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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
52/365

第ニ十一話 お風呂とお菓子


 □□□□


 この世界は私の母国でいうところの明治時代初期の頃に近い。色々ちぐはぐなところはある。魔物や魔獣の脅威があるので、剣術は戦国時代に似たものが多い。農業や冶金の技術は先に復元された。食料不足にはなりにくい。武器だけでなく身近な小物や農耕機具にも純度の高い金属が使われている。


 ツカハラ家では救護所を除き、和風が多かった。救護所の中ではベッドやテーブルも使われている。診療や治療の道具もキレイな金属だ。学園の寮は色々な地方の人が来るので和洋折衷になっている。寮の部屋は洋風の方が多い。希望者用の和室もある。


 私たちの部屋は洋風になっている。食堂は椅子とテーブルが並べられている。厨房の中は各種かまどや調理道具も揃えられている。和洋中に対応している。火力は木炭か練炭が多い。木をくべることもある。石油や石炭、天然ガスはない。地中には少しだけプラスチックも残っている。植物や動物から採られた油は精製されることもある。食用以外では照明に使われる。ワックスにもなる。


 金属の表面を磨いて鏡にしている。ワックスや透明な塗料を塗って錆びにくくしている。各部屋や共用エリアに鏡はおかれている。ツカハラ家では木製の湯殿だった。こちらはタイルやモルタルを使っている。お風呂場と呼ばれる。ハ人ぐらいまでなら入っても大丈夫な広さだ。


 浴槽のお湯は外から薪で加熱される。お湯を注いでシャワーのように使えるものもある。部屋についている小さな浴室でもお湯は出てくる。私は寮の食堂や廊下の照明用ランプを明るくした。六人で一緒に入浴することになったのでお風呂場や脱衣場も明るくした。灰汁と植物油から作られた石けんも改良しておいた。


「普段より明るいかしら」

「ん」


「そうねえ、良い香りもするわね」

「ヒトミ様がしてくださったのですか」


「ええ、午前中に改良できたので」

「ふふ、ヒトミ、足元に気を付けてね」


 作業が終わって脱衣場で準備をととのえていたとき、急に視覚情報が途切れた。まわりのナノマシーンでようすはわかるが、映像データが入ってこない。


 ──フタバさん、急に見えなくなりましてヨ。

 ──へー、そうなんだ。ふふ。


「きゃっ! くすぐったいです。ミッちゃん」

「もう少しなんだから我慢しなさいシノ」


「ムツミも少しじっとしていて」

「むー」


「ヒトミ、ここはこんな感じ?」

「え、ええ。フタバさん、とてもお上手ですわヨ」


 互いに体を洗っているが、映像データは得られない。


 ──フタバさん。そろそろ代わりますわヨ。

 ──見えてないのに大丈夫?


 ──ええ、フタバさんのことですから。よく知っていましてヨ。

 ──うーん。じゃあ、お願いするね。


 フタバと交代する。


 ──うん、ヒトミの洗い方はやさしいね。

 ──そんなことはありましてヨ!


 ──あ、そこは、まだ。

 ──他もキレイにいたしましょう!


 ──ふふ、他の人もいるからね。

 ──他の人の姿がまったく見えませんワ!


 一通り洗い終えると湯船に浸かる。


「イノカって、結構おおきいわよね」

「そうかしら」


「はい、その、うらやましいぐらいです」

「うん」


「ねえ、秘訣を教えなさいよ」

「私もお聞きして良いでしょうか」


「あら、あなたたちぐらいの方がちょうど良いかしら」

「うー」


「そうねえ、ちょっと触るわよ」

「とってもやわらかいです」


「あなたたちもすべすべかしら」

「うん」


 ──フタバさん。

 ──ふふ、何かな。


 ──そろそろ目の感覚を戻してくれても構いませんワヨ?

