★ありすの帰宅
眩い光が自分を包む中。
ありすは「みんな、有難う、どうか元気で……」と願わずにはいられなかった。
期間にして、たった半年の旅。
それがありすの心を変え、さまざまな変化を与えてくれた。
大好きになれる人にも会えた。
一生の友人にも出会えた。
魔法を学ぶ機会を貰えた。
師と仰ぐ人が出来た。
優しい家族とも出会えた。
そして……
大好きな兄との別れを経験しなければならなくなった……
どんなにありすが我儘を言っても、どんな甘え方をしても、どんなに迷惑をかけたとしても、笑顔で支えてくれて、絶対に許してくれた兄、クオン。
彼との別れはありすの中に寂しさと悲しみを作ったけれど、でも心を強くし、一人の女性として成長させてくれた。そんな気がする。
「ねえ、貴女大丈夫? 顔色が悪いわ、貧血じゃないかしら……」
「えっ……?」
気が付けばありすは見慣れた街並みに戻っていて、道路に手をつき倒れこんでいた。
そんなありすを心配して、一人の女性が声を掛けてくれたようだ。
「あ、あの……私……」
「無理に動かない方が良いわ、今夫が水を買いに行っているからちょっと待っていてちょうだいね」
「夫……」
夫と聞いて最初に思い出すのは、大好きな叔父のこと。
クオン・オットと呼ばれていた兄は、もう傍には居ない。
そのことを実感すると体が震えだす。
「あら、これも貴女の鞄? 男性物のようだけど……」
「えっ……?」
ありすのすぐそばにあった鞄を拾い、女性がありすに差し出して見せてくれる。
それが誰のものかが分かり、ありすの瞳には涙が溢れそうだった。
「あらあら、まあまあ、大変、これを使ってちょうだい……」
「……すみません、ありがとう、ございます……」
女性が差し出したハンカチを遠慮なく借りてしまう。
クオンの鞄を目にしたことで、優しい兄が本当にもうここにいないのだと分かってしまう。
そして本当に異世界に一人置いてきてしまったのだと、そう実感させた。
「あの、ありがとうございました。お世話をお掛けしてすみませんでした」
女性の夫が買ってきてくれた水を飲むと、ありすはどうにか落ち着くことが出来た。
クオンと離れ大人になると決めたのに、最初の一歩でくじけてしまった。
だけど、ありすにはまだやらなければならないことがある。
クオンに託されたものがある以上、この場で俯いている訳にはいかなかった。
「気にしなくていいのよ、私たちにはもう孫がいないから、貴女のような可愛い子と出会えて嬉しかったわ、ねえ、貴方」
「ああ、お嬢さん、気にしなくてもいいんだよ。年を取るとね、若い子が皆自分の子のように思えてしまうんだ。だから遠慮なく甘えてくれていい、それが一番のお礼になるからね」
「はい、ありがとうございます。あの、後日お礼をしたいのでお名前を教えていただけますか?」
無遠慮かなと思ったけれど、ありすはこの出会いを逃してはいけない気がしていた。
亡くなった祖父母に二人が似ているという理由もあったけれど、魔法で戻った最初の瞬間に出会った人との縁には何か意味がある、そんな気がしたからだ。
「私たちは進導というの、この近くに家があるからいつでも遊びに来てちょうだいね」
「はい、ありがとうございます。進導さん……あの、もしかしてお孫さんって……愛子さん……ではないでしょうか……?」
「えっ……貴女、愛子を知っているの? でもあの子はずっと昔に……」
ああ、やっぱりそうか、とありすは思う。
アイコ・シンドウはありすの前の聖女。
ありすとは違う時代の異世界へ飛ばされ、第二王子と恋に落ちガルデン家を作った人だ。
王女であるアイラの名前は、聖女愛子から取った名だと聞いている。
それに目の前にいる女性は、どこかキーランに似ている気がして……
信じてもらえるかは分からないけれど、いつか二人に異世界の話をしたい、そう思った。
ありすは老夫婦と別れると、家へ向かって歩き出した。
クオンの残した鞄も持ち、胸のポケットの中にはクオンから託された手紙も入っている。
父や母がこの手紙を読んでどう思うかは分からないけれど、クオンは幸せだと、異世界に大切な人が出来たのだと、ありすの口からどうしても伝えたかった。
「お母さん、お父さん、ただいま!」
今日は休日。
父と母が家にいるのは分かっていた。
だから勢いよく家の扉を開き、リビングへ飛び込めば、両親は突然現れたありすを見て目を丸くする。
