第ニ十ニ話 健全
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今日は本当に色々あった。しかもうれしいことばかり。ヒトミ様に助けていただけた。時をいただけた。力の使い方も教えていただけた。美味しい菓子の作り方も教えていただけた。冷たくて甘いものもいただけた。新しい世界にも誘っていただけた。何より、ミッちゃんの治し方を教えていただけた!
ヒトミ様は不思議な精霊様だ。いつも優しい眼差しで見てくださる。いつも暖かな感じがする。弓術も長けておられるそうだ。法術は長けておられるどころではなかった。体術も優れておられる。イクノブ家で体術でミッちゃんより強い人は片手の指の数ほどもいない。この学園では誰もいないみたい。剣術ならイノカ様とフタバ様がお強い。
ミッちゃんがヒトミ様たちの稽古に参加したのは、イノカ様かフタバ様との稽古がしたかったからみたい。今日はミッちゃんとヒトミ様が体術の稽古をされた。ヒトミ様は少し体術ができると言っておられた。少しどころではなかった。最初はミッちゃんもゆっくり動いていた。でもどんどん速くなっていった。あんなに速く動けるなんて知らなかった。きっと私が知らないところで厳しい鍛練を積んだのだと思う。
ミッちゃんの焦りがずっと伝わってきていた。ミッちゃんの攻撃をヒトミ様はさほど力を込めず受け流しておられた。しかもミッちゃんの技が繋がりやすいように。私もミッちゃんから受け方は教わった。あんな速い動きをするミッちゃんの攻撃を受け流すことは私にはできない。イノカ様やフタバ様なら剣術で受け流すことはできると思う。
ヒトミ様は体術で受け流されていた。今日の稽古だけでミッちゃんは強くなったと思う。それだけヒトミ様は上手に受け流されていた。ミッちゃんの動きもどんどんよくなっていった。今はミッちゃんの焦りがしずまっている。それだけミッちゃんも強くなれたのだと思う。
ミッちゃんとの稽古が終わってから、ヒトミ様は私に法術を見せてくださった。ミッちゃんの黒いところを目の前で消してくださった。少しだけ黒いところの消し方がわかったと思う。ヒトミ様は明日も教えてくださる。あと何回か教えていただけたら、私でもミッちゃんを治せると思う。本当にうれしかった。一生懸命お願いして良かった。ヒトミ様と出会えて良かった。ヒトミ様、ありがとうございます!
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シノの調子もずいぶんよくなったみたいね。多分ヒトミのおかげね。いつもありがとう。それにしても驚いたわ。ヒトミの体術があれ程のものだなんて。ツカハラ家というだけじゃないわね。ヒトミの体術は皆伝ぐらいの力はあったと思うわ。ツカハラ家でも奥伝以上の人は少ない。皆伝と極伝は一人ずつしかいないとフタバから聞いていた。私より剣術がはるかに強いフタバでさえツカハラ家では中伝だと聞いていたわね。
私もイクノブ家では中伝だけど、比べものにならないぐらいフタバは強い。でもヒトミはそれ以上だった。剣術が強いかもと思っていた。体術であそこまでだなんて想像以上だったわ。私がまだ初伝の頃に強い人教わったときと同じ。いやもっと上ね。私が強くなるようにヒトミは受けてくれたわね。ヒトミの動きに合わせていくだけで、驚くほど体のキレがよくなったわ。突きと蹴りだけなら奥伝に届いたかもしれないと感じたほどよ。
一体何者なのよ。普通の精霊様ではないと思っていたけれど、法術も体術も凄いどころじゃないわね。ヒトミ自身はとても優しい人よ。シノも助けてもらえたみたい。とても心が弾んでいるのが伝わってくる。このままヒトミと稽古を積んでいけば、私でも強くなれそうだわ。強くなればアレが手に入る。しばらく稽古に付き合ってもらうわよ。
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「イノ、おねえ、ちゃん、これ、食べて」
