第三十話
「ふん、大まかに正解だって言いたいのよ。
もう一回、組み始めるから見てなさい」
すると二人は、再度、組み手を始め、その一動作をセルフィの解説し始めた。
「まず、習い事で武道を習ってるのと、習ってない差がモロに出ているの。
ほら、ロウファが、一気に接近したのを何度か見ているでしょう。
あれはタイミングを見計らって、槍の弱点を突いているのよ。
あの動作を見ただけでも、実力の差は明らかよ」
「ですが、それだけでは槍の優位性は変わらないでしょう。
確か古来から、兵卒に持たせる武器には槍を持たせるのは、その扱いやすさにあるって聞いたことがありますよ?」
「ふん、ミクモはそれを生かせてないのよ。
見なさい接近されてしまった時に、動きが固まってしまってるのよ」
セルフィの言うとおりに、この後、ミクモはものの見事にロウファに倒されていた。
しかし、すぐさまミクモは転がりながら立ち上がり、今度は攻勢に出た。
「やぁ!!」
『やられっぱなしではない』そんな雰囲気で、連続で突きを放つ、ロウファは後ろに下ったのをみてセルフィは言う。
「ほら、ここも、全くロウファを追い詰めようともしてないでしょう?
彼には勝負勘がまったくないのよ」
「勝負勘?」
「ふん、いかに相手を行動不能させて、取り押さえるまでのプロセスみたいなモノね。
それがまるでなってないの。
よほどロウファって子を、傷つけるのが怖いのか知らないけど、ほら、攻勢に出ているのに、躊躇してしまっているのよ」
言われた通り、あっという間にロウファの反撃にあい、ミクモを取り押さえ、そして、レフィーユを見てアピールをする。
そんな光景を見ながら、セルフィはため息をつきながら答えた。
「相手を大切に思うのはわかるけど、そのせいで負け癖も付いて、勝ち方を知らない。
だから受け身もうまくなるのよ。
おそらくだけど、姉さんもそこは感じてるんじゃないのかしら?」
あまりにも納得できた説明に『なるほど』と思ってはいたが、セルフィはそんな自分をじっと見ていた。
「それで貴方の見解はどうなのよ?」
「私の見解…。
大して参考にならないと思いますが?」
「ふん、それでも聞いてみたいわ」
そう言われたからかミクモを再度見ることになるが、自分の見解は少し違っていた。
まず、事件が発生した時に、彼は冷静に周囲を見れた事。
仲間を庇えるほどの行動力があり、いざ、窮地に立った時など爆発的だったのが印象的だった。
それは『漆黒の魔道士』という指名手配犯を前にして出来る事ではないと言いたかったが…。
ただ、そんな事は口に出せるワケもないので、こう言っておいた。
「結局、レフィーユさんは、どう感じるか次第でしょう?」
その解答にセルフィは肩を竦めたが、放課後の事である。
再度、現れた彼女の顔は何故か睨みつけており、冷たく聞いて来た。
「アンタ、あの後、何か言った?」
最初、何を言っているのかわからなかったが、徐々に事を思い出して来た。
「まったく記憶にないですよ」
しかし、徐々に思い出すというのは面白い行為だった。
レフィーユも現場にいたのだ。
「だったら、どうしてミクモが戦う事になっているのよ…?」
それなら彼を推薦する事も、頷けていた。