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ジオの夢 十七、アゾフ平原の戦い

ベルン殿の報告により、ヴァイス、クラウス、ギレンの各大公家が戦の支度をしているとの事。勿論、協同でのアゾフ平原の奪取であろう。子供が当主と言えども、不敗の宗家である。慎重を期しての事もある。また、三家は均衡している故、均衡を崩したくないのも理由だろう。


オレはジンツァーとミュンツァー殿に三万の兵を引き連れ、ゴドロノフに行ってもらった。また、各候家と山の民の代表に政務館に集まってもらった。

『皆様、お集まり頂き有難うございます。やはり戦は避けられぬようでございます。大公家三家が戦支度を始めたとの連絡を頂きました。。取り敢えず、三万の兵をゴドロノフに送ったところでございます。つきましては、皆様方にもご協力を、と思うております。』と話を始めた。

三万を中央、右翼、左翼、後詰に各一万の兵で菱形四方の陣形。中央はオレ、シュニッツァー殿、オーレンドルフ殿。右翼はジンツァー殿、メルダース殿、左翼はミュンツァー殿、マイザー殿、後詰にラドー殿と山の民の方々で布陣すると話した。特に異論は出ない。


大公三家は準備が整ったのか、それほど日数を経ず、進軍を始めた。

大公家の進軍に合わせ、我らも追加の兵を二万と共にゴドロノフに移動する。そして大公三家を迎え撃つ為に、アゾフ平原南部境界の大部手前にに布陣する。この地は平原だ。兵を隠して置く場所は無い。お互いに伏兵を気にする必要は無い。


大公三家の兵が進軍して来るのが見える。その兵はアゾフ平原に侵入し、我らの前に展開する。中央がほぼ八万、ヴァイス家。左翼は三万、クラウス家。右翼は五万、ギレン家。兵を持って領内に侵入した以上、言い訳は通じない。侵略と断じ殲滅するのみ・・・


クラウスの兵が少ない。何か考えているのだろうか・・・

と、ギレンの兵の一部が離脱をはじめる。

どうした、迂回策かな・・・暫く、様子を見るか・・・


ギレン家方面、斜め前方より、人が一人向かって来るのが見える。オレは止めさせる事をせずに、その男の好きなようにさせる。その男はオレの前で礼をすると顔を上げる。


『おお、タンバ殿では在りませぬか?此の様な場所でお会いするとは奇縁でありますね。如何されましたか?』と面を外して尋ねる。タンバ殿は嬉しそうに笑う。名を覚えられていた事を喜んでくれたようだ。

『キラト様よりのご伝言に出御座います。この度はサキ様の軍とは知らず、ギレン家の要請に従い従軍して参りましたが、サキ様と対峙する気は毛頭ありませぬ。直ちに兵を連れて離脱致します故、何卒ご容赦を。との事で御座います。』

と言うなりタンバ殿は去っていく。


『レイ様は顔がお広うございますな。』と、シュニッツァー殿に笑いながら言われる。

『はい。多くの女性の方々にお助け頂いております。』笑い返す。

ギレンの陣に一部混乱は見える。ほぼ一万の兵が離脱して行く。うん、なかなかに、キラト殿は信望がある・・・

それでもギレン殿は上手く統制している。


『懸念も去りました。進軍致しましょう。オーレンドルフ殿、シュニッツァー殿、兵をお願い致します。』と言う。

最初はゆっくりと、少しづつ進軍の速度を上げなから、ヴァイスの軍に向けて進んで行く。

クラウス家やギレン家であれば統制も取れているし、手練れも少なからず居るだろうから、慎重さが必要だ。しかしヴァイス家は新興だ。兵の数は多いが、寄せ集めで訓練が足りていない。


オレは単独にてヴァイスの先頭に幻馬を乗り入れる。無造作に、向かって来る雑兵は気絶させ、指揮官の首を落として進む。兵を率いるシュニッツァー殿とオーレンドルフ殿は一定の間隔を空け、左右から向かって来る兵を掃討しながら付いて来る。更に、オレは兵を一撃で気絶させ、または首を切り払いながら、ヴァイスの本陣に向かい進めて行く。やはり、ヴァイスの兵は弱い。近くで首が落とされるのを見た途端に我先と、兵が逃げ始める。その逃げ出した兵がヴァイスの本陣やクラウス家、ギレン家の陣に殺到し、混乱を拡げていく。その混乱の最中に、オレはヴァイス家本陣に到達する。ヴァイス家本陣には多くの者が椅子に座っている。


オレはヴァイス家の者達を見る。

この者達は何をしに来たのだ・・・美しい衣装に身を飾り、武具も身体から離している。宴会だろうか。一瞬間違いを犯したかと思うが・・・

目当ての者達が動き始め、剣を抜くに当り、オレの片穂の槍が、一閃、一閃、美しい衣装の首を通り過ぎていく。直ぐに、ヴァイスの本陣に動く者はいなくなる。


ヴァイスの本陣の異変を察知したのか、クラウス家が引いていく。

クラウス家は、引くのが早いな・・・何か有ったか・・・

ギレン家もクラウス家が引くのを見ると、引き上げに入る。

それを見てオレはジンツァー殿、ミュンツァー殿に伝言を送る。そして兵を纏め待機する。

『あっさりと終わってしまいましたな。』とオーレンドルフ殿。

『はい。楽に勝てて良う御座いました。』とオレ。

ジンツァー殿、ミュンツァー殿がそれぞれ五千の兵を引き連れ、ヴァイス領に向い動き始める。その後に輸送部隊が付いて行く。

そして、各候家の方々と山の他の代表の方々が集まる。

『皆様、この度はお疲れ様でございました。被害も少なく何よりで御座いました。我らは、これよりヴァイス領に向かい、取り立てを行うつもりでございますが、皆様には後始末を、オーレンドルフ殿の元でお願い申し上げまする。オーレンドルフ殿にはメルダース殿に替わりて、ゴドロノフの総督をお願い致します。』と皆様の顔を見る。メルダース殿は嬉しそうだが、オーレンドルフ殿は困った顔をされている。


