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800,000,000回を超えるループ

過去英雄開始時点:始道歴809年

外伝開始時点:始道歴409年

どれだけやっただろうか、幾百、幾千、幾万、幾億と重ねた俺の身体は、いつになれば解放されるのだろうか…


視界が暗闇の中、ただそれだけを考えていると、俺の下敷きになった枯れ葉が、横になるという行為を不愉快に思わせて、俺を起こさせた。


目を開き、辺りを見渡すと一面は草木に覆われている。


??「……ここは…どこだ?」


――現在地:王都付近の森林

――始道歴:409年


長い白髪が揺れながら、ゆっくりと立ち上がり自身の身体を確認した。


衣類や装備などは何も盗まれていない、何か減っているものもない。


最後に覚えているのは、絶望の中にある扉を開け、その先に真っ暗な空間があり、俺はその暗闇に飛び込んだはずだったが、結果は親の顔よりも見た結末だった。


??「……800,721,009回目か」


頭がおかしくなるほどに数えた回数、仲間が死んで行った回数、忘れてはいけない回数、俺はそれを口にしながら、足元に落ちている大剣のようなものを拾い上げた。


??「……お前ら、ここがいつの時代か見に行こう」


―――

――――

―――――


ただ一人、味の感じないコーヒーを飲み、身体に流れる感覚で生きているということを感じる。


あれだけ仲間を治癒、守ってきた私の白魔術は、今となっては治癒する相手が消え、守る相手が消え、己を治癒することができず、己を守ることができないただのナマクラと化していた。


カフェテリアのカウンター席に座りながら虚ろな目で、ただ一言


??「また…私一人だけですか…」


そう呟いても聞いてほしい相手はもう居ない、心配してほしい相手はもう居ない。


ただ今回こそ大切な彼や、私の大切な友人を幸せな結末に導きたい。


その思いだけは死んだ私の心の中で、唯一私を生きさせる目標となっていた。


??「…行きましょう、ゴネルバさん」


鍔の部分に紫色に光る宝石が埋められた短剣を2本、私は腰に差した。


??「あの…代金は?」


そう覇気のない声で、カフェテリアの店主に聞く。


店主「コーヒー1杯ですので、銅貨1枚です」


数えるのが面倒、ただそう思いながら私は懐からじゃらじゃらと鳴る袋を取り出し、カウンターに置いて去っていった。


外は朝日が昇っており肌寒い空気が私の身体をなぞるが、その感覚に私は飽き飽きしていた。


??「800,710,824回目…」


皆を助けられる日が来た時に皆へする贖罪の回数、皆が私の目の前で消えていった回数、私が無力だと打ちひしがれた回数、私はそれを口に出し、噛み砕くようにしてまた心に刻んだ。


