第三十五章 その三
玄関の扉を開けると、そこには龍太郎と共に白嶽の龍神もあゆみを待っていた。
「龍神様! 来てくれたの」
「そりゃあ、当然ですよ。対馬六観音の結界を張るのもこれが最後。これに参加しないわけには参りません。
今回は、私があゆみ様を豆酘の観音堂までお運び致しますよ」
「まぁ。龍神様に乗せて貰えるなんて光栄! だけど、こんなに大きくなっちゃたの。龍神様、大丈夫!?」
「はははは。あゆみ様、私を誰だと思っておられますか? もっともっと大きくなられても大丈夫でございますよ」
龍神は白い毛をなびかせながら、流し目のように目を細めて笑った。
「ええ~! これ以上大きくなると、あゆみが困る~」
あゆみの顔があまりに真剣なので、周りの魔魅達は可笑しさを堪えきれずケタケタと笑いだした。
「もう~。みんな笑いすぎでしょ。さぁ、行くわよ」
あゆみは龍神の背に乗り、信國と安國は龍太郎の背に乗った。
そのあとを山気につかまった白ババとみその。霊化に藁かざし。モッコにガンゴウも山気につかまり飛んだ。山童と川童は物凄いスピードで走った。いたずら天狗はうちわのような物を扇ぎながら飛び、ひと声おらびは、と言うと、いたずら天狗の飛び傘につかまって、みんなで豆酘の観音堂に向かった。
豆酘の観音堂は、今は時代の流れで多久頭魂神社の社殿となっている。あゆみ達一行は、さほど時間もかからず山口から豆酘の観音堂に到着した。
境内におりたった魔魅達はキョロキョロしながら口々に言った。
「ここはさぁ、もともと豆酘御寺って言ってたよなぁ。観音堂には、たくさんの人がお参りに集まってたな」
「うん、そうだったな」
「今じゃあ、豆酘御寺って聞かないな~。人も前みたいに来ないしさ」
「観音堂は社殿になったから、御寺じゃなくなったのさ」
「それに、観音様が焼けちまったからな」
魔魅達の話を聞いていたあゆみは、今は社殿になった観音堂の前に立った。
「今から、この場所を中心に結界をはるから、みんなは観音堂の周りを見張ってて! 床谷の戦いで大魔王の手下達はかなり弱っているとは思うけど、油断は大敵! みんな気を引き締めてね」
あゆみはそう言うと、信國と安國を連れて社殿の奥へと入った。魔魅達は観音堂を取り囲むように広がり、辺りの様子をうかがった。
静かな森の中で、くわぁーくわぁーと鳴く鳥の声が響く。
果たして、大魔王の手下達は最後の戦いを、どのような手口で攻めてくるのだろうか。誰にも皆目見当がつかないのであった。




