40話 叶うならみんな幸せであって欲しい
「なんでここに?」
「たまたまかな」
絶対たまたまではない。まあ、どうでもいいか。
環奈は病室に入り、俺の横に座る。
「そうだな、あんまり気を落とすなよ」
「そうだな」
環奈は何故か俺のことを知っている。俺は環奈が誰かはわからない。けど、俺のことを知っているということは中学の頃も知っているんだろう。
「なんで、俺のこと知ってるんだ?」
「今は言えないな、いつか必ず説明するよ」
「ああ、そっか」
俺は、弱そうな声で言う。
「まあ、ヒントを与えるなら拓哉のことは知っているっていうより、相談されたて拓哉のことを知ったって感じかな」
「なんだよそれ」
「まあ、本当にそんな感じさ」
上野雪の友達だと言っているようなもんだ。そっか、雪の友達か。
「なあ、俺ってあの時間違っていたと思うか?」
「わからないな、何が正解で何が不正解か、道徳の授業みたいなもんだ。正解がないんだよ、あれは」
「ふん、そうかもな」
自分の右手を眺める。
この手は、汚れていて、綺麗である。つまりこの手は矛盾している。誰かを助けるために手を差し伸べる右手でもあり。時に人を傷つける右手でもある。
「でも、私は良かったと思うよ。誰かを助けるのは簡単じゃない、でも、人傷つけるのは簡単だ。そう考えると、君のしてきたことは良いことだ。絶対に」
「泣かしに来てるのかよ」
「本当のことだ。今でも君は人を助け続けてる、自分が壊れそうになったとしても。君は優しすぎるんだよ」
真剣な眼差しで言う。
「それに、君は自分を大切にしていない、それは、壊れやすいぞ」
「でも、俺は誰かを助けたいんだ。心の底からみんなに幸せであって欲しい」
「それは、無理だよ。全員が幸せに暮らすことをできない。必ず人を傷つける人が出てくる。どんなに優しくしても人を傷つける人は必ずいる。だから、それは無理だ」
「無理じゃないと思う、誰だって話せば分かり合える。伝わらなければ、伝わるまで話し合えばいい」
「無理だよ、それで伝わるなら、それは理想だ」
「違う、必ず伝わる」
「伝わった先に何がある?その人が優しくなったとしよう、けどその人も傷つく可能性も出てくる。つまり、無限ループだ」
「それでも、俺の周りにいる人は幸せであって欲しい」
「じゃあ、君のことが好きな人はどうなる?」
「それは、違う話だろ」
「違くないよ、振られる人は傷つく、君が人を傷つける側に回るんだ。つまり、人を傷つける人はいなくならない」
「それは、それは...」
「好きという思いを踏みにじるのは、一番傷つくんだよ」
「...」
「だから、全員を幸せにするなど無理だ、人は、些細なことでも傷つくこともある、それを全部解決するのは現実的に無理だ。もし、できるなどと言うならそれは、壮言だ」
「それでも、それでも、俺は人を助け続ける」
「やっぱり、変わっていないな」
環奈は立ち上がり、病室出ようとする。
「あ、雪はあんたのこと好きだったみたいよ」
「そっか」
知っていた。でも、その気持はもう答えることはできない、だって。
上野雪はこの世界中を探しても、どこにもいないから。