――現在地:王都ハルマーシュ

――始道歴:409年


―――

――――

―――――


……濡れたベッドの上で目が覚めた。


朝日が昇り、俺の顔と横にいる女の顔を照らした。


??「……何やってるんだろうな、俺」


自己嫌悪、この残酷な運命から、この非情な運命から一瞬でも目を背け、現実逃避をしようとした己への。


??「んっ…んん…」


裸で布団に包まった女が、俺のほうに寝返りをうった。


俺はクズだ。

この光景を見る度にそう思うようになってから…何百、何千、何万、何億、何兆と同じ逃避を何度繰り返しただろうか。


心に決めた女を守れず、仲間も誰一人守れず、何度世界を超えて全力を出しても結果は終末のみで、挙句その果てで毎晩女を抱き現実逃避をする。


??「にしても、俺もシェンさんみたいに老いなくなったな…」


ベッドに座りながら手のひらを見る。


俺がセフィロトの黄金のリンゴを食べてから…おそらく数十億年以上は経過しているが、指先一つあの頃から変わっていない。


??「…シェンさんが自殺しかけてた時も、こんな気分だったんだろうな」


俺はベッドから腰を上げ、服を着て青い髪を結ぶ。


ベッドの横に掛けておいた戦士の斧(イズルトの武器)と、布都御魂(月佐夜の刀)を装備し、一人寝ている女を置いて部屋を後にする。


??「宿主さん、代金はこれでいいよな」


受付カウンターに居る宿主に、一枚の金貨を投げ渡す。


宿主「えぇ、大丈夫です。それにしても昨晩はお楽しみでしたね」


俺は返答せず、少し宿主に殺意を湧かせながら宿を後にした。


涼しい朝の風は、今の俺にとっては少し苛立ちを促進させる肌触り。


だが、そんな怒りも背中や腰を見ればすぐに落ち着く。


??「…行こうぜ、相棒、月佐夜」


800,709,987回目、愛した女を救えなかった数、一緒に笑った仲間を助けられなかった数、俺が死ぬのを見た数、俺は心の中で数えながらこの絶望をまた歩き始めた。


――現在地:王都ハルマーシュ

――始道歴:409年


―――

――――

―――――


馬車に揺られ、窓から見える平原を見ながら、暇を潰すかのように数える。


??「800,719,228回目…」


私が知識や経験でも彼らを守ることができなかった回数、膨大な知識で彼らを救えなかった回数、私が死んだ回数


一つ一つ、彼らを救えなかった生の旅路を思い出しながら、光の見えない道先を知り白くなった自身の髪をいじる。


生まれる度に、私の名前や、立場、それらは全て違った。

ある時はベアラーとして、彼らの使用人になり…

ある時は魔族として、魔人戦争を終結するのを手伝い…

ある時は人間として、彼らの仲間に加わり…

ある時は商人として、彼らへ数々の物を渡し…

ある時は剣聖として、彼らの盾となり…

全てが違う環境、全てが違う経験を得たが…それでも一向に弟子である友人達を救うことはできない。


だが…今回は違う。


この世界に産まれてきてから約100年、魔人戦争が始まり100年が経過した始道歴409年、今現在でいくつも今までと違う場面を見た。


遺物、本来ならまだ発見されていない古代文明の遺品、だが既にオデバルはそれを隠しながら研究していた。


一つの大きな鐘、私は今生の立場を使いそれを見て、触ることができた。


その鐘はただの古い教会の鐘のように見えるが、私の目に映ったその色は今まで見たことのない紫色をしていた。


紫色、私が生きてきた中でこの世界に来て初めてみた色、この色がどのような存在を意味するのかは分からないが、それでも今までとは世界の構築が明らかに違う。


彼らを助けられなかった私の全人生は、8億という狂った数繰り返されて、ようやく今生、特異点を見つけることに成功した。


ガタンッ


深く考えていると、気が付かない内に目的地へ馬車が到着したらしい。


使用人「エドガー様、ご到着致しました」


エドガー「ありがとうございます」


扉が使用人によって開かれ、私は優雅に馬車から降りた。


――現在地:王都ハルマーシュ

――始道歴:409年


―――

――――

―――――


時が経ち、太陽が空に堂々と居座り日光を輝かせる。


その中、冒険者ギルドで一つ揉め事が起こっていた。


??「あ〜…、落ち着けって?別に俺はあんたの女だって知ってたわけじゃない」


背中に斧、腰に鍔のない直刀を携えた青髪の男が、ギルドで襲われそうになっていた。


NTRされた男A「黙れ!テメェ俺の女を寝取りやがって!ただじゃおかねぇ!」


Aは男の胸ぐらをつかみ殴りかかろうとした。


次の瞬間…


NTRされた男A「ぶっ…?!ヴォェ…!!」


腹部を押さえ、胃にあったものを勝手に喉が吐き出そうとしている。


??「……なぁ、あんた」


手を離された青髪の男はしゃがみ、Aを見下ろすようにしていた。


??「確かに、あんたの女だって知らずに抱いちまったのは俺が100悪い、望むなら土下座なりなんなりはしよう」


??「けどよ…手を出したい気持ちは十分理解できるが、大人なら耐えようぜ?」


