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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
47/365

第十六話 シノハの法術


 □□□□


 ミツエの中にある霊珠の一部を神刀化させたとき、シノハがじっとこちらを見つめていた。シノハとミツエの仲は良い。本当の姉妹のようだ。私が新しい世界にイクノブ家の二人を迎えようとしていることに気付いたのかもしれない。落ち着け、先ずは落ち着くんだ。今のところ二人には何もしていない。話してもいない。まだセーフ⋯⋯のハズだ。


 ──ふふっ、ヒトミ?


 ああ、フタバさんの機嫌を損ねてしまったようだ。最近寛容になってくれたと思っていたのに、今はフツフツと熱いものが伝わってくる。


 ──ご、誤解でしてヨ、フタバさん!

 ──何が誤解なのかな?


 ──いえ、その、なんだ、とにかくわかってヨ、デスワ。

 ──ふふ、よーく伝わってくるよ?


 私たちのシンパシー率は第3段階。少し強く思っただけで、何もかも筒抜けになってしまう。


 ──ヒトミはシノハちゃんとミツエ様まで。

 ──えーと、まあ、その。


「⋯⋯ヒトミ様、後で少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」

「も、もちろん、か、構いませんよ、シノハ様」


 シノハが何やら思い詰めた様子で話しかけてくる。ああ、そんな純粋な目でヨゴレた私を見ないで!


 ──ヒトミは優しさすぎると思うかな。

 ──そ、そうカシラ?


 ──ミツエ様とシノハちゃんを放っておけないんでしょ?

 ──いえ、ワタクシはフタバさん一筋ですワ!


 ──ふふ、ありがとう。でもやっぱりときどき妬けてしまう。本当は私のことだけを見て欲しい。ゴメンね、ヒトミ。

 ──いつもフタバさんだけを見ていましてヨ!


 ──うふふっ、もう、しょうがないないなあ。私もヒトミみたいに大きな優しさを持てるように頑張るね。

 ──えっ、いいの?


 ──うん。そのかわり一番は私にして欲しいかな?

 ──ええ、もちろんですとも、フタバ。一番目でも何度でもフタバのために頑張りますワ!


 どうやらフタバさんは本当に寛容になってくれたようだ。一番目はフタバさんにしよう。


 ──じゃあ、後でね。

 ──今すぐでも構いませんよ、フタバ!


 ──うーん、でもシノハちゃんが待っているみたいだよ。


 はっ、そうだった。思考速度を上げるのも忘れていた。


「で、では、午後の教練をご一緒しましょうか、シノハ様」

「よろしいのでしょうか、ヒトミ様」


「え、ええ。もちろんですワ。ワタクシも法術の教練を少し見てみたかったのですヨ、オホホ」


 こうして私は午後の教練で法術を見学することになった。



 □■□□


 ヒトミ様がミッちゃんの中にある黒いものを少し消してくださった。私では治すこともできなかった。それを食事の合間にしていただけた。いつものようにフタバ様とお話をしながら。


 ヒトミ様はミッちゃんの体がくずれないよう、とても繊細に霊気を動かしておられた。優しい風でそっと触れるように、ヒトミ様はミッちゃんの中の黒いものだけを消しさってくださった。時をかければミッちゃんを完全に元に戻してくださると思う。


 私に残された時は少ない。ヒトミ様がいればミッちゃんは助かると思う。一生懸命お願いしてみよう。私は思い切ってヒトミ様に話しかけてみた。ヒトミ様はお話を聞いてくださるとのことだった。私は全身の力が抜けたように安堵した。ヒトミ様ならミッちゃんを助けてくださる。それさえ叶えば、ほかのことは気にならない。本当はミッちゃんとお別れしたくはない。でも私に残された時は少ない。



 □□□□


「ヒトミ様はこちらにこられるのは初めてでしょうか」

「ええ、シノハ様。私は人前では弓術しかいたしませんので」


 話の成り行きで法術の教練場の方へ向かうことになった。フタバは許してくれたようだ。シノハの好感度を上げれば新しい世界へ行ける可能性が大きくなる。フフ、数え切れないほどのゲームのデバッグとテストプレイを行ってきた、私のフラグ管理を甘く見ないでよね。さあ、ここが勝負どころですワ。私は気を引き締める。