オレはシュニッツァー殿と二万の兵を連れて、ジンツァー殿とミュンツァー殿と合流し、ヴァイス領へ侵入する。遠くからヴァイスの残兵が見ているのが分かる。

ヴァイス領は西方地域のほぼ中心にあり、穀物の生産地帯でもある。ヴァイスの街は中央東西街道が近くを通り、交易でも栄えている。街の規模も中々に大きい。目指すはヴァイス家の屋敷だ。事前に食料庫、宝物庫、資材庫は調べてある。ヴァイスの街に入る。抵抗はない。


街の人々は何が起こっているか知らないようだ。オレを見て、ただただ驚いている。それはそうだ。オレは元の衣装こそ白いが今はフードから面、そして身体の上半分が血だらけだ。人々を殺してきたのが見ただけで分かる。

多くの人がオレを見ている。その中に見知った顔がある。カールだ。付き合いは一週間程だか気は合った。屋敷に居なくて良かった。


ヴァイスの屋敷に人は居なかった。宝物、食料、資材はあり過ぎるほど有った。押収出来る物は全て押収した。屋敷を焼く必要もないのでそのままにした。ヴァイスの街を出る。オレはシュニッツァー殿と二万の兵を連れてギレン領に向かう。他の皆は略奪した物を守ってゴドロノフに帰って行く。


ーーーーーー

『洗い浚い、金目の物を持っていかれたな。』と兄が笑っている。

『兄貴は憎くないのか?親父を殺されたんだぞ。』とオレが聞く。

『なあカール。人様の家に強盗に入った。強けりゃ帰って来れる。今迄は帰って来れた。今度は相手が強い。殺していたのが殺された。そして当然の如く持っていかれた。それだけだ。』

『それに忠告はしただろう。殺されるから止めろって。しかし、馬鹿な叔父達に逆らえなかった。その叔父達も殺されたんだ。文句はないな。今度はオレが殺してやるだけだ。』と兄。

『兄貴がそう言うなら・・・』とオレ。

『普通なら街は焼かれ、屋敷も焼かれても仕方なかったんだぞ。それだけだでも御の字だ。』

『多分、俺に気づいていたみたいだった・・・』

『そうか・・・』

ーーーーーー


ギレンの街に向かうには、このザバの森を抜けていかなければならない。ここはトレド草原の反対側に当たる。兵をタリオン殿に任せ、シュニッツァー殿と十人程で森に入っていく。まず、サバ様のご様子を見なければ。さてサバ様の村はどちらだろう・・・

『サキ殿。お迎えに上がりました。』と女性の声がする。

オレは声の方を見る。見慣れた顔だ。

『母様。お元気で御座いましたか?』と笑いながら近づき、そのお身体を抱きしめる。

『サキ殿。キラト様から聞きましたよ。ギレン家に侵略されたそうですね。なんてことでしょう。我らが知って入れば侵略などさせなかったものを・・・』と憤慨して下さる。

『母様、私が立場をお教えしなかったのが悪いのです。母様達こそ大丈夫でございますか?途中で兵を引かれたのです。心配しておりました。取り敢えず、村にご案内下さいませ。キラト様にお礼を申し上げなければ。』


こちら側から村に入るのは大変だ。曲がりくねった道を進み、何度も見えない所を折れていく。母様はオレの幻馬にオレと乗り、ご機嫌だ。シュニッツァー殿の他一族の者達は不思議そうに付いて来る。


村に入ると多くの人々が待っている。村に着くなり、女性の方々の儀式が始まる。女性の方々に抱かれ、髪を撫でられる。

最後に姉様だ。姉様に抱かれた後、姉さまが言われる。

『サキ、あんた、腕がいいからって、争ってばかりしていたら怪我するわよ。程々にしなさいよ。』

確かに・・・言い返す言葉は無い、ただ笑って頷いた。


『レイ様もこちらの方々にあっては形無しですな。』とシュニッツァー殿が嬉しそうに言われる。

『シュニッツァー殿。私は十二歳なのです。女性の方々は私を子供として扱って下さいます。しかし、男の方々は、私を成人と見られて期待されている気が致しますが・・・』と、睨んでみる。

シュニッツァー殿が困った顔をしている。

うんうん、いいぞ・・・

『だから、私はサキと湯に浸からなければいけないのよ。面倒だから、早く大人になって頂戴。』と姉様が訳の分らないことを言われる。オレも男衆もキョトンとしているが、女性の方々は笑っておられる。不思議だ・・・まあいいか・・・

『母様、これからギレン殿の処に向かいたいのです。これではいかにも争いに来たと思われても仕方ありませぬ。』と着ている、血だらけの外套と内衣を見る。

『サキ殿に着ていただこうと用意していたのが有りますのよ。』と。


『母様。これは目立ち過ぎませぬか?』と。

薄い赤色の内衣に、黄色を主とした色取り々の花柄の薄い外套だ。頭にも同じ柄の頭巾だ。男衆は目を見張っている。

『あんたは、女子でも通る美しい顔だから大丈夫よ。それに子供だから魔除けもしなさいよ。』と姉様が言う。


これは嫌がらせか・・・顔に赤と黒の文様を付けられた。

『サキ殿、子供らしくて似合うわ。』とサバ様。

『シュニッツァー殿、済みませぬが代理を。私は子供です。舐められたら困りますので。』と。

『はい、サキ様。畏まりました。』と、シュニッツァー殿が苦笑する。





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