ジオの夢 二十五話 シンシア
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母と村に戻って数年になる。戻った時には頭を剃った奴等が幅を利かしていた。我が一族だと言って連れてきた先代の老師は寝込んだまま、詳しい事は何も話さず亡くなれた。
若い息子は神憑きだと言われ、奴等が隔離しているようだ。娘は、血の色の赤い衣装を着ていた。神憑きの治療に良いと言われ、着ていると。その衣装で息子に、日に何度も会っていたらしい。息子が無事でいる事が分かり、母と少し安心した思いをした。。
しかし、娘は我らが戻って来て、母と相談して外に出した。このまま奴らの影響の下に有るのは心配だからだ。
その母は一年前に亡くなった。生きている内に奴らを殲滅するからと出かけたが、そのまま、生きては帰らなかった。
同道した者によれば、途中、心臓を抑えて倒れたとの事。
奴らのに手に掛からなくてよかった。
母の居なくなって一年、奴等は日増しに横柄になってくる。闘士を勝手に使うようにもなった。影で恐ろしい葉も使っている。闘士の中には葉に犯されて、奴等の手先になっている者も出始めた。この葉は常用性があり、一度使用すると、葉の使用から抜け出すのは大変だ。
今では、一族に対する私の統制も利かなくたってきた。力づくで排除するしかない・・・息子の事は諦めよう。まだ娘が居るのだから・・・
そんな時だ、
『シンシア様。この山が囲まれております。』とメドラーが報告して来た。
『うん?囲まれている?何者ですか?』
『分かりませぬ。ただ、白の兵装でございます。』
『白の兵装・・・』
『今から撃ちに参りましょう。』とモレーユ。
『兵数は二万にも及びますが・・・』とメドラー。
モレーユが絶句する。
この村の家屋は下からでは、森に阻まれ見えないはずだ。我等からは下の侵入口の監視は出来る。村へ登坂する道は狭く、木々に覆われている。馬車一頭がやっとだ。
二万か・・・普通に考えれば大袈裟な事だ・・・しかし、規模が分からず、まして殲滅する気ならそれくらいは必要だが・・・そこまで動員出来る者が、我等など相手にするのだろうか・・・
『様子を見ます。それにもう上がって来るでしょう。』
出来れば、どさくさにまぎれて、奴等を討つか・・・生きていればだか・・・
上がって来ている者達は総勢三十名程だ。その中には手練れが多い。一人、二人。この二人は強いな。母が生きておればまだしも、私一人では一人がやっとだ。それにもう一人。見え隠れしているが・・・わざとか?
その次が三人、他にも似たような腕の者が、ごろごろ居る・・・何故にこの様な者達が来るのだ?
バビアナとバルボアが居なくなった事と関係するのか・・・
『闘士を集合させなさい。』と私。
この村は山の中腹にある。平野からの道は一本だ。他の道は東に向かう道は有ることは有るが、強力な他部族が治めている地に達する。通り抜けた事はない。逃げる事は現実的ではない。
闘士を村の入口の傍らに配置する。
『良いか、私が命じるまで決して動くな。勝手に動いたものは、私が斬る。』
『はっ。』と声が上がる。
・・・メドラー、私が声を掛けたら一緒に行くぞ。いいな。・・・
とモレーユの声が聞こえる。
馬鹿な子だ。そんなに死にたいのか?そんなに導師に心酔しているのか?
メドラーはどうするのだろう?まあ良い・・・
『大変な事になりましたな・・・』と老師が現れ、声を掛けられる。
『誠に。怖ろしき一団でございます。何方の者たちか、何故にこうなったのか、分かりませぬ。』と私が応える。
いずれにしても、原因は緑の奴等のせいだ。先代の老師が一族の者たちと言って連れてきた。しかし、あの様な者達が、一族の訳が無い。
『勝てませぬか?』と老師が言う。
『はい。我ら三代が居ても勝てませぬ。』
『・・・』老師が唸る。
村の入口に白の兵装の一団が現われる。先頭に立つのは中々の偉丈夫だ。腕も一、二の一人だ。後ろにいるのは、ライプチヒ兄弟か・・・何故此処にいる?傭兵であったはずだが・・・雇われたのか?
