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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
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第二十三話 外の「お話」


 ■■□□


 これ程のものだとは思わなかった。


 自分は件の精霊を遠くから見ていた。件の精霊と巫女たちは魔物を狩りに森から出てくるようになった。空を飛ぶ乗り物と見たこともない防具を使っていた。いや、防具や太刀の見た目は自分の知っているものだ。その力が見たことのないものだった。太刀が触れるだけで魔物がほどけた。魔獣も三太刀ほどで倒していた。自分の意識がない間に、これほどのものができたのか。


 件の精霊はなかなか戦ってはくれぬ。戦いは他の者に任せているようにも見えた。師範としての技が卓越しているのか。たまに他の者を育てるのが上手い者がいる。件の精霊に鍛えられた者たちは、剣術も法術も瞬く間に上達していた。もしかすれば件の精霊より強くなったやもしれぬ。ならば自分にすら届かぬことになる。ましてやあのカタキの魔人には届かぬ。


 少々残念に思いながら見ていると、件の精霊が霊気を使うところに出くわせた。小さな里で何やらやっていた。自分はトミカほど霊気の動きは追えぬ。だがそんな必要はなかった。法術が皆伝以上か。その者が使う法術はそれほど卓越していた。この力であれば自分を越えるやもしれぬ。法術が卓越した者は剣術に長けた者より強い場合がある。


 その精霊に他の者たちの力を合わせれば、あの魔人ですら倒せるやもしれぬ。剣術に優れた者が三人、法術に優れた者が三人いることになる。上手く噛み合えば力を出せるやもしれぬ。そう思いながら見ていた。


 ある時強い魔獣が出てきた。件の精霊がようやく戦うようだ。わずか一太刀で倒した。しかも太刀の力をといているように見えた。普通の太刀であの魔獣を倒したのか。剣術も皆伝以上かもしれぬ。今の自分であれば同様のことはできるだろう。昔の自分であればどうだ。以前の記憶が全て戻ったわけではない。奥伝の頃の自分であれば、逃げるのが精一杯だったような気がする。


 法術と剣術の両方が皆伝の者など滅多に出ぬ。両方とも奥伝に届けばかなり強い。昔戦った精霊がそのぐらいだった。例の巫女と一緒にいた精霊だ。あの時は負けるところだった。いや、あの精霊が霊気を使い尽くさねば、負けていた。両方が優れているということはそれほど強い。件の精霊ならばあの魔人を討ってくれるやもしれぬ。強い魔獣が現れた。そろそろ出て来るのか。


 オオエヤマ家はすでに滅んでいる。自分がやったのだ。トミカのカタキを討ったつもりだった。だが違っていた。本当のカタキはあの魔人だ。オオエヤマ家の人々は脅されていたにすぎぬ。自分は後悔しているのか。多分そうだ。この世代のオオエヤマ家の人々には関係のないことで恨みを晴らした気になっていた。今の生き残りはあの少女しかおらぬ。


 自分がやったことだ。いずれ討たれても仕方ない。だがトミカのカタキの魔人だけは許せぬ。今はまだ討たれるわけにはいかぬ。せめて自分を超えてもらわねば。


 そう思いながら見ていると、件の精霊が寂れた里に入った。いや寂れたのではない。これも自分がやったのだ。カタキの魔人が早く出てくれぬものか。半ば願うようになっていた。件の精霊はその里でも法術を使った。とても大きな光だ。皆伝どころではないかもしれぬ。話に聞いたことしかない極伝やもしれぬ。それほどまでに優れた法術だった。


 ⋯⋯あの精霊になら討たれても構わぬか。


 いや、まだだ。カタキの魔人の影すら見えぬ今はそれもできぬ。



 □□□□


 みんなが急に優しくなった。


「食器の片付けぐらい私たちでやるから、ゆっくりしときなさいよ」

「ヒトミさま、ここはミッちゃんと私でやります」


「え、ええ。では、お願いします」


「ヒトミ様、お風呂の準備は私たちで済ませたかしら」

「うん」


「え、ええ。ありがとうございます」


「ヒトミ、今夜の耳そうじは私がしたいかな」

「え、ええ。それではお願いしますわ」


 何かあったのだろうか。ここ数日のことを思い浮かべる。特に変わったことはしていないと思う。午前中は練習で、午後から魔物退治を続けている。ときどき里に寄ったりする。魔物退治も半分以上は終わった。食事のメニューが変わるぐらいだ。


