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精霊憑きの物語  作者: 味 毛布
青の書
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第十五話 昼食


 □□□□


 翌日私とフタバは学舎へ向かう。午前中は知識の再現を手伝っている。学舎にあるのは比較的再現しやすかったものになる。学園の研究施設ではもっと複雑なものの再現に挑戦しているらしい。あまり大きな影響を与えないように注意している。影響が大きすぎるとシステムの処理能力が使われ、ツグミさん達の作業の邪魔になる可能性がある。この学園で集められた知識は公開されている。ツカハラ家やその近くだけでは済まないほど影響力が大きい。


 ──ねえフタバ、電池って大丈夫かな?

 ──うーん、どうだろう?


 この学園では化学電池まで再現されている。使われている金属が鉄と銅なので効率はよくない。この世界の地中にも金属の再現データはある。実際のリゾート用宇宙ステーションの地面を模倣しているからだ。元がリゾート用なので植物を植えることもできる。長期滞在者のいる大型の宇宙ステーションでは、有害な宇宙線が入りにくいようある程度の厚みを持った地表があるものが多い。


 強度の問題もあるのでそれほど厚くはできない。月や小惑星帯から送られてきたものを主な材料にしている。廃棄された昔の人工衛星も慎重に材料を選別して使われている。


 ──ちょっとだけ改良しておくね。

 ──ふふ、やりすぎに注意してね。


 ──私がヤリすぎたいのはフタバさんとだけですワ。

 ──もう、ヒトミったら。ふふっ。


 私は鉄を亜鉛と入れ替える。これでボルタ電池のようになった。電池を何個も直列に繋いで光らせるアーク灯までは学園の研究施設で再現できているそうだ。まだ街灯などでは使われていない。室内の照明も含めロウソクや油を使ったランプが多い。白熱灯の再現までは、もう少しといったところ。ちなみに寮の私達の部屋やロッジでは、発光ダイオードを目立たないようにコッソリ使っている。


 ──次はこちらかな。

 ──銅の線だけ?


 ──コイルって言うんだ。

 ──鉄を引き付けるもの?


 フタバには私の知識も伝わっている。ある程度のことは理解できる。


 ──うん、そうだよ。

 ──でもあまり強くないね。


 銅線に塗料を塗って何周かさせたものがある。鉄心は入っていない。私はそのコイルの中にやや太い鉄の棒を入れる。これで電磁石になる。


 ──あっ、強くなったよ、ヒトミ。

 ──電磁石って言うんだ。


 改良した電池と電磁石に銅線を加え、簡単な回路を組み立てた。電磁石の磁極の近くに鉄片をセットする。スイッチを閉じたり開いたりする。


 ──わっ、カタカタ鳴っている。

 ──うん、これで遠くの人に合図を送るんだ。


 まだ作業机の上でしか動かない。発電ができるようになれば色々な使い方もできるようになると思う。次に照明用ランプのところへ行く。油を使うものだ。油は植物か動物から採集している。少しだけ燃焼効率を上げる。


 ──うわあ、明るい。

 ──ちょっとやりすぎたかな。


 ──これくらいならいいと思うけど。

 ──じゃ寮のランプも明るくしておくね。


 ──お風呂場って強く伝わってきたよ。

 ──そ、そうですか。オホホ。


 ──でも明るい方がみんな喜ぶと思うけど。

 ──え、ええ、そうでしょうとも、ホホ。


 ──ほかの人をそんなに見ちゃダメだよ。

 ──え、ええ、モチロンデスワ、フタバさん。


 今日の分はこれくらいで切り上げる。


 ──そ、そろそろ、昼食に参りましょう、フタバさん。

 ──うーん、この続きはまた後でね。


 ──えーと、⋯⋯はい。

 ──ふふ、じゃ行こうか、ヒトミ。



 □□□□


 食堂は学舎と教練場の間にある。この学園には覚者や依り代、精霊などが、合わせて三百人ほど在籍している。学生寮は十棟ある。女子寮が八棟で男子寮が二棟だ。女子の方が多いのは覚者や依り代になる者が女性に多いからだ。覚者や依り代が出やすい家の女性は巫女と呼ばれる。


 自分たちの知識を伝え終ると、ほかの知識を学んでから故郷に帰る人の方が多い。そのまま残って研究する人もいる。教職員や研究者用の寮は学生用とは別に五棟ある。少し奥には図書館や研究用の施設もある。


 ──フタバ、イノカ達は?

