第四話 招かれざる客
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──フ、フタバさん、そろそろ減速をお願いしますワ。
──うん、わかった。
エア・プレーンで都に向かう途中、中継機の保守点検を行っている。出発したばかりだ。この辺りはまだ少し瘴気が届くこともある。中継機の周りに霊刀化したドローンも設置している。中継機からの信号は最長で2Km届く。念のため1Kmごとに設置している。フタバさんがエア・プレーンを近くで滞空させてくれる。
少し木々をかすめた。エア・プレーンの本体はカーボンナノチューブが主な材料になっている。他に超高分子量ポリマーも使われている。ヘリウムの気のうも同じ素材だ。木々をかすめたぐらいなら平気なはずだ。
リミッターで最高速度を制限している。ロール飛行はできない。障害物に接近し過ぎると自動的に避ける。ただこちらはコマンドでキャンセルできる。見切りの練習のためか、最初からキャンセルされている。エア・プレーンを降りなくても信号は届く。特に問題はないようだ。念のため中継機とドローンの数を増やしておく。ドローンの霊刀化もやっておく。
──終わりましたワ。次のところへお願いします。
──急いだ方が良いかな。
──え、えーと、普通で構いませんワ。
──じゃ、普通に急ぐね。
何度か木々や山をかすめた。さすがはフタバさんだ。もう対応している。対応するごとに更に近付いているが。接近速度も上がってきている。これなら飛行機で「後の先」を取れると思う。どんな状況で使うのかは不明だが。
いくつかの中継機を通して状態の確認やドローンの追加はできる。少し効率が下がる。時間があるときは近くで調整した方が良い。時間がないときは中継機ごしの操作もできる。
平地に出てからは加速と減速だけになる。保護色で周りからは認識されにくい。もともと人気のない場所を選んで、中継機を設置している。遠目に何人か見えた。こちらを向くこともなかったので、大丈夫だったと思う。フタバさんの加速と減速は鋭くなっていく。踏み込みの練習もしているようだ。魔人と戦ったときも、踏み込みを意識したら太刀が届いたと言っていた。いかなるときも練習に繋げるのはさすがだ。
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「ここも久しぶりな気がするかな」
「え、ええ。そ、そうですわね」
都の学園に無事到着した。私とフタバがいるのは、寮の裏手にある稽古場だ。私たちは都の知人の家で時々お世話になっていることにしている。ツカハラ家からフソウ家に話を通して合わせてもらっている。フソウ家はこの学園の運営をしている。
ツカハラ家のヨシヒデさんとヨシノリさんに影の魔人や禍々しい魔獣の報告もしている。トウジさんとトミカさんのことも報告した。当分の間オオエヤマ家のあった地方にいる許可も得ている。峠を通って来る魔物が増えたり強くなったときは、ツカハラ家に一旦戻るつもりだ。念のため監視用のドローンと中継機も設置している。霊刀や神刀も追加しておいた。タネミさんの経路も繋いでおいた。
ミツエとシノハも同様だ。二人ともイクノブ家の許可は得ている。シノハが精霊であったことも報告したと言っていた。普通の精霊は長くても十年ぐらいしかいない。シノハはもっと長くミツエと一緒に過ごせるはずだ。イクノブ家では今まで通り二人を姉妹として扱うつもりだそうだ。下手な干渉をしてシノハが「還る」ことを案じたのかもしれない。それだけではないと思う。
二人を本当の娘だと思っているところもあるようだ。ミツエが霊珠を求めて都の学園に来るときも、すぐ許可がおりたらしい。イクノブ家でもどうにかしたいという気持ちはあったのだと思う。シノハの霊気の緩みが治ったことを喜んでいたそうだ。ミツエの中の魔核がなくなったことも同様に喜ばれたらしい。二人の祖父がイクノブ家の現当主だそうだ。二人の父は次男にあたると言っていた。ミツエの伯父が次期当主で従兄がその次の当主になるようだ。