「ありす、貴女、久遠との食事は?」
「ありす、もしかして久遠君と喧嘩でもしたのか? また我儘を言ったんじゃないのか?」
いつも通りの両親の姿に、一気に涙が溢れてくる。
もう二度と会えないと思っていた二人。
前聖女が無理にニホンへ帰らず、異世界に残った気持ちが分かる。
クオンの魔力を弾く能力がなく、百パーセント大丈夫だと言われなければ、ありすだってあの国に残る選択をするしかなかっただろう。
なぜなら自分たちの元へ呼び出す聖女召喚とは違い、聖女を帰す魔法は成功した前例がない。
大昔の聖女が戻ったという記述は残っていたが、それが本当に元いた場所へ戻れたかは聖女本人にしか分からないことだ。
成功したと思っていても、実際には別の場所で別の時間に送られていた可能性だってある。
そうなった場合自分がどうなるのか……
そんな怖さがあってありすはニホンへ戻ることなど諦めていた。
だから両親にまた会えたことが凄く嬉しい。
それに出かける前まで一緒にいた両親に会えたのだ。
時間が進んでいない。
そのことが何よりも嬉しくて仕方がなかった。
「ありす、どうしたの、久遠に怒られたの?」
クオンに迷惑ばかりかけているという印象が強いのか、母がそんなことを言ってくる。
酷い冤罪だと思うけれど、今はそれさえも嬉しかった。
「一緒に謝ってあげるから、久遠君の家へ行こうか? ああ、もしかしたらレストランで待っているかもしれないぞ、優しい久遠君ならあり得るからな」
父の中でもクオンは優しい、ありすは我儘。
そんな印象があるのだろう、一緒に謝るのだと言い出し、泣き笑いという変な顔になってしまう。
クオンとの過去を思い出せば、両親の認識にも納得しかない。
クオンはいつだってありすに甘く、ありすが仕出かす悪戯を許し、庇ってくれて、一緒に謝ってもくれた。
そんな思い出が蘇り、涙は引っ込んでくすくすと笑いが零れてくる。
姪っ子だからといっても、クオンはどうしてそこまでありすに優しく出来たのだろう。
根っからのお人好しで、心優しいクオンは、ありすの心の中にちゃんと残っている。
だから寂しくても大丈夫。
ありすは前に進める。
笑顔が戻ったありすはホッとした様子の両親の前にクオンからの手紙を差し出した。
「あのね、お母さん、お父さん、くう兄ね、異世界で結婚しちゃったんだよ」
「「……」」
一番大事な報告を最初に伝えると、両親は何とも言えない顔になり、ありすに熱がないか心配し始めたのだった。
十年後、ありすはお迎えの時を待っていた。
今日この日まで一生懸命勉強をし、人としての成長を心がけ、自分磨きを頑張ってきたと言える。
だから胸を張ってクオンに会える。
きっとクオンは今のアリスを見て「さすが俺の姪っ子」と褒めてくれるだろう。
それにありすはあることに気付いた。
おまけの男を連れて行けるのならば、おまけの家族も連れていけるのではないか? そう思ったのだ。
そんな考えに行きついたありすは、緊張気味の両親と手を繋いで待っているのだが、そのことをクオンは当然知らない。
ありすだけでなく、父と母まで付いてきたと知ったら、あのクオンがどんな顔をするのか……
ありすの周りが輝き出した瞬間。
ありすは笑っていた。
クオンの驚く顔が見れる。
ちょっとだけ子供時代に戻ったような、そんな感覚を覚えたありすだった。
こんばんは、夢子です。
明日出掛ける用事があり、急遽夜投稿をさせて戴きました。
本当は明日で終了しようと思っていたのですが、早まる分にはいいかなぁと思っています。w
さて、ありすの話をもって、この物語は完結となります。
前聖女の祖父母の登場と、両親を連れていくというサプライズはいかがだったでしょうか? w
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
そして、応援してくださったファンの皆様、本当に×100ありがとうございました。
皆様のおかげで、無事に完結することができました。
怠け者の私の背中を押してくださったのは、間違いなく皆様だと思っております。
できれば次の小説でも、また一緒に物語を作っていけたらと期待しています。w
夢子の作品を少しでも気に入っていただけたのなら、「ちょっと見てやるかな」と、そんな気持ちで他の作品にも目を通していただけると嬉しいです。
では、また。
皆様のご健康とご多幸をお祈りしております。
夢子