先頭の偉丈夫がライプチヒ兄弟を従えこちらにやって来る。
『お騒がせして申し訳ありませぬ。少々、お尋ねしたい事がございまして罷り越しました。長のかたはおられるか?』と偉丈夫が聞いてくる。
随分と丁寧ではあるが・・・
『私が闘士長でありますが、何用で御座いますか?』と私。
『自治都市にて、我が当主の命をもらい受ける、と告げる男女二名が現れ、刀を振り回したのでございますが、まあ当主に大した怪我は御座いませんでしたが、これでは自由に遊べぬ、さっさと潰して来いと申され、兵を出された次第に御座います。我らとしましては、いきなり兵を投入する訳にもいかず、事情があればお伺いしたいとまいったわけなのですが・・・お手前が導師殿でございますか?』と、偉丈夫が老師を見る。
『この方は老師であって、導師ではないが、何故導師の事を?』と私が聞く。
誰が導師の事を話したのだ?
『その、わが当主を狙った内の一人が呟いているのを聞いた者がおりまして、導師め、許さぬこの借りは必ず返すと、で、その後に我はここから来た、と場所を告げて、いきました。』と、その偉丈夫が肩を竦める。
逝ったのか・・・可愛そうなことをした・・・私に言いたかっただろうに・・・言えずに逝ったとは・・・
『その導師にお会いしたいのだが・・・』と私の思いを中断させるように聞いてくる。
『あそこに建物が見えられるか?あそこに居るが・・・丁度、降りて来ているようです。』
東へ通じる登りの道の脇に石造りの平屋の建物がある。そこより緑の衣装の者達が出て来る。
『ほう、十七人程ですか?』
『十七人?二十人居るはずだか・・・』
『成る程、確か三人の緑の男達を切り捨てたと、報告にありましたな。』
『・・・』
やはり・・・切り捨てたのか・・・
と、その偉丈夫は我らの元から離れて行く。後に待機していたライプチヒ兄弟も、我らの様子を探りなから、ゆっくりと後退していく。
彼らに油断は無いようだ。大したものだ。
導師達は、適当な距離を開けて待機する。偉丈夫達も我らと導師の距離の真ん中辺りに止まる。白い兵装の中より更に五人が偉丈夫に合流する。その誰もが同じ面で顔を覆っている。衣装も体型も全く同じなので、見た目では区別がつかない。それが目的であろうか・・・腕も確かな者達に思える。
そのうちの一人が何やら偉丈夫に話し掛けている。しかし、この話し掛けている者からは何も感じられぬ。伝令であろうか。だが気になる。これ程の強者の中に伝令とはいえ、こんなに無力な者がおるだろうか・・・
『闘士長、何をぐずぐずしておられる?早う、打ち払え、と導師様が申されておる。』と坊主頭の一人が声を荒げる。
『そなた等如きの差し図は受けぬ。』と私が応じる。
『何、憶病者が・・・』と更に口走っている。
導師が何かその者に言うと、
『モレーユ、お前が今から闘士長だ。その侵入者を打ち払え。』とその者が叫ぶ。
馬鹿なことを・・・
『メドラー、付いて来い。行くぞ!』とモレーユと三人が飛び出して来る。
他の者たちは?・・・メドラーが止めたのか。賢いな、メドラーは。
飛び出して来たモレーユの脇に瞬時に立つと、モレーユの腹に鞘のままの大剣で一撃を加え、返す大剣で三人に順次突きを入れて倒す。
『モレーユ、私の命が聞けぬものは斬ると申したであろう。』と。
私の顔を見ているモレーユの顔が怯えているのが分る。しかし命に逆らっても通ると思われても困る。せめて、苦しまずに逝かせてやろう。瞬時に首を落とす。
首を落としたのを間近で見ている三人の顔が歪む。
『メドラー、この三人を縛りなさい。あなたがモレーユの後任を。済んだら、私の傍らに居なさい。』
『はっ、シンシア様。』とメドラーが答えたのが聞こえる。
『おのれ、シンシア!我らの同胞を殺したな。許さぬぞ。』と導師一党より声が聞える。
やはり、モレーユは奴らの同胞か・・・
と、今まで黙って見て居た偉丈夫が声を上げる。
『導師とやら。ボレンカは居ないのか?穴蔵のボレンカは今も隠れているのか?居るなら早々と出て来い。憶病者め。』