 ──ふふ、まだ、だーめ。


 せっかくのお風呂だったのに何も見えなかった。


挿絵(By みてみん)


 □□□□


「シノハ様、ムツミ様。少しお付き合いいただけませんか」


「はい、ヒトミ様」

「うん」


 ここは寮の厨房。料理の邪魔にならないように端の方を使わせてもらう。先ほど食べたクッキーの作り方を教える。これも霊気を動かす練習になる。いきなりクッキーは難しい。今日はデンプンと砂糖だけの予定だ。


「本日の稽古の合間に食べた菓子を作りたいと思います」


「はい!」

「うん!」


「ただいきなり全ては難しいので、本日は材料の作り方をお見せしたいと思います」


「はい、それだけでも嬉しいです。ヒトミ様」

「うーん?」


 シノハは難易度を理解しているようだ。ムツミは少し物足りないようす。


「ムツミ様、甘い材料の作り方もお見せしますよ」


「う、うん!」


 砂糖だけでも甘いお菓子は作れる。ムツミにも伝わったようだ。先に砂糖から始めよう。私は外で光をあびていた有機ナノマシーンを呼び込む。有機ナノマシーンが集まって作る疑似葉緑体もある。普段は化学エネルギーをたくわえることに使われる。まわりに薄い緑をおびた霊気が集まってくる。シノハとムツミも霊気を集めだす。シノハの霊気は薄い青色に光る。ムツミの霊気は薄い赤色に光る。


「ここから少し細かな動かし方をします」


 葉緑体の近くにたくわえられていた、ブドウ糖や麦芽糖などを、調理机にある皿の上に運んでいく。皿の上に何種類かの糖類が積み重なっていく。何度か見せるとシノハはすぐにできるようになった。ムツミは苦労している。私はムツミの手を取り、作った経路に何度かコマンドを流す。


「む? むん?」


 ムツミもできるようになってきた。集めたものの正体を理解していないようだ。料理用のさじに少しすくいムツミに味わってもらう。シノハにも味見してもらう。


「む! うん!」

「とても甘いです!」


 気に入ってくれたようだ。ついでに砂糖を固めて砂糖菓子を作る。最初なので丸く小さく固めた。慣れてくれば花の形などもできるようになるだろう。


「うん! うん!」

「食べるのがもったいないぐらいキレイな玉です」


 ちょっと真球に近付けすぎた。少し形を歪めて転がりにくいようにする。ミツエやイノカと一緒に食べられるように多目に作っておく。紙に包んで二人に渡す。


「アリ、がと」

「ありがとうございます、ヒトミ様」


 ムツミが少ししゃべってくれた! 私はまわりのナノマシーンからデンプンと少量のタンパク質を取り出し皿の上に積んでいく。タンパク質が少ない薄力粉が出来あがる。シノハはもうなれたのか一度見ただけでできるようになる。ムツミを手伝う。ムツミもできるようになった。疑似細胞に分泌させてバターやミルクも作る。シノハはまだついてこられる。私が手伝って、ムツミもできるようにする。


 バニラを作る。こちらはバニラ・ビーンズを再現しバニラエッセンスを作る。シノハもついてこられなくなる。バニラエッセンスを陶器の入れ物に入れ二人に渡す。二人とも主な材料は作れるようになった。好みの風味を付けてもらえば良いだろう。このままクッキーにするのは難しそうだ。厨房を借り、食塩を加え焼き上げる。二人にも手伝ってもらう。これで卵なしクッキーのレシピも伝えられた。


「おい、しい」

「ありがとうございます、ヒトミ様」


 またムツミがしゃべってくれた! 先ほど作った砂糖とミルクにバニラエッセンスを加え、ナノマシーンで撹拌(かくはん)しながら熱電素子で冷やす。バニラアイスができた。ついでにストロベリーや抹茶風味のものも作る。


「うん! つめたくて⋯⋯おいしい」

「ヒトミ様、こんなに冷たくて美味しいものは初めてです」


「まだ召し上がりますか」


「うん! うーん?」

「ヒトミ様、本日は材料だけでは」


 そこで気が付く。厨房中の人の視線を集めてしまっていた。少しやりすぎてしまったようだ。騒がせてしまったお詫びに、小麦粉と砂糖を多めに渡しておく。ナノマシーンで組み上げた密閉した容器に、たくさん作ったクッキーも詰めておく。紅茶の葉も忘れない。念のため容器には殺菌作用を持たせる。これでしばらくはもつだろう。アイスクリームは自粛した。

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