第五話
そして、次の日、その初等部の国立大村学園との合同授業の日はやってきた。
グランドで校長の説明を終えて教室に戻ると、いろいろと不安な事もあったが、周囲もやはり楽しみにしていたのだろう。
自然と明るい雰囲気になっていた。
「どんなヤツが来るんかのう?」
テンションが上がったイワトが楽しそうに言うと、そこには前にレフィーユが指示したとおりに自分達のクラスのちょうど半数の机を減らした状態で出来たスペースに、1サイズ小さい机や椅子が並べられている。
他の半数は使われていない別教室で同じような風景を見ているのだろうが、やはり気になるのは自分の周囲には治安部員が多いのである。
「誰かの陰謀が見え隠れしてますね…」
「ふっ、陰謀とは聞き捨てにならんな。
私としては頭の良い連中に、体力班と分けたつもりなんだが?」
レフィーユは近くにやって来て、その細い腰に手を当てて聞いてきた。どうやら悪くも思ってもないらしい。
「それで本音は?」
そう聞こうとした時、周囲が静かになった。
最初は初等部の生徒達が来たのだろうと思って、
出来た静寂の中に視線を向けると明らかに初等部とは言えない人達が先生の誘導のままに教室に入ってきたので、今回の事情を知っている分、質問の内容が少し変わっていた。
「誰がモンスターなんですか?」
「先頭をきっている、アイツだ」
行列の最後尾を見渡すようにして、先頭を見ると、メガネに厚化粧、PTA代表という表現が似合うくらいの保護者が仁王立ちしていた。
しかもそちらもこっちを『じっ』と見ているが見ない振りをしていると、レフィーユが言った。
「ミュンヒハウゼン・ミチコ。
最近になって治安部の活動の多額の支援者として、名をはぜた人物だ」
「支援者…という事は、ウチの学園も彼女の支援を?」
「さすがに気付いたか、おそらく断りきれない理由もそこにあるとは私も感じている。
だが大村学園ほどではないだろうと思っている」
「子供がいるから、融資はそちらに偏ると?」
「ふっ、あちらでは学園行事も彼女に仕切られて、噂では学園長より権限は強いらしいぞ?」
「そんな株式な…」
呆れながらだろうが、その証拠とばかりにレフィーユはミチコに視線を合わせに行くとミチコは鼻で笑い、隣の保護者と話を始め視線がさらに降り注いできた。
「…つまり、この怪物たちの対策として私があてがわれたのですか?」
「期待はしているが?」
そう言われて、レフィーユを見ている、厚化粧な視線達を近くで味わいながら素直に感想を言った。
「レフィーユさん、言っておきますけど『何も出来ません』よ?」
「ふっ、そんな事はわかってる。
だが…」
途中でチャイムが鳴り、続きを聞こうとしたがレフィーユは先に席に着くと自分の席と隣という事に気が付いた。
どうやら、これも陰謀だと思うと。
「これくらいは構わんだろう?」
そう自分の思考を読みながら、担任が先に入って来た。
「ええ…、皆さんいよいよ
楽しみにしていた。
合同授業の日を迎えたワケ…なんです…が…」
担任の調子がいつもと違うので、やはりこの外野が気になるのと思っていた。
そう最初は…。
「ええ…と、まあ…確か…合同授業は生徒が進行をする事にあるのよねえ…。
せ、先生の出来る事は、生徒を入れるまで…ね。
レフィーユさん、後はお願いしますね」
笑顔を引きつらせ、責任転嫁という学校の先生あるまじき行為をするほど…。
「レフィーユさん、ホントあとお願い…ね…」
ど、どうぞ〜」
招かれて、全てはこの第一声が物語っていた。
「はい、失礼します!!」
それは大きな声だった。
先ほどの台詞を大きく出来るのなら三行大きく書きたいくらいに、しかし、まだ驚くまでには至らない。
『大きな声で返事をしなさい』と初等部の先生が教えたのだろうと、何かしら初々しさがあったからだ。
その証拠に女子の中にもつい笑ってしまうほど、自分の心境もそれと同じだと思ってもいい。
しかし、その女子は次の瞬間に、自分と同じように引きつっていた…。
一糸乱れず足を伸ばしてまま行進して入ってくる子供達は、あまりにも異様だった。
「お兄さん、お姉さん、本日はよろしくします」
雰囲気が似てるとかそんな理由ではないが、この子がおそらくモンスターの子だと直感できた。