48話 琴音と遊ぶ日
退院してから三日が経ち俺はすっかり元気になっていた。
スマホの予定表を確認する。今日は琴音と遊ぶ日になっている。楽しみだな。琴音のピアノを聴くのは久しぶりだな。
俺は、準備をする。準備って言ってもただ、スマホを持つだけだが。
五分ほどの準備をして、俺は玄関に向かう。
「どこか行くの?」
由衣が言う。
「ちょっとな」
「大丈夫なの?」
「寂しいか?」
「きも」
「冗談だよ、行ってくる」
「はーい」
そう言い俺は家を出た。
いつもと変わらない景色が今日はちょっと違く見える。この先、どんなことがあろうとも、必ず助けを求める人は手を差し伸べたい。理想でも、願望でも、壮言でも、いい。
ただ、みんな幸せであって欲しい。それだけだ。
いつも歩くのは速いのに今日はどこか遅く感じた。
歩くこと数十分。
琴音の家に着く。琴音の家は、どの家にも負けないほどでかく、立派な家である。
インターホンを押す。
玄関が開く。
「遅いよ~」
玄関から出てきた琴音は、世界で一番美しい花のようだった。非の打ち所がなく、嫉妬をするレベル。
普通の服に、普通のズボン。それなのに、まるで、高級な服を着ているように見える。
反則でしょ。あまりの可愛さに、口を押える。
「どうしたの?」
首を少し傾ける。
「いや、可愛いなって」
「い、いやああ」
俺の所にハイヒールが飛んでくる。見事に頭に命中する。なんで、こんなに命中率良いんだよ。
「あ、ごめん」
「大丈夫だ!!」
「さあ、入って」
俺を家に手招きする。けど、やっぱり緊張する。
俺は、ゆっくりと琴音の家に入った。
「さあ、ここに座って」
ポンポンと椅子を叩く。その仕草が可愛すぎて、椅子に座るどころじゃなかった。
本当に同じ人間なのか。
俺は琴音の横に座る。
琴音は、俺の左肩に頭をそっと乗せる。
「毎日会いたいよ」
琴音の言葉は俺の心臓をえぐる。
「今は、甘えさしてよ」
「うん」
琴音の手を見ると、努力しているのがわかる。綺麗な手だけど、その手をよく見ると、豆ができている。
「最近、どうなの?」
「まあ、何もないかな」
「ほんと?誰かと遊んでないの?」
「遊んだりはしてるな」
「そうなんだ」
「ちょっと、やきもち焼いてるよ」
口を膨らせて言う琴音。
「私とずっと、遊んで欲しいな」
「いつでも、遊ぶよ」
「じゃあ、今日家に泊まってよ!」
「え?」
「今日だけでいいからさ、今日だけ私を見てよ、今日だけ甘えさしてよ」
「わかった。今日は泊まるよ」
「ありがと、拓哉、好きだよ」
まだ、お昼なのに、深夜のような孤独感が漂う部屋だった。
「私ね、不安あの、ずっとこの関係が続くのかなって。もしかしたら、明日から拓哉が私を見捨てるんじゃないかって」
「そんなこと、絶対にしないよ」
「そうだよね、ねえ、毎日連絡してもいいかな?」
「うん」
まるで、付き合ってすぐみたいな会話をする。
「もうちょっと、こうしてていいかな」
「いいよ」
「ありがと」
琴音は、静かに眠りにつく。相当疲れてるんだな。毎日ピアノで忙しいって言っていたし。部屋を見渡す。普通の部屋なのにどこか、不安を感じさせる。
琴音を見る。美しい姫のように眠っている。触れたらバチが当たりそうな感じがする。
俺は、何もしないで、ただ、時間が過ぎるのを待った。琴音が起きるまで。
「う、うわ」
あれから数時間が経ち、ようやく琴音は起きる。
「もー起こしてよ」
「いや、寝顔が可愛かったから」
「それなら仕方ないか」
仕方ないんかい。
「今、何時なの?」
「えーと、19時」
「ええええええええええ、もう本当に起こしてよ」
「ごめん、ごめん」
琴音のスマホが鳴る。琴音は急いで電話に出る。
どうやら、お母さんから電話だった。
「ごめん、行かなきゃ」
「え?どこに」
「お母さんのとこ、今ここに住んでないの」
「そうか、じゃあ、また今度な」
「うん、じゃあね」
俺は、スマホを持ち、立ち上がる。
「待って」
俺は後ろを向く。
「これ」
琴音は、紙袋を俺に渡す。
「開けていいのか?」
「う、うん」
紙袋の中から、一枚のチケットと小さな袋が入っている。
俺は、小さい袋を開ける。
中にはミサンガが入っている。
「その、お揃いだよ」
右腕を俺に見せてくる。あのー可愛すぎません?
俺は、ミサンガを右手に着ける。
「これで、お揃いだな」
「ちょっと」
手で顔を隠す。
こっちまで、照れてしまう。もしかして、俺って相当キモいことしてないか? いや、絶対にしているな。
俺は恥ずかしさを紛らわすために、チケットを急いで確認する。逃げるように。
海外旅行のチケットに、音楽コンサートのチケットだった。
「私と、海外にいかない?ダメかな?」
「もちろんいいよ、でも、俺でいいのか?」
「うん、だって...」
「だって?」
「好きな人と観たいし」
それだけ、いい琴音は走って部屋を出た。
本当に、反則だろ。
てか、ピアノ聴いてなくね。