 有機ナノマシーンの探索エリアも増えた。この地方の半分は範囲に入っている。元々瘴気には弱い。強い魔獣が現れるとその部わからのデータが途切れる。空白地帯を探ると魔獣を見つけることができる。すでに何度か飛行船で退治に向かっている。獅子型の禍々しい魔獣はまだ見付けられない。残りの半分か山脈の上の方にいるのだと思う。


 山脈の上の方は瘴気が濃い。有機ナノマシーンでは厳しい。ハイブリッドはみんなの装備に使っている。小さなドローンに使うと、データが読み取られるかもしれない。新しいハイブリッドを使うときはなるべく近くで使いたい。性能も上がっている。シノハに届く声は、喜んでいるものが増えているそうだ。


 ──ねえ、フタバ。急にみんなが優しくなったんだけど、何か知らない?

 ──ふふ、どうしてなのかな。


 ──何も変わったことはしていないよね。

 ──さあ、どうかな。


 フタバさんのようすも少し変わった。私は記憶の欠落がある。事故以前のことは曖昧な部分も多い。家族との過ごし方も記憶から抜けている。友人関係も同じだ。いやボッチじゃないハズ。単に記憶が抜けているだけのハズ。私の特殊な状況にリアルの友人を巻き込むことはできない。でもなぜかお見舞いのメッセージすら届かない。


 ひょっとしてこれが、仲間外れというものなのか? いやいや、そんな馬鹿な。思いあたることは⋯⋯結構ある。合意を得ているといっても、嫌なものは嫌だろう。色々取り付けたりしている。ミツエとシノハは体の霊気全部を置き換えてしまった。他の人も体表をコーティングしている。もし私が教授に同じことをされたら怒ると思う。というかいつも怒っている。いや、あれは教授が特別な種類だからだ。私と教授は別人だ。


 ⋯⋯しかしほかに理由が思い付かない。


 ここは一度みんなが喜ぶようなことをしてみよう。



 □□□□


「模様替えを行いました」


 考えてみるとこのコテージは学園で使っていたものとあまり変わっていない。快適に住めるように少しずつ変えてはいる。たまには気分を変えても良いだろう。


「これは何と言うものかしら」

「うん」


「ヒトミ、さっきまで一緒にお風呂に入っていたわよね?」

「ヒトミさま、アバターをもう一体まとわれたのですか」


「これは、ホームシアターと呼ばれるものです。みんなで仲良く映画と呼ばれるものを見るためのものです」


「『えいが』かしら」

「うん?」


「お話に映像や音楽を加えたものが映画と呼ばれます」


「また変わったものを作ったわね」

「どのようなお話なのですか」


「外の世界のお話になります」

「外の世界のお話? ちょっと見たいかな」


「私も少し興味があるかしら」

「うん」


「そうね。ヒトミがせっかく作ってくれたのだから、一度ぐらいは見ておきたいわね」

「はい、私もお話に興味があります」


「ではこちらに菓子と飲み物を用意しました。映画を見るときにいただくものだと聞いております」


 ソファーの近くにポップコーンとコーラを用意している。調べてみたら伝統的な組み合わせらしい。


「塩加減がちょうど良い感じかしら」

「うん」


「泡が出ているわよ、大丈夫なの?」

「不思議な風味です」


「ヒトミ、これがコーラって言う飲み物なのかな」

「ええ、そう呼ばれています。では、少し暗くします。これも伝統だそうです」


 みんなが席に着き、コーラとポップコーンが取りやすい位置にあることを確認してから、照明を暗くする。


 ──ヒトミ、どんなお話なのかな。

 ──昔流行ったお話だそうですワ。これを見ると親密度が上がるジャンルだそうですワ。


 ──ジャンル? 種類のこと?

 ──ええ、そうです。この映画のドキドキと、親密な関係のときのドキドキを同じものだと感じるそうですワ。


 ──へー、ちょっと面白そうかな。

 ──ジャンルはホラーというらしいですワ。


 その夜、コテージに悲鳴が響き渡った。


挿絵(By みてみん)

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