??「俺も殴られるなら…正当防衛としてやり返さねぇといけなくなる」


??「今みたいによ」


Aはただ嗚咽を漏らしながら床に自身の反吐を吐き出していた。


受付嬢「ちょっ何してるんですか?!」


??「あぁ、受付嬢さん?」


??「いやぁ、俺にもさっぱり…急に吐き出して」


受付嬢「だ、大丈夫ですか?!とりあえず病院に!」


ギルド内に居るのは青髪の男とA、そして受付嬢のみ、それを知っていた青髪の男は受付嬢の見ていない時、相手を悶え苦しませる程度の力加減で相手の腹部を殴っていた。


受付嬢はあまりに苦しむAがやばいと感じたのか、応急処置をする為に服をめくり、腹部を見た。


受付嬢「っ!なんですかっ…これ?!」


拳一つ分、男の腹部にくっきりと青黒く赤みがかったあざが浮かんでいた。


受付嬢は青髪の男の顔を見る、だが青髪の男はまるで信じられないようなものを見ているような顔。


??「こりゃあ…なんだ?すっげぇヤバそうだな…」


??「とりあえず病院だよな?!、人を呼んでくる!この傷じゃ手当必須だろ!」


そう言い扉を出て走り去る。


だが、青髪の男は病院に行こうとは微塵も考えていなかった。


??「…あいつはどうでもいい、イズルト達が生まれるのには関係しない、まず今日なら…」


青髪の男が向かっていた先、それは地下にある一つのバーだった。


階段を降り、暗い扉に一つのランタンだけが光源となった少し怖さを感じる扉を開ける。


何度も見て守ってきたバー、ここはイズルトが産まれるには必須な場所。


そして守りやすくする為に今回青髪の男はすでにこのバーの常連になっていた。


??「ウィンターズさん、今日も来たぜ!」


そう言い入ると、中にはウィンターズと呼ばれた男と、一人どの世界でもこの年代、日数に見たことのない白髪赤眼の男が座っていた。


ウィンターズ「お!ダーリンさんじゃないっすか!まぁまぁ座ってください、いつもの用意します!」


ダーリンはカウンター席に座り、横目で白髪赤眼の男を見た。


背丈は高く大体196cm、結ばれた長髪は腰のあたりまであり、スラッとした身体で分かりづらいが無駄のない筋肉の付き方、手は質感から硬く長年何かを握っている手と判断でき、目は光を失い何故かとても見慣れた瞳をしていた。


ウィンターズ「はい、いつものブルー・トニック」


氷を入れたグラスに満たされた淡い青色の液体がラモン(檸檬)と一緒に前に置かれた。


ダーリン「お、いいねありがとさん」


ウィンターズ「いえいえ!」


甘酸っぱいのは嫌い、だが俺は毎回バーに行く時、必ずこれを飲んだ。


昔は酒に弱かった俺にシェンさんが勧めてくれた酒、月佐夜に似合うと言ってくれた酒、イズルトが毎回奢ってくれた酒、これを飲むと嫌いな甘酸っぱい味が絶望の中で失われた俺の味覚を戻したような気がするから。


??「お兄さん、ブルートニックがお好きなんですか?」


突然そう白髪の男に話しかけられた。


少し驚きながらも、俺は横にいるそいつに顔を向けながら答えた。


ダーリン「ま、まぁ…」


ふと、白髪の男が飲んでいる物を見るとカクテルであり、ミドリ・ミルクを飲んでいた。


ミドリ・ミルク

俺はそれを見て少し懐かしい気分になった。

『僕はこのカクテルが好きなんですよ』

『酒言葉は真理を追究する多芸多才な努力家、少しかっこいいじゃないですか』

『誕生日は5月16日で、僕の誕生日とも一緒ですし』

まだ覚えていた。シェンさんが好きといい飲んでいた酒の名前は。


ダーリン「ミドリ・ミルクだよ?な、あんたそれ好きなのか?」


俺がカクテルの名前を知っている事に驚いたのか、少し目を見開きながらもどこか懐かしいように白髪の男は答えた。


??「えぇ…色々と思い出深いカクテルでして」


互いに、静かに思い出のあるものをゆっくりと飲んでいた。


だがその静寂をウィンターズが壊した。


ウィンターズ「あ、エドガー様おつまみいります?」


エドガー"様"、今の始道歴は409年、エドガーといえば七代名家。


ダーリン「ブフゥッ?!ゴフォッ!ケホッゴホッ!」


吹き出した。


ウィンターズ「ダーリンさぁぁん?!どうしたんすか?!」


ウィンターズが心配そうにダーリンへ駆け寄る、道中サッと布を持っている様子からこういった事はバーテンダーとして慣れているのだろう。


ダーリン「わ、悪いっ…ゲホッ…ゲホ…それよりお前今エドガーって言ったか?…」


ウィンターズ「え?まぁ、はい、そっすよ?隣にいるのエドガー家の現当主様っすよ?」


さらっと追加で現当主という情報も置いてくれたウィンターズには感謝しかないが、俺は今その言葉で頭をフル回転していた。


過去8億回以上の異世界を見てきて、その内万を超える数は409年で始まった。


だがそのどれも、今この時間にエドガー家の現当主が来ているなんてことはなかった。


何が違う?どこが変わってエドガーがここに来た?、エドガーがこの場に来るのは歴史的において大きな変化、下手をすればイズルト達の内誰かが産まれなくなる可能性が大幅に上がる。