ボレンカとは、誰だ?聞いたことの無い名だ。
『お前ごときが口にして良い御名ではないわ。口を慎め。下郎。この様な処に居られぬわ。・・・奴を殺れ。』と導師が罵っている。
導師がここまで取り乱すとは、今迄に無いな。御名か・・・
導師の下知を受けた十人が偉丈夫に向う。それに対して同じ面を着けた、偉丈夫の後ろに控えていた一人がゆっくりと進んで行く。先程の伝令ではないのか・・・
まるで殺気が感じられない。
しかし、あの歩行は・・・
『メドラー、居るか?』
『側に。』
『あの面の男の歩行を見なさい。頭に焼き付けるように。』
『はっ。』とメドラーが困惑したように応える。
説明の暇はない。ライプチヒ兄弟の一人が消えた。・・・先に潜伏している・・・
導師の向けた男達と対峙している面の男は、斬り掛かって来る男達の剣を受けるでもなく、体をずらしただけで躱していく。そして、躱しながら首を刎ねていく。凄まじい程の技量だ。まして殺気も出ていない。息を吸うように人を殺めるとは正にこの事だ。
瞬く間に十人の首が飛んでいる。
導師が何やら叫んでいる。傍らの笛を持った男が導師から離れ、笛を吹き始める。音は聞こえないが・・・
あれはジュノーか・・・私の息子とは思えぬ、上半身は何も着ていない・・・顔は皺だらけのまるで獣だ。何と変わり果てた姿に・・・もう、どうすることも出来ぬ・・・切り捨てるしか道がない・・・思わず剣を持つ手に力が入る・・・奴らめ・・・どうしてくれよう・・・
と、草むらに隠れていたライプチヒ兄弟の一人が笛を吹く男を切り、笛を拾い、瞬歩で戻って来る。が、獣化したジュノーは速い。後ろより襲い掛かる。兄弟は気が付いていないようだ。ジュノーの伸びた鋭い爪が首に刺さる・・・
と、瞬間に兄弟の身体が沈む。面の男が引っ張って倒す。更に、ジュノーの二の腕を掌底を当てて抑え、次の手を封じる。ジュノーは右、左と手を振ろうとするが、その度に、掌底を当てている。
そして、面の男はジュノーの両肩を抑え、ジュノーに何やら呟いている。
ジュノーが暴れているようたが、面の男には敵わないようだ。次第にジュノーの抵抗が弱くなっていく、ジュノーが静かになり、そして眠るように倒れる。それをいつの間にか寄っていたのか、偉丈夫が抱きかかえる。
ジュノー・・・どうした?
面の男が逃げようとする導師の傍らに飛んでいる。面の男の動きは速すぎる・・・いざとなれば、殺らねばならぬのに・・・
襲い掛かる残った男達の首を刎ね、最後に、導師に何か言っているが・・・導師は凄い形相で罵っている。導師が剣を振るう。面の男はその剣を避けながら、導師の首を落とす。
ジュノーはいつの間にか木の陰に寝かされている。その姿は・・・おおっ、元の姿だ・・・戻っている・・・人に戻って死ねそうだ・・・
傍らのメドラーがいるのに気付く。
『メドラー、見ていたか?』
『はっ、』
『もし、私が、この後生きていれば、あの歩行を教えて上げましょう。もし、戦う事になれば、私があの歩行を実践してみせましょう。もう一度頭に刻みなさい。そして、私が死んだ後には此処を抜け出しなさい。三ヶ月もすれば娘が戻ります。後の事は娘が継ぐでしょう。』と。
面の男は、まるで何も無かったかのように、真白だった衣装と面が血だらけの真赤な姿でゆっくりと歩いてくる。彼の仲間たちに於いては何時もの事なのだろうが・・・
偉丈夫も面の男の傍らにより、話をすると一団へ戻って行く。助けられたライプチヒ兄弟の一人も駆け寄り、頭を掻きながら話し掛けている。
その姿は、我ら一族にあっては、真に凄惨な図だ。多くの者が慄いていることだろう。そして、その面の者が私へとゆっくり近づいてくる。今の私にあの者と対峙出来る力はあるだろうか・・・密かに指を動かす。
メドラーが、傍ら近くに寄ってくる。
『メドラー。良い。』
『しかし・・・』
更に下がるように手で示す。
面の男が私の傍らに来る。相変わらず、殺気がない。怖ろしい事だ。
私は気を落ち着かせ、斬撃に対処すべく、心を無にする。




