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 着信がある。たったの三コール。到着しましたということなのだろう。覗き窓から堀内君であることを確認し鍵を開けドアを開く。

「ごめん、ありがとう。」

部屋に入る前に顔の前で手を合わせて謝罪を入れる。

「いいよ、春花のせいだし。」

私はあはははと笑って堀内君を招き入れる。鍵をかけ、チェーンロックもしっかりとした。

 時刻はもう一時近いこともあってお風呂も済んでいたのだろう。すでに部屋着らしいスウェット姿の堀内君を玄関ではなく部屋の奥に連れていく。

「あ、本当に玄関に置いてもらえたらいいから。悪いし。」

恐縮する堀内君にまあお茶くらいどうぞとハーブティーを出す。お茶を飲んで一息つく堀内君ににっこりと微笑む。春花とのことを聞き出すようなまねはしない。私にだって仕掛け方は、少しくらいなら分かるから。

「本当にありがとう。流石に夜は冷えるし困ってたんだよね。南田さんには本当に感謝。」

軽くぺこっと頭を下げる。私は手をパタパタと振って笑顔で応じる。

「そんなお礼言われることじゃないよ。友達が困ってたら、出来ることならしてあげたいだけだもん。」

「本当に南田さんって優しい。」

「もー褒めてもお茶以上のものは出てこないよ。」

ふふふと笑って見つめる。堀内君は少し視線を逸らして呟く。

「南田さんみたいに優しい彼女だったらなぁ。」

そこに込められた想いなんて私は知らない。

「本当?」

そんなこと言ったら春花が怒るよ。言いつけちゃうんだから。と言って私は茶化せばいいのかもしれない。

「うん。可愛いけど、春花はちょっと勝手なところあるしさ。」

「そうかもね。」

二人が少し黙る。ハーブティーじゃあ落ち着きすぎたのかもしれない。

「ありがと。今夜はそろそろ玄関で休ませてもらうね。」

堀内君が立ちあがる。マグカップをシンクに運ぼうとキッチンへ近づく。シンクにことんとマグカップを置いて。

「明日、洗うね。」

にっこりと笑う。私は一歩、二歩、彼に近づく。



「南田さん??」


 堀内君の背中にくっつくように立っていた。スウェットの柔らかな生地を掴んでいる。おでこを背中につけると布一枚越しに堀内君の体温を感じる。

「私じゃ、駄目かな。」

振り向いた堀内君は目を丸くする。私達は正対していて、背伸びをすれば堀内君と、彼と溶けあえる。


 背伸びをしてゆっくりと近づいた。彼は逃げない。

 軽く触れるようなキスをした。

「好き。」

ゆっくりとかかとを床について見上げる。まだ静止している彼に囁くように告げる。

「友達だから部屋に入れたわけじゃないの。」

助けたいと思ったのは本当だけど、好きじゃない男の人を部屋にあげるほど私は愚かな女じゃない。

「南田さん。」

そっと彼はその細く綺麗な指で私の顔に触れた。そのまま唇を重ねる。最初は優しく試すように何度も、そのあとは深く優しく、時に激しく。


 次第に私達は溶け合っていく。

 廊下の床がひんやりと火照った肌に心地いいくらい。

「好き。」

呟くように吐き出すように漏れ出ていく言葉は、私のもの。私だけのもの。私のベッドで二人抱き合って眠った。あの夜とは違う夜。


彼の気持ちは知れない。




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