第五十一話
「もしもし聞こえる。聞こえたら返事して?」
セルフィは輸送車の中でミチコから取り上げた、通信機でロウファに連絡を送っていた。
「どう、通じた?」
「駄目、あの子いつもヘルメットで通信を取っていたから、連絡できるかと思ったんだけど」
運転していたヒオトは自分の嫌な予感を言う。
「もしかして、もうペインに…」
普通は心理的に負担を掛ける事は現場に向かう人間に対して、あまり言ってはならない事だった。
初等部の生徒達が最初は自分達の予想を反して別寮に戻って来た事に内心、気が楽になっていたのだが肝心のロウファがいなかった事に悪い予感しかしなかったのだ。
「ちょっとアナタ、私の通信機を返しなさい!!」
一瞬、運転中の車が動いたかのように見えたがミチコが騒ぐ、
「ロウファちゃんはね、この日のために頑張ってきたのよ。
そんな子の活躍の場を奪って…。
いつも貴女達の判断が正しいと思わないでちょうだい!!」
そして、ミチコを先頭に両親たちが騒ぎ出すので、もうこの人達には何を言っても無駄なのが見て取れた。
「ふん、勝手な事を言ってくれるものね…」
輸送車の形成上、ミチコの大騒ぎしているのぞき窓には窓が付いてないので、いまだに騒ぎ続けるミチコ達にヒオトも不機嫌そうに答えた。
「勝てる要因がなさ過ぎるのが、これほどまでわからないなんて…」
「そうね、子供と大人が戦ったら、どうなるかホントにわかってないわ。
身長、体重差、これだけも不利なのに、一人で行くなんて自殺行為よ」
「それに『衝撃波』のベーシック。
それだけで立ち向かうのには…」
隣で運転しているヒオトも、ロウファと同じ付加能力だったので、セルフィ以上に理解できるのだろうかヒオトは言った。
「まず勝てるとしたら、武器自体の性能で怪我を負わせなければ、ペインには勝てないと思ってる」
「武器自体の性能?」
「いくら相手が強くても防御本能は万全じゃありません。
手に握られていた武器が刃物なら…」
「でもロウファの東方術は『十手』よ。
東方術者は、武器の種類は変えれないわ」
「だから勝てないと思ってる」
それだけ言うと二人の間に妙な沈黙が出来たので、気分が悪くなる前にヒオトが話題を切り替えるように聞いて来た。
「と、ところで初等部の子供達が、戻って来るって意外だったね」
「ふん、誰かさんが子供相手にゆさぶりを掛けたのでしょうね」
「誰かってセルフィ、貴女は知ってるの?」
「わからない?
名前まで出てこなかったけど、あの人よ?」
「まさか…アラバ…?」
セルフィが少し笑いながら聞いて来たので、ヒオトは何となくわかったのだろう。
「今は避難命令が出ている最中よ。
バレたら隊長に迷惑が掛かるというのに…」
ヒオトは怒りを浮かべていたが、セルフィは腕を組みながらこう呟いた。
「それを軽々と破ったから、初等部達の行動を封じ込めれたんだけどね…」
この呟きが聞こえる事はなかった。
「どうしたの?」
「ふん、何でもないわ。
私達も急ぐわよ、誰かが助けに行かないと非常に危険なのは間違いないわ」
「レフィーユさんが向かっているけど…?」
「間に合わないかもしれないじゃない。
誰かが来てくれれば…」
だが、おかげでセルフィは少し冷静になれたのか、自分のやるべき事、通信機で応答を取ろうとした。
「もしもし、聞こえたら応答して…」
通信機の発信音を2、3度入れて、ロウファに声を掛ける。
ちょうどその頃、ペインは痛みに悶絶していたロウファを見ながら抱きかかえ様とした時だった。
「やあああ!!」
今にして思えば見計らっていたのか、ファミリー達の目にしたのは、刺叉を突きつけて突撃するミクモの姿があった。
一瞬、何が起きたのか周囲は全く理解出来てなかったファミリー達は慌ててしまい、ミクモの突撃を止めようとせず。
「ぬおっ!!」
ペインはまるでロープに引っかかった様に吹っ飛んだ。
「ロウファ!!」
気絶してないが、痛みに唸るロウファの身体を揺さぶる。
そんな中を…。
「おいおい、また子供かよ…」
ペインはゆっくりと起き上り、ミクモはあっという間に囲まれてしまっていた。