。』

『バビアナ殿、バルボア殿。こちらへ』と坊が言われる。

うん?・・・しかし、ほっと力が抜ける。斬られたと思っていたのは私の勘違いか・・・


確かに、バビアナとバルボアが白い兵装の方々の後より出て来る、二人とも顔を伏せたまま、近づいて来る。

『シンシア様、この度は勝手を致し真に申し訳ありませぬ。』とバルボアが言う。二人は顔を伏せたままだ。

私は坊を離す事なく二人に伝える。

『無事であれば言うことは有りませぬ。メドラー、こちらへ』

『はっ。』

『バビアナ、バルボア。モレーユの後をメドラーが継ぎます。助けを頼みます。』

『メドラー、二人を使いなさい。』

『はっ。』と、三人が応える。

バビアナが私を見ている。目が笑っているようだ。そうか、バビアナも坊を抱かして貰ったか・・・

『バビアナ、あなたも坊に心を晴らして貰えましたか?』


『はい、シンシア様。私はご当主様に剣を向けてしまいました。しかし、ご当主様は気にせぬようにと。皆が一度はする事です。あの三人などは、三人で私一人を殺そうとしたのですよ。危うく、首を取られる処でした。と仰られて、笑っておられました。』と答える。

『そうですか』と私は微笑む。

バビアナもバルボア、そしてメドラーも驚いたような顔をして、私を見ている。

私は笑わなかったのだろうか・・・・そうだ、最近は笑った記憶がない・・・


『ライプチヒの御兄弟、坊の強さはそれ程なのですか?』

と私は聞いて見る。

『はい、フェイレーンのお方。我がご当主は真にお強うごさいました。』

『坊はあの頃より強うなられたのですね・・・』

『はい。祖母様と打ち合った、あの頃よりは身体が大きくなりました。その分速さと強さが、出たのではないかと。』と坊が笑う。


『祖母様は、もしかしたら、居られませぬか。』と私から解放された坊が聞く。

『ええ、もう一年になりますね。』

『そうで有りましたか・・・』


今は皆で酒を飲んでいる。坊がいることが是程、心の平安を得られるとは思いもしなかった。頼れる長がいると云う安心感は何物にも代え難い。私は皆にとってどうであったろう・・・今更ながら、母や坊の凄さが分かる。

多くの方々を紹介して頂いた。この方々の中には、腕は私に劣らぬ方も居る。その方々はどうなのであろうか。是非聞いてみたいものだ。


坊がメドラーを見ている。バビアナとバルボアそしてメドラーが私の後ろで飲んでいる。そのメドラーが気になるのだろうか?

『メドラー殿。良うございましたね。葉は全て抜けたようでございます。これも母様と祖母様の愛情の賜物でございます。お二方にご感謝を。母様も辛ろうござりましたでしょう。随分とメドラー殿を痛められた事でございましょう。あれは身体が覚えねば止めれぬものです。』と坊が微笑んでいる。

『坊は何もかもお見通しなのですね。』と私が話す。

坊が微笑まれる。メドラーが驚いている。

メドラーに葉を抜くために、随分と酷い事もした・・・ 


『メドラー殿、こちらへ。』と坊が手招きをされる。

坊は傍らに来たメドラーを抱きしめられる。

『メドラー殿、もう心を閉ざされる事は有りませぬ。緑の坊主頭達はおりませぬ故、母様は何事も教えて下さいますでしょう。お聞きなさいませ。』と。


メドラーの心が晴れたのか・・・一筋涙が見える・・・

そうだ・・・あれ等が来てから、母も私も教える事を止めていたのだ。一族以外に教える訳にはいかぬ。その説明も出来ず、ただ教えなかった・・・メドラーはそれを不満に思っていたな・・・だからか葉に捕われてしまった・・・


『メドラー殿、私の歩行を熱心にご覧になっていらっしゃいましたが、覚える事は出来ましたか?』と坊。

『いえ、まだ全ては・・・』とメドラーが応える。

『では、今からお教え致しましょう。興味のある方はどうぞ。』と、坊がゆっくり舞い始める。歩行も剣技も舞で覚えられるし、覚え易い。忘れていたな。

やはり、当主の舞は美しい・・・


『母様。あの縛られている御三方も葉の影響から脱するのは苦労が多かろうと思いますが、頑張って頂きたいものです。』


『坊は三人の事もお分かりか?』と私が聞く。

『はい。あの三方の目はいけませぬ。葉に犯された目でございます。あの葉を使うのは、ミク教のみでございますれば、あの者どもは殲滅しなければなりませぬ。』

『しかしながら、あの者共は、葉を使い、家々に深く入り込み、隠れるのでございます。故に見つけるのは容易では有りませぬ。』

『本来教えとは、人々の心の安寧を図り、平安に努め、現世に係るものではありませぬ。が、彼らは葉を使い人を操り、己の利益のみに現世を動かすのでございます。故に代々当主様からの言い置きは、見付けたら殲滅せよ、との強い言葉がありまする。』

と、坊が淡々と話す。


坊は此処だけでなく、全てのテーブルを周り、皆と話をされている。若いのによく気の回られる事だ。我等一族の席にも行かれ、笑っておられる。気疲れせぬのであろうか・・・と、つい目が坊に行ってしまう。


戻って来た坊に話し掛ける。

『坊、二万の兵力は随分大袈裟では有りませぬか?』

『母様、二万の兵力は戦闘兵では無いのです。戦闘兵は百人程です、他は全て輸送及び工作部隊なのです。何せ、村ごと移動しなければなりません。それも隠れたまま。その為の人員でございます。あの緑の輩はしつこうございます。故に、我らの事も、行く先も隠して置きたいのです。』と笑う。


『母様のお子の事でございますが、明日には目が覚めましょう。お子の神憑きは、本来であれば、神憑きが現われる程では無かったのですが、笛にて無理やり出されたので御座います。ですから、もう発症はないとお思い下さい。但し、ご親族は赤い召し物を着けぬようにご留意くださいませ。』と坊が言われる。 


実際は、赤は眠っている神を目覚めさせるために、刺激として使われるとの事。近しい母や姉、妹が着る赤い衣装は目覚めさせるのには滴面の効果があると、坊が言われた。


何故にその様に、神憑きにお詳しいかとお聞きして、驚いた・・・坊の父、ご先代が神憑きであられ、自ら命を絶たれたと・・・故に、神憑きについてはしっかりと学んだと言われた・・・また、坊には要らぬ悲しみを彷彿とさせてしまった・・・






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