第六話
ザ、ザザ、ザッ!!
一人でそんな足音を響かせるので、担任の調子の悪きがおそらくこれが原因かと理解をするより唖然とする方に力を働かせている年上達を尻目に、他の生徒達が入ってくるので『もしかして』と不安になっていた。
だが残りは足並みを揃えて…というワケでなく、初等部らしく幼さも残る不安と興味の入り混じった視線をキョロキョロとしていたので、それはすぐに解消された。
後で彼の名前を聞いたが、ミュンヒハウゼン・ロウファというらしい。
整列し終えたのを見て取れたのか、レフィーユは未だに唖然とした空気を取り払うように言った。
「君たちにとって二週間という短い間だが…」
「いいえ、貴重なお時間です!!」
初めてではないが進行慣れしたレフィーユの口調を遮るように他の生徒も一斉に声をあげた。
これにはさすがにレフィーユも目を細める。
おそらくあの母親の指示だろうと、視線を向けたいのを抑えるように目を閉じて、息を吐いてレフィーユは続ける。
「…その間だが、普段キミ達が学びでは得られない、貴重な経験に出会って欲しい。
そして、今後の参考になるならば、先輩達の遠慮なくその技能を盗んで…」
「いいえ、学ばせてもらいます!!」
再度、レフィーユが黙る、彼女は気付いているのだろうか、ここで自分はようやく彼だけ目立つように並んでいたのがわかった、おそらくそういう演出なのだろう。
そういう風に仕向けたのだ。
「…では、これより学園案内代わりのオリエンテーリングを開始しよう」
こうなるとレフィーユが彼を担当しなければならないという空気になるのは不自然というより、自然な流れとなる。
そして、今、一人の生徒を学園内を案内していた。
「それでここからでも学園の外には出られますが、ここは非常時のみですから出るときは、さっき言った正面玄関から出て行ってくださいね」
そう言って、一人の少年、アイサカ・ミクモに声をかけた。
「は、ははは、はい」
緊張が入り混じった上ずった声で、頷いてくれるのに『ああ、この子はまともだ』と安心してはいた。
「ミクモさん、そんなに緊張せずに、いくら年上といっても、普段、どおりに接してもかまいませんよ?」
自分で言っておきながらではあるが無理だろうと思った。
相手は初等部の5年生、2つ下までの後輩ではないのだ。
昔、初等部の6年だった時、新1年生を学園案内をした時に感じた世代のズレが、さらに中等部もまたいでいるせいか大きく感じていた。
そして、普段魔道士としての接し方をするわけにはいかないので、何とか話題を作ろうと話題を探すと、どうしてもこうなってしまう。
「どうでした、レフィーユさんは?」
当然、ミクモは困惑する、だが自分が気を使ったのがわかったのか緊張しながら。
「き、厳しそうな人だと思いました。
ち、治安部をまとめているから、し、仕方がない事なんだろうと、そ、そう感じたのですが…。
そ、それでもどこか優しい人なんだって、お、思えました。
ロウファと違って…」
年頃らしい人の他人に対しての話し方をしたが、ここで気になった事がある。
「ロウファ、随分と親身にひさしく聞こえましたが、友達なのですか?」
「え、ええ、まあ、ロウファはそうは思ってないかもしれないけど…」
「彼、随分と面白い人ですね?」
「す、すいません、あ、あれは…」
「気にしてませんよ。
先生には逆らえないのはよくある事じゃないですか?」
ホントは先生ではなく、両親だと言うのは知っていたが、ここではそう言っておいていた。
今、ここでは指名手配犯を預かっているのは知られてはならない。
そうレフィーユに指示されていたのもあったが、念には念を入れていた。その証拠にその先の留置場を紹介しないようそのまま通過しながら聞いてみた。
「ですけど、あの対面はとにかく、名前を言うタイミングで黙ったのも見物でしたよ」
慌てるミクモを見て、つい笑ってしまった。
理由はこうだ。
レフィーユに名前を聞かれたら、その人物は彼女が気に入っている。
そう聞いた事があるが、ミクモは何か不思議そうな顔をして聞いてきた。
「で、でも、あの時、ロウファ、自分から言ったのはどうしてなんだろう?」
「ああ、それが、この噂がその噂たる由縁なのでしょうね」
「ゆ、由縁…?」
「その噂が本当ならば、名前を聞かせようという流れを作ってしまえば、簡単な事だと『誰でも』思ったのでしょうね。
おそらく『レフィーユが自分の名前を名乗るまで、お前の名前を言うな』とでも指示されたのでしょうね」
「で、でもどうして…」
「そこが彼女の凄いトコロなのですよ。
レフィーユさんに睨まれた…いえ、見つめられた人って、とても緊張するらしいのですよ。
それこそ、初対面であればあるほど。
ですから彼女が自分の名前を言う前に、緊張が手伝って、ロウファが言ってしまったのでしょうね。
でもただが噂ですよ」
「う、噂…」
「貴方は自己紹介で評価が決まるのは、いかがなものだと思いませんか?」
「そ、そうですね」
そういいながらお互い笑っていると、ミクモは聞いてきた。
「あ、あの…」
「どうしました?」
「こ、ここの紹介が、まだなんですけど?」
誤魔化すつもりで留置場への道は避けたつもりだが、そこを聞いてきたのだ。
「ここは職員以外立ち入り禁止なんで、入らないでくださいね」
元々、イワトや、レフィーユに話し合って決めた言い訳をする。
「あ、あの、もう一つよろしいでしょうか」
「…なんでしょうか?」
その時、少しばかり嫌な予感がしたが、残念ながら当たっていた。
「こ、この学園で指名手配犯を預かっていると聞いたのですけど、ホ、ホントなんですか?」
スーパーペインを預かっている事が安易に漏れていたのだ。