部屋に帰って来たムツミにそう言われたわ。思わずムツミを抱きしめてしまった。ヒトミ様が何かしてくださったのかしら。多分そうだわ。ムツミが持ってきた菓子は見たこともないもので、とても美味しかった。ヒトミ様に作っていただけたのかしら。それ以上に驚いたのがムツミの言葉が戻ってきたことかしら。
今までも少し話はできたけれど、こんな長くはなかった。これほどハッキリと話せたのはあの時以来初めてのことかしら。新しい世界というものにムツミも入れていただけたのかしら。ヒトミ様はとても不思議な精霊様ね。普段はとても暖かで優しい方だ。剣術も凄いけど体術まであれほど使いこなせるだなんて。
ミツエ様の体術はこの学園で一番強い。体術だけなら私では勝てない。それを上手く受けるだけで更に強くされていた。フタバとの稽古でも力は付いている。もしヒトミ様が稽古を付けてくだされば、私も今日のミツエ様のように強くなれるのかしら。アイツの情報はまだつかめていない。今のうちに力を付けておきたい。ヒトミ様との稽古が待ち遠しいかしら。
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──フタバさん、また見えなくなりましたワ。
──ふーん、そうなんだ、ふふ。
ここは私たちの部屋。明日からの練習の相談をしていたら、視覚データが入って来なくなりましたワ。
──ヒトミは優しすぎると思うかな。
──そ、そうカシラ。
──さっきまで、シノハちゃんとムツミ様のことばかり伝わってきていたよ。
──え、ええ。法術の練習をかねてお菓子を作っていただけですワ。
──今はミツエ様とイノカ様のことばかりだよ。
──え、ええ。明日の練習のことをフタバさんと相談していましたからですワ。
──私のことを一番に想ってくれていることは伝わってきてるよ。
──え、ええ。私の一番目はフタバさんデスワ!
──ふふ、ありがとうヒトミ。でもちょっと寂しいかな。
──え、えーと、どうすれば良いのカシラ。
──ふふ、もう伝わってると思うけど。
──えーと、まあ、その、⋯⋯はい。
──じゃあ、そうして欲しいかな。
──も、もちろん、よろしくてヨ!
──うん、ありがとうヒトミ。
──こ、こう、でいいかな。
──うーん、もうちょっと違う方がうれしいかな。
──じゃ、じゃあ、こんな感じでどうでしょうか。
──ああ、ちょっとよくなってきたよヒトミ。そのまま続けて。
──え、ええ。もちろんですワ!
──ふふ、ちょっとくすぐったい。
──こ、このあたりかな。
──んっ、そこが、いいよ。
──できるだけ、優しくするね。
──ふふ、ヒトミは上手だね、あっ。
──ご、ごめん痛かった?
──ううん、平気。だから、そのまま。
──フタバさん、そろそろ視覚を。
──ごめん、忘れていたよ。
──え、ええ。目が見えないままでは危ないですから。
──もう見えるかな。
──え、ええ。これで安全ですワ。
私はフタバの耳そうじを続ける。
──うん、ありがとうヒトミ、スッキリしたよ。
──このくらいでしたら、いつでもしますワヨ!
──じゃあ、ヒトミが作ってくれたクッキーを一緒に食べようね。
──フタバさん、お茶も飲みませんか。
──うん、欲しい。
──じゃあ、すぐに作りますワ。
──私も手伝うよ、ヒトミ。
フタバは私のひざにのせていた頭を起こす。フタバは寂しかったのだろう。その想いも伝わってくる。今は心も満たされている。このくらいでよければ毎晩でもしよう。もっとフタバへの想いを行動で示そう。あくまで健全な範囲でですワ!
フタバの心が満たされると、私の心も満たされる。寛容なフタバさんになってもらえるように普段から心がけよう。嬉しそうなフタバさんも良い。新しい扉が開きそうで、ちょっとドキドキするけど。いや、それは後だ。後で必ずする。いや、してもらうのか? ともかく、みんなで新しい世界へ行くんだ。また視覚データが途切れた。