そんな風に考えていると、はたから見れば俺は急に黙り込みはじめたように見えたのか、エドガーが俺に話しかけてきた。


エドガー「あの、大丈夫ですか?」


ウィンターズ「そっすよ?別に酒吹き出すなんてよくあることなんで気にしなくていっすよダーリンさん!」


ウィンターズに俺が気にしてるのはそれじゃねぇと言いたかったが、俺はエドガーに聞いた。


ダーリン「あんた…エドガー家現当主ってことは…オザール・ヴィクトリム・エドガーだろ?」


エドガーはそれを聞くと険しい表情をし、ダーリンへ聞き返した。


エドガー「…私の名前はアフランタ・エドガーです」


エドガー「オザール・ヴィクトリム・エドガーは私の妹ですが…?」


違う


「…アフランタ・エドガー?、オザール・ヴィクトリム・エドガーじゃないのか?」


今までの世界ではアフランタ・エドガーはオザール・ヴィクトリム・エドガーの兄、そこは合っている…だが本来なら死産になる存在、なのに何故かアフランタ・エドガーが生きていた。


ウィンターズはその話を聞きながらもカウンターを拭いていた。


ウィンターズ「ダーリンさんどうしたんすか?急にそんな変なこと言い出して」


ダーリン「いや…悪い、変なことを言った」


ダーリン「悪いっ…ちょっと勘違いしたみたいだ」


落ち着いて、まずは自身のミスを拭う為ダーリンは話そうとした。


が、その瞬間ダーリンの首には鉤爪があった。


エドガー「…説明の前に、今から聞く私の質問にいくつか答えてもらえますか?」


ただ光のなかったエドガーの目、今もなお何故か見慣れた瞳、俺はその瞳を思い出した。


絶望の一つ先を経験した者の瞳。


エドガー「貴方の名前、出身、生年月日は?」


ダーリン「…ダーリン・アスモデウス、ハルマーシュ王国王都ハルマーシュ出身、始道歴386年7月30日生まれだ…」


エドガーはダーリンの首の皮に自身の鉤爪を少し引っ掛ける。


エドガー「学は?」


ダーリン「子供の頃はペヘリト村に住んでた。だからペヘリト小学校に行ってた」


そう答えた瞬間、ダーリンの首の皮から少し血が垂れ流れ始めた。


エドガー「私の知る限り…始道歴386年の7月30日産まれの子供で、ペヘリト村に住んでいた子は居ません」


ダーリン「待て待て、なんでそんな詳しい事あんたが知ってる?」


エドガー「それは今私が答えるべきでしょうか?」


ダーリンはエドガーを見て確信した。


この男は本当に俺を殺すと…


ダーリン「…まぁまぁ、落ち着いてくれ?俺に敵意は…」


「ないッ!」


ダーリンは左手を犠牲にし鉤爪を瞬時に弾く、その速度は少なくともAランク上位相当でも反応はできない。


だが、弾いた瞬間エドガーは咄嗟に距離を取りダーリンを蹴り飛ばし、壁へ叩きつけた。


ウィンターズ「ちょっ?!急に何してるかと思ったら!僕の店で喧嘩はやめっ…ふぉお?!」


被害を避けるためカウンターに隠れていたウィンターズの頭スレスレにナイフが壁に刺さった。


エドガー「ウィンターズさん、そのナイフの斬れ味は抜群ですので、護身用としては申し分ないと思います」


ウィンターズ「もっとやり方ってのがないんすかエドガー様?!」


エドガーはダーリンに集中していた。


特殊許可級の速度、自身の鉤爪を弾くと同時に無力化しようと左手を犠牲にしてでも掴もうとしていた肝っ玉。


ダーリン「っ…痛いな…」


ダーリンは驚いていた。


並大抵の攻撃じゃ基本ダメージを受けることはなかった自身の身体が、ただの蹴り一つで痛みを感じていた。


エドガー「…貴方…何者ですか?」


ダーリン「そっちこそ…エドガー家はいつの間にそんな強くなったんだ?…」


エドガー「まるでエドガー家を昔から知っているような言い草ですね?」


エドガーの鉤爪は爪の部分に指を入れ操作する物、本来ならばこの鉤爪は全身を包む鎧と犬のような兜がセットであるはずだが、今の現状でそれを着る暇はない。


