第五十二話
「で、お前は誰だ?」
「ミ、ミクモです」
「あ、何だって?」
ペインは一瞬、何を言ったのか聞き取れなかったが、戸惑っているのが彼の性格だと時間は掛からなかった。
だが、ペインが彼の名前が『ミクモ』だと改めて知ったのは。
「ミクモ、何しに来た?」
ようやく痛みの収まったロウファの言葉でだった。
「た、助けに来たんだよ」
「よけいな事を、どうせ、あの人に頼まれたんだろ?」
『違うよ』とミクモが戸惑う中を、ペインは冷静に周囲を眺めて言う。
「おいおい、仲間なんだろ落ち着けよ?」
あくまで人懐こいのは、状況の分析のためである。
「見たところ、同じガッコのヤツのようだが、お前も俺を倒してハクをつけようと思ってるのか?」
脅し代わりにペインは多節鞭を前に構える、先ほどの戦いを見ていた可能性があるなら、十分な効果があるのが彼の経験論だった。
ペインがこのまま様子を見ている事に。
「どの辺りから見てたかもしれないが、お前じゃ俺には勝てんぞ?」
「うるさい、ボクはまだ負けてないんだぞ!?」
気付かずロウファは声を荒げて前に出るが、ミクモは何かに気付きロウファを後ろに下がらせ、静かにじっとペインを見ていた。
その一瞬の作法が。
「一人で来たのか?」
ミクモが自分の狙いバレている事を気付かせた。
「も、もう包囲されてます。
お、思わず出てしまったけど、無駄な抵抗は…」
「やめろってか?」
はったりだとわかる発言だった。
しかし、先ほどすぐさまロウファを引き下げたため、ファミリー達を確実に戸惑わせていた。
「優秀な事だな?」
ペインの感想に驚いたのは、ロウファだった。
「ミクモが優秀だって…?」
「ああ、優秀さ。
コイツの話じゃ、お前が戦っている間に俺たちはまんまと包囲されたって話じゃないか?」
「それはボクが戦ってたからだっ!!」
「お前はただ無謀なだけだ。
ミクモと言ったな。
見事なモンだ、さすがにあの食事係の目を付けるだけはある」
「食事係?」
今度はミクモがそう聞いて来たので『またかよ』とペインは食事係の意味を説明するが、ペインの評価の通り、ファミリー達は戸惑い、周囲を警戒し始めていた。
「まあ、お前の実力はとにかく、戦力の分析、状況の解析は大したモンだ。
これもお前の目論見どおりなのか?」
「こ、ここ、この前、魔法使いがやった事を真似ただけです」
「魔法使いだと…?」
「は、はい、あの人はある一定の情報を与えて、ファミリー達を逃がす算段をして被害を最小限に食い止めました。
じょ、情報を与えるだけなら、ボクにも出来るから…」
「トレードか…。
アイツは俺に情報をよこせと言って、お前は逃げろと?
やるじゃないか」
ロウファは驚きを隠せなかった。
ペインが自分の時と打って変わって褒めちぎってる事もあっただろう。
だが、いつも手合わせの際に負けているミクモがここまで考え、出来る人だとは思いもよらなかったのだ。
「……」
だが、その思考はすぐに止まった。
そして…。
「ざ、残念だったな…」
「ロウファ…?」
ミクモは気付かないでいた。
ロウファのヘルメットの辺りから…。
『ロウファちゃん、ちゃんとやるのよ!!』
セルフィがロウファを止めるための通信の中から、ミチコの声がしていた事を。
「これがボク達の勇気の勝利だ!!
大人しく降伏するんだ!!」
「お前、さっきとは随分と態度が違うな?」
ペインは肩をすくませ、ロウファを見ていたのは彼の態度はあまりにも痛々しさがあったからだろう。
「戯言だ、要するに勝てば良いんだ!!
これから5秒数える…」
その言葉を聞いた途端、ミクモは思わずこう言った。
「ま、待ってよ、ロ、ロウファ…」
「いい気になるな、ミクモ。
ボクは、お前に負けたけどあれはお前の実力じゃないんだ」
そう言って答えたロウファの顔は、
「だから、ここで見せなければならないんだ」
焦りに満ちていた。
『聞こえるなら、応答して今すぐに退いて!!』
セルフィも負けじと大声で叫ぶ、しかし、ロウファには距離的に小さくなった母親の声を鮮明に拾っていた。
『ここで、実力を見せるの!!
見せないといけないの!!』
「5秒数える…」
「ロウファ、やめて…」
ミクモは、はったりだとバレたら、今、確実に人数で押しつぶされるのが眼に見えていたので、懸命にロウファの行為を止めさせようとしている。
しかし、その意図をロウファはわからないままミクモを払い退けてつぶやく。
「ボクはここで活躍するんだ…」
「やめてって…」
「お前が勝ったせいで…ボクには…後が無いんだ…。
お前が勝ったせいで、ボクに対する、レフィーユさんの下がったんだ」
ミチコが言った言葉を最後の一文に乗せて、数を数え始めていた。




