第三話 エア・プレーン
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エア・バイクの試乗で特に不具合はなかったようだ。
「これだけ守りが固いと安心できるかしら」
「うん」
「夜でも安心して乗れるのはいいわね」
「はい、雪が降っても大丈夫だと思います」
「私はもっと速くして欲しいかな」
いや、一人不満を感じているらしい。
──フタバさん、法定速度は守ってくださいですワ。
──「ほうていそくど」って何かな。
──え、えーと、スピードの出しすぎに注意しましょうという考えですワ。
──でも、急ぐときもあるんじゃないかな。
──え、ええ、まあ。そういうときもあるかもしれませんワ。
──じゃ、普段から鍛練しておいた方が良いかな。
──え、ええ、まあ、その通りなのですが、その、慣れてからの方が良いかと思いましテ。
──うん。じゃ、早く慣れるね。
──そ、そうですね。慣れてしまえば安全性は高くなりますワ。
──うん。じゃ、いっぱい練習しようね。
──そ、そうですね。フタバさんが安全に練習できる乗り物も用意しますワ。
──わあ、本当に?
──フタバさんのためなら、イロイロ頑張りますワ!
──もうっ、ヒトミったら。じゃあ、お願いしようかな。
──当然、よろしくてヨ。
──ふふ、ありがとヒトミ。
なぜか、スピードの出る乗り物を作ることになった。
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浮力は飛行船やエア・バイクと同じヘリウムの気のうとドローンの入った管で良さそうだ。揚力も使えば推力に回せる。推力を増やすのと同時に、空気抵抗も減らせば何とかなるか。宇宙航空機をモデルにしよう。宇宙航空機というのは宇宙にも行ける航空機のことだ。流線形なのは変わらない。もっと細長くした方が良いかもしれない。
リアルでは大気圏外だと回転デトネーションエンジンというものが使われている。小型でも強い推力が得られる。この世界ではやりすぎだと思う。衝撃波も大きい。もう少し古い技術にしておこう。ターボジェットエンジンでもまだ強すぎる。
ダクテッドファンぐらいにしておこう。ダクテッドファンというのは、ホバークラフトやドローンに使われていた技術だ。プロペラを筒でおおって推力を得ている。ヘリコプターのフェネストロンなどにも使われている。ドローンを管の中に入れたのは発光を隠すのが目的だった。その管を太くし、内部に大型のプロペラを設置すれば良さそうだ。周りにもれる音も小さくなる。
動力源は周囲のナノマシーンが蓄えている分を使う。ナノマシーンは疑似葉緑体で化学エネルギーを、光電素子で電気エネルギーを蓄えている。モーターにしておこうか。プロペラをモーターで回すことにする。電気モーターはまだ再現されていない。ドローンを組み合わせてモーターを作る。磁界は使わずドローンで動かすことにする。
有機ナノマシーンが動くときは鞭毛モーターというものが使われている。鞭毛モーターは磁界ではなくイオンの電位差で動く。その力をあつめて小型のドローンを動かしている。ドローンを大きくすると集まる力も大きくなる。その分重さも増える。大型のドローンを長時間飛ばすにはエネルギーが大量に必要だ。エア・バイクはヘリウムの気のうで浮力を得、エネルギーを節約している。
円盤を作りその周りに小型のドローンを多数設置する。小型のドローンを動かして円盤を回転させる。円盤の回転をプロペラに伝える。プロペラを筒でおおえば、ダクテッドファンができる。あまり大きくはできない。十六本のダクテッドファンを組み合わせ、一組の推進装置にする。四組作ればある程度の推進力が得られる。エネルギーの消費が大きい。近くにブドウ糖をストックしておく。
本体に取りかかる。速度を優先させるため二人乗りにしておく。貨物スペースも小さい。主翼と尾翼も取り付ける。エア・バイクや飛行船と同様ヘリウムの気のうを多数使って浮力を得る。主翼の下にダクテッドファンを取り付ける。薄くて細長い三角形のような形だ。周囲に小型ドローンを入れた管も取り付けておく。ゆっくり飛ぶのであれば管だけでも足りる。進路の微調整にも使える。センサーやライトも取り付ける。