エドガーは片手しか着けていなかった鉤爪を器用にもう片手へ装着した。


エドガー「それに、その大斧と直刀…見覚えがありますが一体どこで?」


ダーリン「…さぁな?あんたがこれをどこで見たか知らないが、少なくともあんたの物じゃない」


ダーリンは腰に差してある布都御魂に右手を掛ける。


だがエドガーはその隙を逃さず、瞬時に近づきダーリンの右手へ攻撃しようとする。


バギィンッ


だがその攻撃を予想しており、ダーリンは服の裾から一本の小さなナイフでそれを守った。


ギリギリと金切り音が鳴り、カタカタと互いが力比べをしているのがわかる。


エドガーはもう片方の鉤爪でダーリンの右腹部を狙う。


だがダーリンは逆に自らその攻撃を貰いに行き威力を弱体化した上で、腹筋で鉤爪の刃を抜けなくした。


崩れた力加減によりダーリンが力比べに負け、エドガーの鉤爪がダーリンの腕に食い込んだ。


ダーリン「っ…随分と容赦ないな?…」


エドガー「申し訳ありませんが、貴方相手に手加減はできないと判断しました」


エドガーの鉤爪は確かにダーリンの腕、腹部に刺さっている。


だがそれ以上進まない、8億を超える死線をくぐり抜け、常軌を逸した強敵と仲間と共に渡り合い続けた肉体は、もはやただの冒険者の域ではない。


ミシッ、ギギギ…


エドガーの鉤爪が次第に軋み音を鳴らしはじめた。


エドガー「…一応、刃にアダマンタインを使用しているんですが?」


ダーリン「弁償は受け付けてねぇッ!」


キィィンッ!


エドガーの鉤爪が折れた。


破片がゴトンと重い音を鳴らしながら落ち、ダーリンの足元に散らばる。


エドガーは鉤爪から手を出し、ダーリンの顎を狙う。


だがダーリンはそれを避け、逆にエドガーの腹部に拳を入れた。


エドガー「ぐッ!」


エドガーは殴られた反動で吹き飛ばされる。


だがエドガーはそのまま体勢を整え、壁に脚が着地するようにし、壁を蹴りダーリンへ距離を詰めた。


ダーリン「っガチか?!」


エドガーの拳が顔に当たる寸前、ダーリンはギリギリ顔をそらして回避する。


ウィンターズ「あぁ…蹴った反動で床と壁がへこんで…」


ウィンターズはカウンターの後ろに隠れ身を屈めながら店の被害を確認し、気が遠くなりそうになった。


ダーリンは避けた反動で倒れるが、エドガー同様に壁を蹴り、距離を取る。


ダーリン「油断も隙もあったもんじゃないな…」


立ち上がり、自身の腕と腹に残った鉤爪の刃を取り出す。


(発想力はあっちが上、力と技術も、だがギリスピードはこっちが上か…)


ダーリンは冷静に相手と自身の力の差を比べていた。


エドガー「ウィンターズさん、申し訳ありませんが外に居てください」


ウィンターズ「いやっなんで?!僕の店壊さないでほしいっすけど?!」


エドガー「あとで言ってもらえれば迷惑料込みで被害分お支払いします」


エドガーはカウンターの後ろでうずくまっていたウィンターズをカウンターの後ろから出し、扉を開け外に出した。


ダーリン「…ウィンターズさんとは仲がいいのか?、俺はここの常連だがあんたを見たのは今回が初めてだ」


エドガー「つい最近、オデバルからハルマーシュ王国の王都から来まして…実は、今日がここに来た最初の日なんですよ」


ダーリン「他に観光できる場所とかあるだろうに…なんで、わざわざこのバーを選んだ?」


エドガー「さぁ?、気分でしょうか」


ダーリンは既に直刀と大斧を手にしており、気だるげで脱力したような独特の構えを取る。


エドガー「…片方ずつかと思いましたが、両方ですか」


ダーリン「そりゃもちろん、こっちのほうが俺の型にあってる」


エドガーは重心をしっかりと体の中心にしながら、深呼吸した。


エドガー「…弓形式(ゴンブー)


