エピローグ
エア・バイクを走らせていたイファルは、目的地に辿り着いたことで、バイクを停車させて、地面から降りた。
砂塵の舞う激しさに、目を細めてやり過ごし、大分伸びた髪を梳きながらゆっくりと歩き出す。
そんなイファルの存在に気づいたらしい人影が、手を振ってこちらに駆けてくる。
「久しぶりだな、イファル!」
嬉しそうに駆け寄ってきた相手の精悍な顔立ちに、イファルは満足そうに頷き、その肩を叩いた。
「大分、貫禄ってヤツがついてきたんじゃねぇのか、アル?」
意地悪そうに言ってやると、アルは照れたように頭を掻いた。
「ま、もう時期だからな……流石にここで落ち着いてないと、オレが怒鳴られちまう」
その台詞に、イファルは苦笑を零す。
「おいおい、もう尻に敷かれてんのか? まぁ……お前の場合は初めから、勝てないようなもんか」
アルと相手の関係について、一番長く知るイファルは、そう納得すると、アルが面白くなさそうに口を尖らせた。
「そういう、言い方はないんじゃねぇの?」
「悪かったって…………もう、二年になるんだ、よな……」
アルの態度に愉しげに笑っていたイファルが不意に、感慨深げに言葉を吐いた。
その意図を知ったアルもまた、過ぎ去った過去を思い起こし、静かにイファルの言葉に同調した。
「そう、なるな……」
忘れようにも、忘れられるはずのない、大切な思い出だった。
「お前は良いよ。もう、あの時から歩き出すことが出来てるから……」
アルを見て、イファルは羨ましそうに口にする。
「……だが、オレはまだだ。まだ、あの時から動き出せずにいる」
呟くイファルに、アルは返す言葉が見つからない。ただ、黙したまま、自分に横顔を見せるイファルの左耳朶に揺れるバイオリン・ケースのピアスを見つめた。
「…………どうも、この目で見るまで、諦め切れないんだよなぁ……」
我ながら、未練がましいと、苦笑を零してイファルはアルがさっきまでいた方向に歩き出した。
「イファル……」
そんなイファルの横について、アルも歩き始めた。
「ま、それでも二年だ。そろそろオレも踏ん切りつけないとな。あ、おい、なんかエティが呼んでるみたいだぞ?」
爽やかに笑ってみせ、つまらないことを言ったなと、話を完結させたイファルが、前方で手を振り、何かを叫んでいる少女―少女から大人の女性へと変貌を遂げたエティを指差し、アルに教えた。
「なんだろう?」
耳を傾けて、その内容が頭に入った瞬間、アルとイファルは、慌ててその場から駆け出した。
無理もなかった。エティの口走った台詞は、
「生まれるぅぅ!」
という、強烈な一言で、あったのだから。
人が生活するには決して優しくない砂漠地帯。それでも、アルたちは立派に生きていた。
ルキウスたちが守ってくれた、この世界を今度は、自分たちで育んでいくために。そして、何よりこの世界が、好きだから、だからアルたちは、この地に立った。
《完》