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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
赤の書
83/365

第二十一話 世界の声


 □■□□


「シノハ、ムツミ。強い霊気がなぜ強いのかわかりますか」


 午前中は稽古や鍛練を続けている。午後から魔物退治へ向かう。今日のヒトミ様はお体をまとい、私とムツミ様に法術を教えてくだっている。ミッちゃんたちは剣術の稽古をしている。ヒトミ様はフタバ様に入っていない。


「二つの霊気があるからでしょうか、ヒトミさま」

「うーん?」


「ええ、その通りです。では、二つの霊気があるとなぜ強くなるのかわかりますか」


「⋯⋯いいえ、わかりません」

「うん」


 ヒトミ様をガッカリさせてしまった。少し落ち込んでしまう。


「二つの霊気があることまでわかっている人はほとんどいません。ふふ、そんな顔をしなくてもあなたたちは優秀ですよ」


「⋯⋯はい、ヒトミさま」

「うん」


 ヒトミ様は慰めてくだる。


「二つの霊気はすぐに互いを直そうとするのです。それが強さの理由の一つです」


「はい、ヒトミさま」

「うん」


「瘴気に侵されるということは、霊気が瘴気の影響を受けることを言います。強い霊気だと一方が侵されても、もう一方がすぐに直すので、影響を受けにくくなります」


「はい」

「うん」


「では強い瘴気はなぜ強いのかわかりますか」


「強い霊気と同じように二つの瘴気があるからでしょうか」

「うーん?」


「その通りです。良くわかりましたね、シノハ」


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 ヒトミ様に褒めていただけた。嬉しくなる。


「二つの瘴気があると互いに直すので、浄化が難しくなります。では、霊気が瘴気に侵されにくいようにするにはどうすれば良いと思いますか」


「⋯⋯二つの霊気の互いに直す力を強くすることでしょうか、ヒトミさま」

「うん?」


「ええ、大変良い答えですよ。シノハ」


 ヒトミ様にまた褒めていただけた。嬉しい気持ちが増える。


「では、本日はそれを行ってみましょう。最初は私も手伝います」


 ヒトミ様はそう言うと、いくつかのシャーレを作られた。その中に少しずつ強い霊気が入っている。


「二人ともこの霊気をよく見てくだい。二つの霊気があるのがわかりますか」


「はい、わかります」

「うん」


 ムツミ様も見分けがつくみたい。


「まずは一つずつ強くしていきましょう。最初は慣れている霊気で始めましょうか」


 ヒトミ様からデータが送られてくる。直す回数を増やすみたい。これなら私でもできるかな。私とムツミ様はそれぞれの前におかれている強い霊気に集中する。外側の霊気は普段使うものだった。その霊気から出る信号の回数が増えるようにする。ムツミ様もできたみたい。


「二人とも良くできました。では中の霊気を強くしてみましょうか」


「はい、やってみます」

「うん」


 中の霊気は普段あまり使わない。土の中に多くある霊気だった。私は以前ヒトミ様に神刀の作り方を教えていただけた。何度か繰り返すと中の霊気を強くすることができたみたい。ムツミ様は苦戦されておられる。ヒトミ様が何度か手本を見せ、ムツミ様にやり方を伝えられた。やがてムツミ様もできるようになられた。


「これで両方の霊気が強くなりました。次に互いの結び付きを強くしてみましょう」


「はい、ヒトミさま」

「うん」


 ヒトミ様からまたデータをいただく。互いのことを伝え合う回数を増やすみたい。私とムツミ様がそれに取りかかる。強い霊気は互いに直そうとする力が強い。なかなかできない。ヒトミ様が何度も手本を見せてくだる。私とムツミ様は一生懸命それを真似する。ずいぶん手こずってしまった。時もかかった。でもようやくできるようになった。