ダーリン「…オデバルなのに東洋大陸の拳法使うんだな?」


エドガー「こちらの方が性に合っています」


次第に、互いの間に沈黙が流れる。


気が付けば、二人の体を中心にするように橙色、端は黄色のオーラが現れていた。


エドガーは自身の同じオーラを纏うダーリンを見て、目を細めた。


最初にそれに気づいたのはエドガーだった。


エドガー「…待ってください、何故貴方が二心を?」


その言葉でダーリンもエドガーの二心に気づいた。


ダーリン「…おい待て、それはこっちのセリフだ」


二心は本来、まだ少し未来でシェンさんが完成させた技のはず…


だが目の前のエドガー家現当主は、それを使えていた。


そして俺は一つの疑問が浮かんだ。


東洋大陸の拳法、あの喋り方、内側を破壊するような打撃、そして…ミドリ・ミルク


ダーリン「…シェンさん…?」


その名前を聞いた瞬間、エドガーは目を見開き構えを解いた。


エドガー自身、シェンという名を口にし、戦士の斧と布都御魂を持っているダーリンを見ておかしいと感じていたのだろう、構えを解く判断に時間は要さなかった。


エドガー「……もしかして…カルディナさんですか?」


軽い口調、青髪、黒い目…ブルートニック、それらの特徴を持ち自身の知っている者の武器を持っているとなればそれ以外に答えはなかった。


ただ二人は唖然と互いを見つめ合っていた。


二人は同時に、様々なことを考えていた。


ダーリンは何故シェンさんがエドガー家の当主なのか、何故見た目が違うのか。

エドガーは何故カルディナがイズルトと月佐夜の武器を持っているのか、何故カルディナがこの場にいるかなど…


二人の空間が、扉を蹴破る音で壊れた。


??「大人しくしてください、でなければ暴力的手法になります」


扉の場所に居たのは短髪の女性、髪色は水色と淡い灰色で瞳は髪色と同じ、そして腰には鍔に紫色の宝石が埋められた短剣を2本刺していた。


女性の後ろにはウィンターズが隠れており…


ウィンターズ「けっ喧嘩はよくないぞー!」


ウィンターズは震える手を掲げ、店主として声を出した。


ダーリン「……悪いなウィンターズさん、とりあえず…もう仲直りした」


エドガー「え、えぇ…申し訳ありません」


??「ウィンターズさん、このお二人が先程話していた?」


ウィンターズ「そ、そうですけど…」


ウィンターズは女性の後ろから店内を見渡す。


先程からあまり被害は広がっていないが、それでも直すのにはかなり金がかかる。


ウィンターズ「あ…あぁ…俺のバーが…」


がっくりと肩を落とし、落ち込む。


??「貴方達…バーで暴れるってどういうことですか?」


ダーリン「あー違うんだ。その…まぁ色々この人と行き違いがあってだな…」


エドガー「本当に申し訳ありません…」


―――

――――

―――――


それから2人はウィンターズと女性にみっちり説教された。


ウィンターズ「そもそもなんすけど!喧嘩するなら外でしてくださいよ!」


??「そうですよ!ここは地下にあるバーなんですから、崩落したら貴方達も生き埋めですよ!?」


エドガー「…はい…」


ダーリン「その通りです…」


静かに正座しながら話を2人は聞いている。


エドガーは相手の顔を見ながら、ダーリンは顔をうつむけながら聞いていた。


ウィンターズ「はぁ…まぁとりあえず、今回の件はちゃんと修繕費払ってくれるならチャラにします」


ウィンターズ「それと、今回の件は騎士に言ってないっす。エドガー様の立場だと色々面倒だと思ったので」


エドガー「は、はい…感謝してもし尽くせません…」


??「あ、ウィンターズさんは終わりですか?、でしたら私はもう少し…」


ダーリン「ちょちょちょちょ、ちょっと待てそれはおかしくないか?」


??「?何がですか」


ダーリン「ウィンターズさんが怒るのはまだ分かる、ここの店主だからな?」


ダーリン「でもあんたが怒るのはそもそもとしてちょっと話が違うんじゃないか?」


冷静にダーリンは立ち上がり、女性の言葉を遮った。


??「……あ、まぁ確かに…」


ダーリン「だろ?そもそも俺はあんたの名前も知らないし、あんたはどこの立場なんだ?」


女性は少しハッとしたように…


??「確かに、それもそうですね…申し訳ありません」


??「私は…キスティス・プセドニムと言います」


キスティス「一応、ウィンターズさんとはつい先程裏路地で出会いました」


ダーリン「裏路地で出会ったばっかで一緒に説教か?!神経図太いな?!」