イノカはオオエヤマ家をいつか立て直したいと言っていた。イノカが婿をとり子孫を増やせば可能かもしれない。イノカはまだ十代だ。私とフタバより一つ年上だったと思う。そういった話が出るまではオオエヤマ家の地方を守り、ムツミと過ごしたいとのことだった。
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ともかく食事と休む準備に取りかかろう。稽古場の脇に建てたコテージは、木や草のネットにおおわれている。一見すると木々が繁っているようにしか見えない。すき間も葉でおおわれて中が見えない。
私とフタバが近付くと入り口ができた。私たちでだけでなく、他の四人の誰が近付いてもそうなるように設定している。私たち六人以外の人が近付くと木々に阻まれる。無理をすれば入ることはできる。コテージの鍵は開けられないはず。コテージの鍵は生体認証にしている。ネットやコテージの中の掃除はナノマシーンが自動的にやってくれるように設定した。空気の入れ替えも任せている。集めたゴミは分解し、森の木々の肥料になるように設定している。
動力源は屋根に並べた光電素子で蓄えている。都は南の方にあるので気温が高い。コテージ内の空調はナノマシーンの熱電素子で行っている。一年中過ごしやすいように設定している。オオエヤマ家の近くの森のコテージも同様だ。
──ヒトミ。
──うん、わかってる。
コテージの中に人がいる気配があった。
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「勝手ながら、上がらせてもらっております」
「やっと来たかのう、随分待たされたわい」
コテージの中には二人の女性がいた。二人ともリビングで寛いでいた。年齢は私たちより少し上に見える。
「⋯⋯ヒトミと申します」
「フタバです」
フタバの剣気が膨れ上がる。
「これはご丁寧に。申し遅れました、ナナミと申します」
「ヤツエじゃ。そこの嬢ちゃんよ、剣気を沈めてくれんか? ついその気になってしまいそうじゃ」
「フタバ、この二人から敵意は感じません。今のところはですが」
「うん、わかった」
フタバの剣気が一旦小さくなる。
「そうですね、今のところ敵対するつもりはありません」
「そうじゃのう、今はそうかのう」
「⋯⋯この先、変わるかもしれないのでしょうか」
「それはまあ、お話次第といったとこですよ、ヒトミ。呼び捨てでも構いませんか。人と話すのは久しぶりなので、礼儀作法に疎くなってしまいました」
⋯⋯人と話すのが久しぶり、か。
「ええ、もちろん構いません。ではこちらも、ナナミとヤツエとお呼びしても良いでしょうか」
「そうですね。その方が話しやすければ、どうぞ」
「なんじゃ、わしもかのう。まあ礼儀を知らんのはわしも同じじゃ、構わんぞ」
ナナミとヤツエから漏れているのは霊気だ。二人の霊気は少し紫の光が出ている。ヤツエの霊気にはわずかなにごりが感じられる。シノハの霊気が安定していなかったころに少し似ている。
「⋯⋯それで、お話とはなんでしょうか」
「そうですね。立ち話も何ですから、一旦座りませんか」
「わしは茶が欲しいかのう」
「ええ、構いませんよ。フタバ、申し訳ありませんが、お茶の用意をお願いできませんか」
──ヒトミ、いいの?
──うん。聞くだけは聞いてみるよ。
──わかった、すぐ用意するね。
──ありがとう、フタバ。
「ヒトミ、それが思考の加速でしょうか」
「わしには、わからんかったかのう」
「⋯⋯ええ、そうですよ、ナナミ」
思考加速も感知された。デバッグ・モードも対応されるかもしれない。半年前の影の魔人並みの対応力だと想定しておく。マルウェアのデータは隔離した記憶エリアにある。手持ちのマルウェアは全てVR環境下でも動作するように設定済みだ。
ただし同じ手が通用するかどうかはわからない。