「二人ともよく頑張りました。では効果を確かめてみましょう」


 ヒトミ様が魔核から強い瘴気を慎重に取り出す。強い瘴気を別のシャーレに封じ込められた。そこに私とムツミ様が強くした霊気を少し加えられた。強い霊気でも多くの強い瘴気に囲まれると、侵されてしまう。今ヒトミ様が加えられた霊気はほんの少し。少なすぎると思った。これでは瘴気に負けてしまう。


 霊気は瘴気に侵されなかった。瘴気に侵されてもすぐに互いに直し合っている。これなら少しの霊気でも瘴気に負けないみたい。


「シノハ、『声』はどうですか」

「⋯⋯はい、喜んでいるように聞こえます」


 ミッちゃんと初めて重なってから聞こえるようになった声だ。世界中の霊気が助けを求めている。ヒトミ様はその声を遮ってくだった。おかげでミッちゃんと一緒にいられる。でも全ての霊気の声を遮ることはできない。法術が使えなくなってしまう。体をまとうこともできなくなると思う。


 いつも小さな声が聞こえていた。助けを求める声だ。ムツミ様にも多分届いていると思う。いつかはその声がミッちゃんとの結び付きを上回ってしまう。世界のために精霊の力を使う日がやってくる。そう思っていた。今日の声は喜んでいる。私が精霊としてのつとめを、少し果たしたからだと思う。


「『ここ』にいても、世界のために力を使うことができます」


 私は「還る」のを待ってもらっている。待ってもらっていても良いようにしてくだったんだ。ムツミ様にも同じことをされていた。


「⋯⋯はい、ヒトミさま。⋯⋯ありがとうございます」


 お礼は、どうにか言えた。



 □□□□


 シノハに届く「声」は喜んでいるとのことだった。この方向で良いようだ。今後もナノマシーンの改良は続ける。シノハとムツミにも手伝ってもらう。世界も少し待ってくれると思う。


 改良したナノマシーンのデータはどうやって伝えようか。ツグミさんたちに直接渡すことができれば一番良いと思う。ただどこに居るのかがわからない。システムの一部を担っていることはわかる。詳しい場所は教授にもわからないそうだ。


 世界に流すのはどうだろう。以前の私ならそうしていたと思う。今は魔人の存在を知っている。魔人の中には精霊と同じことができる者がいる可能性がある。下手にデータを渡すと、対応されてしまうかもしれない。多分ツグミさんたちも魔人を警戒しているのだと思う。簡単に見付かるような場所は避けるはず。連絡用の回線でも作ることができれば簡単だ。ただその場合回線を辿られる可能性がある。


 ツグミさんはときどきフタバのようすを見ているような感じがする。世界よりフタバを優先したがっていたようだ。ツグミさんの霊気が尽きなかったら、もっと長く一緒にいられたと思う。イノカが追っている魔人を倒せば、少しぐらい姿を見せてくれるかもしれない。そのとき連絡方法の相談でもしよう。そう簡単には行かないかもしれないけれど。ともかく魔人を倒す。


 ⋯⋯もともとは、人か。


 いや関係ないハズ。昔はともかく、今は魔物と変わりない。この世界の人々を襲う。会話もできない。それに聞いた範囲では魔人はおっさんが多いようだ。気兼ねなく倒そう。会話もできないおっさんなど、そのあたりの石ころ以下だ。美少女ばかりの私たちと、どちらを優先するのか、迷うこともないだろう。美少女の魔人が現れたらどうしようか。まあ、そのときに考えれば良いか。美少女の魔人なら先ず話し合いが先だ。


 でも魔人て話せるのか? かなり昔、イノカの里に来ていた魔人は話をしていたようだ。あれは例外かもしれない。いや、美しければ会話など不要だ。やってみなければわからないけれど、浄化して精霊にしても良い。そうすれば、あんなことやそんなこともできるかもしれない。いや、必ずやるんだ! いや、ヤルのは浄化ですよ? その前に「合意」がもらえないかな。魔人の意識は魔物並みだ。うまく言いくるめ、いや、説得すれば可能だと思う。世界のためにも、魔人は浄化しよう。

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