キスティス「ま、まぁ…大人として」


エドガー「それは大人としてもどうかと思いますが…」


キスティス「うぐっ…」


ダーリン「…まぁ、言ってることは正しいし、今回の件は俺達が100悪いからいいんだけど…」


ダーリンはキスティスの身体を真剣な顔で舐め回すように見る。


キスティスはその視線に気づき…


キスティス「……なんですか?、少し視線が不愉快なんですが」


ダーリン「ん?、あ!いやいや悪い悪い勘違いしないでくれ、俺には既に女がいる」


キスティス「それでは安心はできませんよ?」


エドガーはダーリンの頭を少しポンと叩いた。


エドガー「はぁ…カルディナさんが女好きなのはどこでも変わらないんですね…」


ダーリン「いや違うからな?!俺はホントに女がいるからな?!」


エドガー「はいはい、そんな与太話は結構です」


そんなこんなで場が少し和みかけていた。


ただ、一人を除いて…


キスティス「…カルディナ?」


キスティスの手は震えていた。


女好き、青髪、軽い口調、舐め回すような視線、カルディナという名前…


キスティス「今…カルディナと言いましたか?…」


その確認を聞き、エドガーとダーリンの2人はキスティスを見る。


エドガー「はい…それがどうか…」


エドガーはキスティスの体を注意深く見た。


水色に淡い灰色、短髪で分かりづらかったがある人の面影が見える。


ダーリン「やっぱ、そうだよな?あんた…」


エドガー「…フェニシアさんですか?」


その言葉を聞いた瞬間、フェニシアは膝から崩れ落ちた。


フェニシアにとって、


キスティス「あ…あぁ…」


目を見開きポロポロと涙を出す。


キスティス「あぁ…ごめん…なさい…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…ッ」


何度も何度もそうダーリンとエドガーへ謝った。


ダーリン「待て待て!落ち着け!」


エドガー「…大丈夫ですか?、今は落ち着いてください、ゆっくりと深呼吸をして」


キスティス「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


まるで壊れた機械のように言い続けるキスティスの目は、ただ延々と涙を流しながら床を見続けているように見えた。


エドガー「フェニシアさん、しっかりしてください、貴方に何があったか分かりませんが私達は貴方を憎んだりも、恨んだりも思っていません」


キスティス「っ…ぐっ…ぅぁ…違うん…です…」


キスティス「私が…私のせいで…皆さんが…イフリートの炉心溶融(メルトダウン)で…」


キスティスの目に映っているのは過去の記憶だった。


魔造神アルテマによって召喚された原初の炎(イフリート)、最終決戦でフェニシアがリフレクを発動できずメルトダウンで溶け落ちていく光景。


溶けながら自身へ手を伸ばす恋人だったゴネルバの姿。


なんとか発動できたがその時には既に周りは皆生きておらず、自身だけ助かったあの時。


ウィンターズ「ちょっなんすか?!また揉め事っすか?!」


ウィンターズは急いでキスティスに駆け寄り、背中をさする。


ダーリン「揉め事じゃねぇよっ!、とりあえずなんか水なりなんなりないか?!」


ウィンターズ「水っすか?!ちょっ待っといてください!」


ウィンターズは急いでコップを取り、水を入れ持ってくる。


ウィンターズ「こ、これ水っす!」


ダーリンはウィンターズからコップを受け取りキスティスへ差し出す。


ダーリン「ほら!とりあえず水飲んで落ち着け!」


だが、エドガーはその差し出したコップを止めた。


エドガー「待ってください、今下手に刺激は与えないで」


ダーリン「じゃあどうしろって!」


エドガー「…蓋が無理やり閉まっている限界のコップの蓋が、今外れたんです」


エドガー「自然に収まるまで側にいるしかありません」


そう冷静に言うエドガーは、今の状況を内心焦っていた。


エドガーには色が見える、その色は本人の感情によって変わる。


そして今、フェニシアに見える色は真っ青、だが次第にその色は真っ黒な色へと変色している。


青は基本的に悲しみの意味合いがある。

ただし黒、これの意味は…


「悪意」「無」「虚空」


(今の状態で悪意はない…つまり残るのは無か虚空…どちらも染まってしまえば…それは心が壊れたも同義…)


エドガー「っ……」


(どうする?…今の状況は発狂、それならば白魔術を使ってもいい…だが今この場にはウィンターズが居る…ならば…)


