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間章 我々の未来について

序章


 一発の弾丸から始まった史上最悪の戦争が遺したもの。それが差し示しているものは、これからの未来がひどくゆがんだものになるだろうと思わせることだ。

 隣人を愛せよ。と言うが、愛するべき隣人が人類を超えた存在であることが明らかなとき、これを人は愛することができるだろうか。

 そして、その隣人が、人という劣等種に対して愛を持つことなどできるだろうか。


 たしかに、彼らは1900年以上の長きにわたり、人と積極的にかかわらない歴史を作り出してきた。だが、彼らがいかなる存在であったのかは、神話学を少しでも学んだことがある者たちは知っている。


 神代においては、人間にとって、王であり、指導者であり、導き手であった。


 その彼らが、現在に蘇った。我々は、両の手を広げ、それを歓迎した。それは、限界的な環境が作り出した止むなき受容であれ、合理性より導き出された新たな資源の有効活用であれ、人類側がそれを認めることは、我々の子々孫々世代の未来を閉ざす結果にならないかと、筆者は危惧しているものである。


 

超人たちの変遷


 1915年にパリにて起こったドイツ軍による、パリ虐殺。これにより殺害されたパリに滞在していた超人ウルティマの死に、激怒したフランスの超人連盟組織のエジットが、正式に人類の戦争に参戦したとされているが、若干事実は異なる。

 エジットは、当初、同じ超人連盟組織であるドイツのライン会議に対し、非常に理性的な手紙を送っていたということが知られている。以下にその1つを掲示する。


 

 ライン会議議長殿


 我々は、今回のパリ市街における「ウルティマ」の死について、未だ詳細を把握してはおりません。

 しかし、彼が我らエジットにとって、シオン・ヒルの誓約を体現する存在であったことは、貴殿らもご承知のはずです。


 シオン・ヒルの誓約とは、人と我らの境を守る唯一の約定にございます。

 これを破る行いが、もし誤りであったのならば、我々はそれを人の愚行として許容しましょう。誓約の不履行には、人への罰をもって応じるのではなく、我々の対話によって、事を終わらせるべきです。


 よって、エジットは即座の報復を望みません。

 今まで通りに、貴殿らがシオン・ヒルの誓約にのっとり、対応していただけるのならば。今までと同じように、この不幸な事件は、我らの間に何の障害も残すことはないでしょう。


 シオン・ヒルの誓約に誓って。


 貴殿らの賢明なるご判断を信じております。



 それに対してのライン会議から返答されたとされるのがこの資料である。



 貴殿の書簡を確かに受け取った。


 ウルティマとやらの件は、こちらのあずかり知れぬ、無名のものが、一匹が死したにすぎぬ。

 シオン・ヒルの誓約を持ち出すほどの大事とも思わぬ。


 また、罰をあたえる。と、あったが、貴殿らは、我らの代弁者ではない。貴殿らが誓約に縋り、報復などと愚かな妄言を吐くのならば、望むところである。

 我らライン会議は、貴殿らエジットを敵として迎え撃つ覚悟がある。


 銃を捨て、即座にこちらに膝を付け。

 出来ぬのであれば、貴殿らの血と屍をもって、シオン・ヒルの誓約を書き換えるだけのことだ。

 


 現在においては、この返信を作成したものは、ルーデンドルフの配下ではないかと言われている。シェリーフェンプランを成功させた立役者の一人とも知られ、東部方面軍の参謀補佐として活躍する前は、パリの占拠における実質的な司令官とされていた。

 その当時のパリは、厳戒態勢の中にあり、すべての封書は一度封を開けられたとされている。それは、不可侵とされていた超人連盟組織にも及んだことは疑いようのないことであろう。

 

 現在に至っても、我々は、シオン・ヒルの誓約というものがいかなるものかを知らず、おそらく、この返答を書き記したものを理解はしていなかったのであろう。

 しかし、為されたことによりこの戦争が変化したのは、もはや疑いようのない真実であろう。


 

 結びとして

 

 そして、戦場に放たれた超人たちによって、戦場は様変わりを見せた。人間同士の泥臭く、凄惨な戦場を超人の力がまるで暴風のように荒らしまわったのだ。


 人間の心は移ろいやすく変わりやすい。かつて、ヴィルヘルム二世の遺した談話は、軽視され嘲笑された。軍は、より強い超人を求め、より効率的に人間を殺す方法を超人に伝授した。その結果、第一次世界大戦末期には、超人が戦場にあふれ、兵士たちは、本来の居場所を失った。



 次の大戦は、いずれ確実に起こるだろう。それは、おそらく超人をいかに効率的、そして効果的に運用できるかの闘いになることは疑いようのないことである。

 その戦いもいずれ終わる日が来るのだろう。

 

 勝者になる者。それはもはや、疑いようもない。

 だが、我々はそれを捨て去ることも、忘れ去ることもできない。

 

 我々が、勝者に首を垂れ、足元に膝まづく未来。その足音が聞こえ始めようとしている。

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