 二人で法術の教練場に入る。ムツミは食後は影のようになり、イノカに付いて武術系の教練場へ向かった。フタバやミツエも同じ教練場へ向かった。法術の教練場の中では何人かの人が練習をしていた。そういえば誰かが法術を使っているところを直接見たことはなかったと思う。


 うん? 何か違和感が。タネミさんのときは結果しか見ていない。ツグミさんの場合もフタバの記憶を通して見ただけだった。フタバが認識していなかったことはわからない。フタバが法術の練習をしているところは見た。フタバ本人が言うようにあまり霊気は動いていなかった。


「シノハ様。あの方たちが鍛練をしているのは法術なのでしょうか」

「えっ? は、はい。そうです、ヒトミ様」


 法術の練習で合っているようだ。ただ効率が悪そうに見える


「シノハ様、よろしければ法術を使っていただけないでしょうか」

「私の法術では、お目汚しになるかと思います」


「霊気を集めるだけでも構いません。お願いできませんか」

「は、はい。では失礼して」


 そう言うとシノハは集中を始める。シノハのまわりに薄い青色の光が集まりだす。ほかの練習している人よりはるかに大きな光だ。これだけ大きければ、違いがハッキリわかる。自分の霊気を使い続けている? シノハは自分の中にあるナノマシーンをまわりに放出し続けている。ほかの人も同じだ。こんな使い方ではすぐに霊気を使い切ってしまう。


挿絵(By みてみん)


「シノハ様。そこまでで構いません。ありがとうございます」


 シノハが霊気を放出しすぎないよう声をかける。シノハたちの使い方は、自分の中のナノマシーンを放出し、別のナノマシーンにコマンドやプログラムを入力していた。自分の中にあるナノマシーンなら、コマンドやプログラムを伝えやすい。直接接触しているからだ。フタバの練習も自分の中にあるナノマシーンにコマンドを伝えていた。そういえばツグミさんがフタバに法術を教えるとき、そんなことを言っていたと思う。

 

「⋯⋯シノハ様。よろしければ、ほんの少しだけ、霊気を集めてみていただけませんか。できるだけ少なくなるようお願いします」

「できるだけ少なくでしょうか。はい、ヒトミ様、やってみます」


 シノハが再び集中を始める。私はデバッグ・モードに入った。シノハは最初のコマンドを自分の中のナノマシーンに伝えようとしている。お腹の下あたりにある丹田というところだ。


 私はシノハの体を「見る」


 前回私がシノハを「見た」ときは、体調やバグの有無を重点的に見た。今回は正常な動作をするナノマシーンのデータも丹念に調べる。過去に大量のナノマシーンを放出したのだろうか。体を構成するナノマシーンの結合がかなり甘くなっていた。私は結合の甘くなっているところを修復する。でもこれでは一時しのぎだ。丹田で伝えようとしているコマンドが外にも伝わりやすいようにする必要がある。デバッグ・モードを解除する。


「シノハ様。私がお手伝いするので、そのまま、ほんの少しの霊気を集め続けてくださいませんか。できるだけ少なくなるようお願いします」

「は、はい。ヒトミ様」

 

 私はシノハの手に自分の手を添え、コマンドが外に伝わりやすいように経路を慎重に作る。大部分のナノマシーンには触れない。髪の毛ほどの経路を何本か作った。


「えっ、霊気を直接動かせる」

「勝手ながら、霊気を動かしやすよう道筋を繋げさせていただきました」


 経路を伝って外にでた信号が、まわりのナノマシーンにコマンドを伝えるようになった。私が作ったのは経路だけだ。出力するコマンドは本人が決める。見ると先ほどと同じ薄い青色に光るナノマシーンが、周囲に集まってきた。先ほどより大きな集まりになった。これで体内のナノマシーンをほとんど使わず、周囲にコマンドを送れるようになった。あのまま放出を続けていたらシノハの体が持たない。ほかの人たちはシノハほど多くのナノマシーンを放出していない。


 シノハは何かを伝えたそうな顔をしていた。

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