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ジオの夢 二十四話 暗殺者

ーーーーーーーーーーーー

『ジオ、あの者の痕跡も消えたみたいだが、これからどうする?探し回るか?』とベロニカが聞く。

『慌ただしかったからな・・・』とジオ。

『一旦、ベルデノルンに戻ろうと思う。』と。

『おお、坊の本拠地か、私も一緒したいが・・・』とネフェルティ。

『ああ、オレはよいが・・・母者はどうじゃ?』

『ええ、勿論歓迎いたしますわ。ネフェルティ様。』とレディティアが微笑む。

『レディティア殿、お世話になります。』


真夜中に白いテントが亀裂都市を飛び立つ。音も無く、星空に舞い上がる。地面よりはるか上空を北西に、馬車より速い速度で北西に進んで行く。

そのテントの中では真夜中だというのに、誰も寝ているものはいない。

『ねえ、ジオ。又、夢の話の続きをお願い。』とレディティアが言う。

『ああ、では続きだ。』

ーーーーーーーーーーーー


オレは夏の都から戻って領内の整備を行った。領地拡大による行政組織の編成。道路の拡張や水路の施設、拡張、それに橋の架替えなどの土木工事。月の旅団の編成、訓練、そして依頼による派遣。派遣の依頼は後を絶たなかった。


特に、ヴァイスの家はカールの兄ジュストが家長を継ぎ、領地の離れた各家と同盟を結び隣接する家々を攻め、併合し、領地の拡大が顕著であった。その為、利害の無い家々であっても、ヴァイスの拡大は脅威であり、自家の拡大を図らざる負えず、紛争は絶えなかった。傭兵団である月の旅団にも闇夜の黒猫を通しての依頼が絶えることが無い。

旅団はアラインバルトの兵だ。まして、選びぬかれた兵だ。弱いはずがない。名声は高まった。


特にオレは何かした訳では無い。皆、それぞれ得意な大人に担当してもらった。何せ、オレはやっと十五に成ったばかりだ。オレは呑気に、北の都とゴドロノフを往復して過ごす。


ゴドロノフは自治都市として、オレ等が影で治めるようになってから更に発展し、敷地自体も倍以上に周りに拡大している。店舗も色々増えている。その店舗を見て歩くのは楽しい。行き付けの店も出来た。オレは何処かの商団の放蕩息子で通している。だから顔を隠していても誰も気にしていない。皆には内緒だが、女性が相手してくれる酒店も見つけた。女性と話しながら飲む酒は中々にたのしい。


今日も一人で街を歩いている。未だ知らない店は多い。

と、黒髪の若い女性が後を付いてくる。その女性の殺気が伝わってくる。オレを殺しに来られたようだ。腕の方は悪くはないが、まだまだ足りない。街の外れ、店舗の建築を待っている、人影の無い地域に歩いて行く。


草地に木の生えた辺りに着く。

『お姉さん、私に何か御用でしょうか?』と振り返り、フードを上げて微笑んで言う。

オレが少年なのを見て驚くが、

『少年・・・済まない。命を貰えと言われて来た・・・』

と目の大きな整った顔立ちの、長い黒髪がうねったお姉さんが苦渋に満ちた声で言われる。

硬い革の袖なしの上着に、膝までの革のズボン、膝からの革の靴。肘から手首迄の革の腕巻を身に着けている。兵士と云うより、傭兵のようだ。


『お姉さん、私で間違いは無いのでしょうか。』

『ああ、間違えは無い・・・』

『では、仕方有りません。でも、私は一つしか持ってはいないので、簡単に差し上げる訳にはいかないのです。』とオレ。

『そうだな・・・』と言って中剣を抜く。

お姉さんは、じりじりとオレに近寄って来ると、瞬時に中剣の間合いに入り剣を左から振るう。オレは一本の六角棒で受けると、鉄扇でお姉さんの脇腹を突く。お姉さんが倒れる。お姉さんは息がつまり気絶したようだ。

このまま、去ってくれれば良いなと思いながら、オレは急いでその場を後にし、行き付けの店に行く。


オレは、昨日と同じ時間、同じ道順で歩いている。再び、お姉さんの気配だ。お姉さんに昨日の様な殺気は無い。後ろを気にしている。その後方には、気配を小さくした嫌な物を感じる。今日も昨日に近い場所に移動する。そこに植わっている木は一本だ。隠れれる場所はその木だけだ。