 ──あ、あそこにいるよ。


 今日は六人で待ち合わせをしている。


「お待たせしてしまったでしょうか」

「遅くなって、ゴメンなさい」


「私とムツミは今来たところかしら」

「う、うん」


「私達もそんなに待っていないわよね、シノ」

「どうかお気になさらずに。ヒトミ様、フタバ様」


「では昼げをいただきに、まいりましょう」


 全員が揃っているので食堂に入る。巫女は色々な地方からやってくる。この食堂も何種類かの食事が用意されている。ちなみに食費や寮費は無料だ。それぞれの地方の人々の寄付で運営されている。学園で実用化できたものは、寄付をしてくれた人々に優先的に配られる。ほかの人々にも知識は広げられる。この世界は魔物や魔獣の脅威がある。人同士の争いは少ない。ツカハラ家をはじめ、北の山脈に近い家々もそれらの人々に支えられている。


 ──あっ、お魚だよ、ヒトミ。

 ──じゃあ、それにしようか。


 私とフタバが選んだものは、西の海岸地方から運ばれてきた海魚の料理だ。西の海岸地方からこの学園のある都までは、緩やかに流れる川で繋がっている。途中で分かれツカハラ家の近くを流れる川にもなる。物資の運搬は主に船が使われる。少ないながらも馬車や牛車もある。馬車が通れるほど整備されている道は、都と各地方を結ぶ主要な道だけになる。船を使うと都まで遡上してくるので時間がかかってしまう。海産物は加工されたものが多い。


挿絵(By みてみん)


「珍しく新鮮な魚かしら。私達もそれをいただくわ」

「うん」


「なかなかよさそうね。私達もそれにしましょ、シノ」

「はい、ミツエ様。海のお魚は久しぶりです」


 配膳所で全員同じものを選んだ。川魚は近くでも採れる。新鮮な海魚は珍しい。ご飯とお味噌汁と漬け物も付いている。野菜の煮付けや果物を切ったものもある。食品の発酵は疑似細胞がやってくれる。食塩は西の海や岩塩で得られる。疑似細胞でできたものを食べると、化学エネルギーだけではなく、ミネラルやビタミンの代わりになるものも体内に取り込める。


 この世界の人々と精霊も有機ナノマシーンが作る疑似細胞の再現データで構成されている。体をまとう精霊と人々は、区別が付かないほど似ている。各種のナノマシーンや疑似細胞はこの世界では霊気と呼ばれている。精霊は霊気を直接摂取することもできる。食事からも霊気を吸収することもできる。


「あ、美味しいね、ヒトミ」

「そうですね。とても良いお味です」


「ええ、この味は久しぶりかしら」

「う、うん」


「そうね、なかなかいいわね。シノもしっかり食べなさい」

「はいミツエ様。美味しくいただいております」


 賑やかな食事が始まる。私は昨日から気になっているミツエとシノハのデータを調べ始める。私が少し強く思ったことはフタバに伝わる。


 ──ヒトミ、どう?

 ──うん、シノハは安定している。


 ──ミツエ様は?

 ──昨日よりわずかに侵食が増えたかも。


 私は昨日見付けたバグの様子を観察する。ミツエの中にある、バグのあるハイブリッド・ナノマシーンがわずかに増えていた。シノハもその影響を受けているようだ。シノハの中にある、バグを修正するプログラムを送るナノマシーンが、その影響を妨げている。修正プログラムを送るナノマシーンで表面をコーティングしたものは霊刀と呼ばれる。霊刀は元からあるナノマシーンにプログラムを送るだけでも作ることが可能だ。


 ハイブリッド・ナノマシーンを使って、ハイブリッドの修正ができるようにコーティングしたものは神刀と呼ばれる。相手が魔物や魔獣であれば神刀が使える。影響が大きすぎるとミツエの体を構成するナノマシーンのデータまで損なわれてしまう可能性がある。強引な力業は使えない。


 ──ヒトミ、どうするつもりなの?


 私が少しだけ手を加えようとすることを察しフタバが聞いてくる。


 ──ミツエの中の霊珠を少しだけ神刀化してみる。


 ──大丈夫、ヒトミ?

 ──うん、慎重にやるよ。


 私はミツエの中のハイブリッドの一部を慎重に神刀化させる。変化させるのはほんの少しにとどめる。一部だけだが神刀化した霊珠が魔核を修正していく。これ以上のことは今はできない。


 ──どう、ヒトミ?

 ──増えた分は抑え込めた。今はここまでかな。


 昨日より増えたわずかな分だけ魔核を霊珠に戻せた。少し気を緩める。シノハがじっとこちらを見ていることに気が付いた。

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