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ジオの夢 十六、白魔

『では、私の話を。今年は白魔が参ります。で、其の対策につきお話をさせて頂ければと思い、罷り越しました。』

場の雰囲気が変わる。ざわざわと話が聞こえる。

『静かに。』とザイラ様の声がとぶ。

場が静まる。

『レイ様、我々には余分な資材もなければ、男衆もおりませぬ。』とザイラ様。

『冬の間だけアゾフ平原の街に移るのはどうでしょう。暖かく、土地も広うございますよ。』とオレ。

『それは出来ませぬ。』と即座に言われる。ざわつきも直ぐに収まる。

『ここは住みづらいとはいえ、先祖代々冬も越して参りました。男衆が居ればともかく、今はおりませぬ故、勝手は出来ませぬ。折角のお話ではありますが・・・』

『では、他の部族の方々と同様に、家を建て直し、倉庫を造り、通路を確保するのです。其の為には人手を入れねばなりませ。其のご許可を頂きたいのです。』

『レイ様、そこまでせずとも何とかやれると思います・・・宗家のご援助は有難いのです。しかし、そこまでして頂くのは心苦しいのです。』


『山の祖父が申しておりました。他の山の民の方々の中には、今のザイラ様と同じ事を申され辞退される方がおられたと聞きました。その時にこう申されたそうです。』

『宗家が何故、一族を纏めるのを急がれたのか?そして、幾つ物の自治領を押さえられたのか?分かるか?それは白魔の為じゃ。舐めてはいかん。相当の準備をせねば家族皆死ぬぞ。秋の終わりから春の初めまで雪に閉ざされるのじゃ。お前一人が死ぬならよい。しかし、家族も死ぬぞ。それに下手な遠慮は周りにも迷惑を掛ける。四の五の言わずやれ。レイ様は領地全てに平等に為されているのだ。余計な心配はするな。』と。


『ザイラ様。我々は家族で在りませぬか。遠慮は御無用に。祖父も父も、生前申しておりました。』

『宗家などは穀潰しにすぎぬ。一族の皆が宗家、宗家と離れずに居てくれる故、三千年も続いたに過ぎぬ。せめて皆が困らぬように、また皆が困った時には、少しでも助けられる様にせねばならぬ。』と。

『甘えて下さりませぬか。』とオレ。

『レイ様。有難うございます。ではその様に・・・』と涙を拭われる。

『草葉の陰で、祖父も父も喜んでくれておりましょう。』


『雪が溶ければ一戦しなければなりませぬ。それが済めば、楽になりましょう。さすれば、レーベン様や男衆を迎えに行くことが出来ると思います。それまではご容赦下さい。』

『レイ様、戦が有るのでございますか?』と、何方かが聞かれる。

『はい。アゾフ平原は本来北部のみ領有致しておりましたが、この度、南部も自治領とし後見する事と致しました。それ故、それを面白く思わない御仁、その際に葬った家に縁のある方々、がちょっかいを掛けてくると思うております。』

『では、我らも出陣の用意をせねばなりませぬな。』と。その方が申される。

『いえいえ、その程度と申しては過信していると思われかねませぬが、予想の範囲でござりますゆえ、お気遣いはいりませぬ。レーベン様ご帰還のあかつきにはお願いすることもあろうかと考えます故。』と手も振って断る。

『我らが女のみと思いになられ、役に立たぬとお考えになられますか?』

『是非参加を!』と、また別の方々の声がする。


『いえ、役に立つ立たぬはまた別の話にございます。

戦は勝つためにするのは当たり前でございますが、勝つだけでは駄目なのです。いかに戦費を抑え、戦費以上のものを得るか考えねばなりませぬ。戦費には兵の方々の賃金、食料、資材、そして戦で怪我をされた方や亡くなられた方への補償を考えねばなりませぬ。それを補って余りある物が得られなければ戦はするな、と云うのが宗家の掟にございます。祖父や父は戦をしておりませぬ。それは一族の利害を考えての事に御座いましょう。』


『私も、出来れば戦はしたくないのです。しかし、攻めて来られるのであれば、二度と攻め入る気にならぬよう、完膚なきまでに叩きのめさねばなりませぬ。その為には十分な訓練と連携が必要なのです。いかに強力な部隊であっても、急なる参加では、他の部隊との意思疎通に齟齬があるかも知れませぬ。それにより、怪我人や死亡者が増えるような事があってはなりません。故に、この度の戦では宗家の兵のみで当たるつもりでおります。せっかくのお申し出ではありますが、今回はご容赦下さい。蔑ろになどしているわけではないのです。』と頭をさげる。


『レイ様。頭をお上げ下さい。我らが無理を申しました。我らはレイ様の御身を案じた故の事。そこまでお考えとは知らず申し訳ございません』とザイラ様が言われる。

『いえ、戦は無い事に越した事はないのですが・・・』

『レイ様はお幾つであられますか?』と他の方に聞かれる。

『はい、今年で十二になります。』とオレ。

周りから驚きの声が上がる。

『さすが宗家のご当主・・・』などと声が聞こえる。

なんせ三千十二歳ですからと内心で呟く。


『レイ様はこちらにはいかほど滞在頂けるのでしょうか?』

『出来ますれば、七日程ご厄介になりたいのです。保存色も届きます故、皆様方にもお召し上がり頂き、御意見など賜ればと思うております。』

『それは嬉しい。』


保存食は、一日過ぎて午後遅く届いた。集会場で皆で食する。特に不満を申させる方もおらず、安堵した。他の山の民や平地の民の男衆の村への出入りも許可され、工事に入る事が出来た。そちらもほっとした。白魔が来るのは近い。急がねば・・・


ーーーーーー

母者、サラ、オレは雪というのを初め知ったぞ。雪という物は冷たく、怖ろしいモノだった。こちらの世界には無いからな。白魔とはよう言ったモノだ。雪はふり始めると間断なく振り続けた。いつ止むのか、止まなんだらどうしたらよいのかドキドキしたわ。そうじゃ、オレは自分の屋敷に戻って、白魔を迎えた。


降り始めた雪は二十日ほども続いたわ。雪は各家々を覆い尽くし、田や畑、平地も全て覆われた。偶に、集会場に建てた櫓に登るのよ。辺り一面雪よ。高い樹木は雪から生えてるように見えて、奇妙であったな。不思議なことにな。雪はある高さ迄積もると、どんどん降っているにも係わらず、それ以上高くはならんかったぞ。また、雪の下は以外と明るうてな、昼間は明かりはいらんかった。二十日程雪が続くと、ニ、三日は晴れたな。すると、その積もった雪を通して、陽が入るのじゃが、雪に反射した光の美しさといったら、それは美しかった。母者やサラに見せてやりたいわ・・・

ーーーーーー


白魔は百二十日目に終わった。晴れ間も偶にあったが、雪はほぼ降り続けた。

そして、来るときも速かったが、去る時もはやかった。降り終わるとともに、積もっていた雪は掻き消えた。白魔と呼ばれる理由が何となく分った気がする。

アストリアス家の各地、候家、山の部族、それぞれより皆無事である旨の連絡が有った。それはとても嬉しい。


また、オーレンドルフ殿より、

『これから世間は楽しくなるようだ。私もそれに参加したい。だから、謹慎を解こうと思うのだが、如何だろうか?』と、ご連絡が有った。

『楽しいかは分かりませぬが、騒がしくなるのは確かであります。それで良ければ、ご謹慎をお解き下さい。』と返事をしておいた。オーレンドルフ殿にはメルダース殿の替りをして頂こう・・・

ベルン殿は如何したであろうか。





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