『お姉さん。再び来られましたか?私の腕前はお分かりになられたと思ったのですが、残念です。』とおれが言う。

『ええ、私では少年の命を貰うのは無理だと解りました・・・それでも・・・戦わねばなりません・・・』と、お姉さんは辛そうだ。

『そうですか・・・では、仕方有りませんね。お相手致しますが、私より、お姉さんの後に気を付けて下さいね。』とオレ。

それを聞いて目を瞠るお姉さん。

『・・・少年は何でも分かるのね・・・』とお姉さんが呟く。

そして、お姉さんは剣を抜くと、ゆっくりと間合いを詰めてくると、躊躇せず剣をはらう。昨日の振りより、鋭い。そして、次の太刀へと繋いでゆく。オレは一太刀目を躱し、二太刀目を受ける。と、後の隠れていた殺気が強くなり、ゆらぎ始める。その殺気が固まる。オレはお姉さんの中剣を弾き、お姉さんも飛ばす。後方の殺気の主は吹き矢を喰わえ、矢を飛ばしていたが、一吹き目を外し、二吹き目を飛ばす。

何故こちらに吹かず、お姉さんを狙う?と考えながらオレは吹き矢の主に短刀を投げる。短刀は誤たず、吹き矢の主の喉に刺さる。吹き矢の主が倒れる。吹き矢の主は覚えのある緑の作務衣を纏っている。


お姉さんは腿に矢が刺さったようだ。呻いている。今日のお姉さんの装いは下が短く肌が出ている。

『お姉さん、針は抜かないように。私が抜きますから。いいですね。』と、オレ。

急いでお姉さんの側に寄ると、お姉さんの腿から針を抜き、懐から出した薬液に針を浸ける。毒の種類は猛毒であるが中和は出来る。傷口から毒用の中和剤を練り込む。

『今日は、この後、熱と痛みが出ます。しかし明日の朝には熱も痛みも引きますので、ご心配なさらぬように。』

『少年は何でも知っているのね・・・』

汗も大量に搔き始める。

すぐに、お姉さんは意識がなくなり、動けなくなる。熱が出たようだ。


オレはお姉さんを背負い、一族の経営する宿に向う。その宿は一族専用であり、宿としての門構えではなく、大きな民家の門構えだ。その門を抜け、玄関を入っていく。

『レイ様、落とし物を拾われたので御座いますか?』と中から出て来た女性が笑いながら聞く。

『ええ、十五歳の身には少々重たいですが。』と相手をする。

『その様なお言葉、知られたらがっかりされますよ。』と。

『・・・部屋は空いていますか?・・・お願いしたいのですが。』と、少々、ばつが悪そうに聞く。

『いつものお部屋へどうぞ』と女性が微笑んで言われる。


一晩が明けた。オレは、いつも使う部屋にいる。特に他の一人用の部屋と変わりはない。ただ、再奥に位置し、湯処に行くのに便利だ。

黒髪の若い女性の熱は下がったようだ。来ている物をぬがし、汗を拭き、傷口の薬を練り直している。今は、薄い布を掛けてある。

女性が気が付いたようだ。オレは窓際で声が掛かるまで外を見ている。自分が布の下が裸であるのに気がついたが、その事は気にしていないようだ。傍らに剣が有るので安堵したようだ。着ていた衣服も置いてある。


『少年。お世話になりました。』と、の声がする。

『いえ、困った時はお互い様ですから。』と振り返る。

オレは面をしていない。髪は後で結んでいる。女性が息を呑むのが分かる。どうかしたのだろうか・・・

そして女性が泣き始める。

『どうかされましたか?』とオレが聞く。

『私は・・・私は・・・してはならない事を致してしまいました・・・』と、さめざめと泣いている。


女性が泣き止み、落ち着いた頃合いを見計らって、オレは話し掛ける。

『さっ、理由をお聞かせ下さい。未だ、お名前も伺っておりませぬ。』

『私はバビアナと申します。フェイレーンの一族で御座います。私は闘士長の許可なく殺しの命を受けて此処に参りました。その命を発したのは導師で有りました。もう一人の者と、相談いたしましたが、闘士長には相談せずに、受けるしかないとの結論に至りました。それは闘士長の嫡子が導師に取られているからであります。しかし、今此処にあって、北の御曹司様の命を狙ったとなれば、我らは同胞の元に戻ることが適いませぬ。闘士長は常々、我らもこの様な村に何時までも居る必要はない。必ずや、北の御曹司様が当主となられたあかつきには、多くの一族の居る、ご当主様の元へ連れ戻してくれる故、もう少しの辛抱だ、と申うされ、そのご容貌を事細かく教え頂いておりました。今・・・ここで拝見致しますご容貌はお話に違わず、一目にて・・』と、また泣かれ始める。