エドガー「すみません、ダーリンさん?」


ダーリン「どうした?!」


エドガー「少しウィンターズさんを外に」


ウィンターズ「えっ?!もっかいすか?!」


エドガーはダーリンにだけ伝わるように、先程の戦闘で出来た自身の傷を白魔術で癒した。


ダーリン「……!」


ダーリンはエドガーの片足にあった傷が少しずつ癒えているのに気づき…


ダーリン「…分かった。ウィンターズさん、ちょっと外に行こう」


ウィンターズ「はっ?!ちょっダーリンさん?!」


ダーリンはウィンターズを連れ、外へ出た。


それを確認したエドガーは発狂しているキスティスへ両手を出す。


エドガー「万物、森羅万象の数々よ、それは数多の力であり理の力でもあらん」


エドガー「汝らの生命はリズンの元にありまた我らも同義」


エドガー「すなわち我らは共に天地開闢の夜、共に生命と魂を分け合った血肉なり」


エドガー「汝らの血肉をしばし我に委ねたもう」


エドガー「フルヒール」


詠唱を唱えた瞬間、エドガーの手のひらに青い粒子のようなものが集まり始める。


その青い粒子がキスティスへ流れるようにして近づいていき、キスティスの体全体を覆う。


キスティス「ごめんなさ…い…ごめんな…さ…い…」


キスティスは我に返ったのか顔を上げる。


キスティス「っ…こ、これ…」


エドガー「フルヒールです。あのまま行けば、フェニシアさんの精神が持たなかった」


キスティス「……すみません…折角また会えたのに…急にこんな…」


エドガー「いえいえ、謝罪しなくとも…私やカルディナさんは何も思っていませんよ、それに…おそらく私達は…」


そうエドガーが何かを言いかけた途端…


時間が、止まった。


キスティスの嗚咽など、音は一切消え、身体が動かない。


ただ頭にはカチ、コチと振り子時計が響き…


ボーン、ボーン…


と低く鐘が鳴った。


「フルヒール?どうして、貴方がそれを使えるんですか?」


その声は女性の声だった。


唐突に聞こえたその声は、何故か自身を不快にせず、むしろおっとりと心が開くような天使の声。


「おかしいですね…そんなエーテルは今目が覚めていないナイブズ君ぐらいしかないはずですが…」


「助けを求める声が聞こえ少し見に来ましたが…治ってしまいましたね」


「仕方ないです。そのエーテル量、理由は分かりませんが…大切に」


声が止んだ。


エドガー「っ?!っ…はぁっ?!はぁ…」


突然聞こえた振り子時計の音、女性の声、状況を整理しなくともエドガーにはその類の心覚えがあった。


エドガー「…一時的な超高濃度エーテルの反応で、私達が見えたようですね…」


エドガー「……進化の神、この世界にも居ますか」


キスティス「っ…シェンさんも…」


エドガー「…フェニシアさんもお気づきですか?」


キスティス「……はい、ただ私の知っている声ではなかったです」


エドガー「…それは私も同感です」

え〜元々短編にしようと思ったんですけど、内容濃すぎて短期連載にすることにしました。


【キャラクター】

アフランタ・エドガー(別世界線のシェン・リョグン)

仙人と呼ばれ、500年間不老の身体を使い武術、拳術を極め、自身のエーテルを身体に纏い鎧として活用する技術の「一心いっしん」や「二心にしん」を開発し他にも様々な応用技を開発した。


ダーリン・アスモデウス(別世界線のカルディナ)

元々黒魔術師であったが、仲間が居ない状況が続き、一人で十分な強さになることを目指して鍛えに鍛え、遺品である戦士の斧と布都御魂を完璧に扱えるようにした。

あと本来存在しないはずの黒魔術などを使えば色々とヤバいので安易に使えなかった事もある。


キスティス・プセドニム(別世界線のフェニシア)

元々白魔術師であったが、仲間をリフレクが出せなかった事で死なせてしまいトラウマによって白魔術が苦手に、それから炎を無効化する能力で残ったゴネルバの2本の短剣を持ち、何度も何度も皆を助ける為に行動していた。



【用語解説】

・エーテル=この世界における生命エネルギー


・超高濃度エーテル=エーテルが一点に集中して集まり、エーテル同士が混ざり合って異常な程に密度が上がっている状態。


・進化の神=西洋大陸にある技術大国オデバル合衆国で主に信仰されているプロメテウスという進化の神。


・アルテマ=魔法大国ハルマーシュ王国、魔国で主に信仰されている魔物、魔法、この世界を作ったとされる魔造神


・リズン=この世界を作るための土台を作ったとされる地造神(創造神)


・フルヒール=最高位治癒魔術(現段階この世界で主人公達以外に使用できる者は居ない)


・アダマンタイン=世界一硬い物質


・イフリート=文字通りの原初の炎、こいつがいないと炎魔法が存在しない。


・エドガー家=オデバル合衆国にある7つの名家の一つ、武術の名家


・七代名家=オデバル合衆国にある7つの名家


・ペヘリト村=ハルマーシュ王国王都付近にある村


【裏話】

・実は最初、エドガーの日常を書いた作品にしようと思ってたんですけど…日常よりどちらかといえばこういった結成譚とかのほうが面白いかなと思い書き直した結果れができました。


【最後に一言】

元々書いてある通り私の自作シナリオの外伝なんですが、もしリクエストがあったら本編の方をリプレイじゃなく単純な小説として書こうかなと思います。

先に今やってる連載全部終わらせてからだけど

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