全体の動きはプログラムで制御する。コマンド入力で上下や左右に移動できる。推進力の増減も同じだ。簡単な操縦装置も付けておく。飛行機の操縦席を真似しておく。これを動かしてもコマンドが伝わる。カメラとモニターを取り付け、保護色用のナノマシーンを表面に塗布する。上面に光電素子を並べ、エネルギー源の補助にする。これで完成だ。
エア・プレーンと呼ぶことにする。
──うわあ。カッコいいね、ヒトミ。
──フタバさんのために頑張りましたワ。
──ふふ、ありがとヒトミ。
──当然でしてヨ。
──じゃ、早速鍛練を始めようかな。
──え、ええ。最初は安全第一でお願いしますワ。
──うん。わかっているかな。
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──ちょ、ちょっと速すぎませんか。
──速くないと、鍛練にならないかな。
フタバさんがエア・プレーンの練習を始めた。森の上空に浮かぶまでエア・バイクや飛行船と同じだ。そこからダクテッドファンで加速できる。フタバさんは四機ともフルパワーに設定した。上昇や下降、左右の旋回の練習をしている。ロール飛行までやり始めた。そんな設定はしていない。フタバさんは左右のラダーを別々に動かし、機体を上下に旋回させている。ロールしながら上昇や下降まで行っている。
空気抵抗も考え今回は前後二列の座席にした。バゲットシートと呼ばれるものを使っている。シートベルトも四点式だ。搭乗者は風もまとっている。周りの景色が回っているが大丈夫なはず。エア・バイクや飛行船と同じく地表や障害物は自動的に避けるように設定している。失速しても浮力の大半はヘリウムの気のうで得ている。管の補助もある。
地表に向かって高速で近付いているが大丈夫なはず。念のためエア・プレーンにも風をまとわせる。何度か地表や山の木々をかすめたような気がする。エア・プレーンはまだ飛行している。きっと気のせいだったのだろう。
──あれ? 遅くなったかな。
──エ、エネルギーがなくなったのですワ。
──そうなんだ、仕方ないかな。
──え、ええ。そろそろ戻りましょう。
──もう少し、見切りの鍛練をしたかったかな。
──ひ、飛行機での練習は、また次回のこととしましょうね。オホホ。
ストックしていたブドウ糖がなくなった。フタバさんは飛行機で見切りの練習をしていたみたいだ。ぎりぎりでかわすため、相手の攻撃範囲や自分の動きを見極める練習だ。さすがはツカハラ家当主の娘だ。常に戦いに備えているのだろう。安全対策は可能な限り行ったつもりだった。私の認識が甘かったみたいだ。
⋯⋯リミッターを付けておこう。
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「では、行って参ります」
「行ってきます」
「はい、ヒトミ様、フタバ」
「うん」
「こちらは任せておいてよね」
「ヒトミさまたちも、お気をつけてください」
イノカとムツミ、ミツエとシノハにこの地方の守護をお願いしておいた。私とフタバはこれから都の学園に行く。情報の収集が目的だ。知識の再現も少し手伝う予定だ。ここから都まで、この世界のスケールで、直線距離で約100Kmになる。陸路だと長くなる。130Kmぐらいだと思う。山々の間を通るときは何度か曲がりながら進む。平地でも川を渡る場所は限られる。
徒歩だと三日はかかる。実際はもう少し長くなるそうだ。馬を乗り継いでも二日はかかる。馬車は徒歩より少し速い。山道を登るときは遅くなる。六人で行くときは飛行船を使う。飛行船の巡航速度は時速40Kmだ。早めに出発すれば半日は学園で調べものもできる。六人で行くときは日帰りにしている。私とフタバが行くときは一週間ぐらいになる。知識の再現も手伝っているからだ。魔物が多かったり、収穫の時期は早めに切り上げる。
ここと都の間に中継機も設置している。今回は中継機の点検と保守も行う予定だ。イクノブ家やツカハラ家との間にも中継機を設置している。北の山脈の近くには瘴気がある。そちらの中継機は数を増やしている。周りに霊刀化したドローンも設置している。
──ヒトミ、早く出発したいかな。
──え、ええ。安全第一でお願いしますワ。
今回はフタバがエア・プレーンを操縦することになっている。リミッターも付けたので大丈夫なはず。