『バビアナ様。大丈夫で御座います、何も気にされる事はありませぬ。さっ、私をお抱き下さい。心が晴れますから。多くの母様達がそう申されます。』とお姉さんに抱かれるように手を伸ばす。


当主となりて、代々の当主の遺言に目を通さなければならない。その時に十代前の当主のご遺言にフェイレーンの名を見て驚いた。約三百年前、当主の弟に付いて出たが、必ず探し出し戻して欲しいと有った。理由は無かった。が、先祖の遺言だ。出来る事はしなければならない。


『少しは落ち着かれましたか。』と抱かれたままオレが聞く。

『はい。御曹司様。』

『・・・御曹司はお止め下さい。レイで構いませぬ。因みにもう当主であります。実は、シラン様、シンシア様の居場所が分からず難儀しておりました。』とオレが言う。

バビアナ様は顔を伏せている。


今は二人で湯に浸かっている。バビアナ様が落ち着かれ、汗を落としたいと申され、湯処にいる。

『レイ様は多くの方々に心配されておりますね。』と染み染みと言オレの髪を撫でながら言われる。

随分と落ち着かれたようだ。色々と聞かねばと思い質問する。

『バビアナ様、もう一方ご一緒とお伺い致しましたが・・・』とオレ。


もう一人、オレを狙って連れ出された方がいるそうだ。その方は男で、フェイレーンの闘士では男性は珍しいらしい。腕前もバビアナ様より上であるようだ。男であれば手加減も気にする必要は無いので助かる。シンシア様の嫡男の事情も聞いたが、こちらは少々厄介だ。面と向かわないとどうするか決まらない。先ず、もう一方の男の方の問題を片付けよう。

『バビアナ様、お加減は如何でしょう?宜しければ明日、もう一方にお会いしようと思うのですが・・・』と提案してみる。

『はい、お陰様にて具合いは良くなりました。ですので私は大丈夫でございます。』とバビアナ様が言って下さった。


今日も、何時もの通りに、同じ通りを歩いている。バビアナ様には離れて様子を見て頂いている。すると、直ぐに大きな男が後ろを付いてくる来る。殺気が生々しい。それと更に後ろに、隠した気配が二つ漂っている。そのうち一つは更に後ろに隠れている。おそらく、見届人であろう。

取り敢えず、人影の見えない地域に向かう。バビアナ様は上手く隠れていられるだろうか・・・少々心配ではある。


人影の見えない地域に来れた。オレは止まると振り返る。

『何か御用でしょうか?』と後ろを付いて来た男の方に尋ねる。

『少々、物を訪ねたいが・・・』と、俺の顔と声を聞いて驚いたようだ。勿論、下半分の面を付けているが、声で年を察したのだろう。男の殺気も失せている。

『どのような事でございましょう?』

『二十歳頃の黒髪の女性が訪ねて来なかったであろうか?』と男の方が聞く。

『さて、私は知りませぬが、こう見えても商団の放蕩息子ではありますが、一応嫡男でありまして、私の知らぬところで色々起こります。何なら知る者に聞いて参りましょうか?』と、オレは聞く。

『そうか・・・いや、良い。・・・すまぬが少年の命を貰いたい・・・』と。

男の方が大剣を右肩に構える。

『人違いでは有りませぬか?私は人に襲われる覚えはないのです。貴男の探しておられる女性は、私ではなく別の方の所に行かれたのでは有りませぬか?』

『そのような事は、無いと思う・・・取り敢えず首を貰って帰らねばならないのでな。』と、素早い動きで大剣の間合いにオレを入れるように移動する。そして、肩に担いだ大剣を払う。オレは左に体を躱しながら、隠れている一人の男の方に逃げて行く。男の方は躱されるとは思わなかったのか、驚いたが直ぐにオレを追ってくる。


オレは隠れている濃い緑の衣装の男の脇を抜けながら、男の一撃を躱し、黒の長剣でその男の首を落とし、そのまま草の中に待機している、やはり濃い緑の衣装の男に、向かって行く。男はぼっとしていたが、慌てて逃げようとするが、オレの剣の一閃が速い。男の首は落ちて転がる。

それを見ていた男の方が叫ぶ。

『何者だ?』と。


そこにバビアナ様が現れ、男の方に説明を始める。オレは、この遺体をどうしたものか考えている。


と、十人程の男たちが現れ、遺体と首を運んでいく。遠くからベルン殿が頷いて去って行かれた。

助かったな・・・人に見せられるものでは無いからな・・・










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