第三十二話
「あ、あのレフィーユさん…ですよね?」
ミクモは心なしか恐る恐る聞いていたが、バレてないとでも思っているだろうかその仮面の剣士はこう言う。
「何の事だ?
私はただの通りすがりの剣士とでも名乗っておこうか?」
どうやら名前を決めずに登場したらしい。
だが、こうなる名乗り出す気は毛頭ないのが、彼女なので今度は自分が聞いてみた。
「…ただでさえ厳重な警備の学園内を通りすがる剣士様が、こんな場所に何の用なのですか?」
「ふっ、聞けばその子は今、勝負を控えているそうではないか、そこで私は力をしてやろうと思っただけだが、何か不服そうだな?」
そう言ってサーベルを作り出す『通りすがり女剣士』に目をつい細めてしまうのは、他にも理由はある。
「『確か自分を言い訳にされたくないから、私は関与しない』と言ってませんでしたかね。
だから昼間のトレーニングにイワトさんが付き合う事になっていたじゃないですか」
「ふっ、だが夜のトレーニングは、許可も出してはいない。
これはどういう事だろうか説明してほしいモノだな?」
真っ白で、まるで三倍のスピードで動けそうな仮面をつけた剣士の指摘にミクモは気まずそうに自分を見たが、先に笑みを浮かべたのは彼女だった。
「ふっ、トレーニングルームの鍵は私が持っているのだが、こういう時に私を頼っても問題はないだろう?」
そう言って、レフィーユはミクモを見つめていた。
そんな次の日の朝、イワトと登校していると、ある違和感を感じ。
「どしたんじゃ?」
イワトに注意されながらも下駄箱の辺りでキョロキョロとしていると、そこにいたのはロウファだった。
最初は『違和感』の性質上、レフィーユを探しているのかと思いもしたが、
「あの…」
それきり何も言わなかったが、どうやら自分に用があるらしく。
「今日は『整列』しなくてよかったのですか?」
人気のない廊下まで案内して、そう聞いてみた。
整列とはロウファ達、初等部の生徒全員が朝に、その通り整列する事である。
「白鳳学園のお兄さん、お姉さん、おはようございます」
そうやって挨拶する事なのだが、みんなはモンスターの差し金だと言いもしたが、自分からしてみれば、昔やった事もあるため。
あの気恥ずかしさを指摘するように聞いてみるとロウファも自覚はあるのだろうか黙ってしまい。
そして、静かに聞いてきた。
「あのホントにミクモと闘う事でいいのですか?」
いつもと違うロウファの雰囲気に少し戸惑ってしまった。
「はい、レフィーユさんの決定だそうですよ」
「ホントにそうなんですか?」
自分も戸惑いを見せていたが、ロウファはずっと自分を見て言った。
「…あのホントに、アイツならボクは勝てますよ?」
「まあ、確かに貴方の言うとおりでしょうが…。
彼女は一旦、決めたと言えば聞かない人ですからね」
「でも、今日までなんですよ?
そのレフィーユさんも関わってないという話じゃないですか…。
もしかして当日になって急に変更とか、あるのかと聞いてみただけです」
意外と疑り深い性格らしく、ロウファは緊張感を持って質問していた。
「それはないと思いますよ」
こんな感じの収穫のない解答がしばらく続き、まだ信じられないと言った表情をしていたがこう答えた。
「まあいいです。
ボクは約束は守ってれればそれでいいですから…」
「そんなに治安部のリーダーになりたいのですか?」
「はい、ボクは治安部のリーダーになって、みんなの役に立ちたいんです。
そのためには早く現場を経験して、はやく認められる事が大事なんです」
「なるほど…ね…」
『このままじゃ、ロウファは駄目になる』
つい、ミクモの言う事を思い出して、レフィーユの心境も心なしかわかった気がした。