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37話 由衣

ブランコから落ちて俺は空を眺める。もちろん仰向けなまま。

 それで、彼女の言ってることはまだ理解ができていない。結婚して? どういうことですか。

 俺は仰向けなまま言う。

「結婚って?あの結婚?」

「そうだよ」

 俺の顔の横に立ち言う彼女。

 彼女はしゃがみ俺の顔に近づく。

「私が誰かわかる?」

「いやーわかんない」

「そっか~結構かわったからな~。まあ、代表者旅行に来るから、その時に教えてね!」

 太陽にも負けない明るい笑顔で言う彼女。

 俺の返事を待たず彼女は帰って行った。

 いったい、誰なんだよ。後、結婚ってマジ?

 俺はうす暗くなっていく空を眺める。あの顔ってどこかで見たことあるような、ないような。

 俺は、体を起こし。公園を出た。



 家に着くと両親が帰って来ていた。

「おかえりなさい」

 母が優しい声で俺に言う。

「あ、ああ、ただいま。帰って来たんだ」

「うん、それでね、ちょっと話があるの、座ってくれる?」

 父と母が深刻そうな顔をしている。

 由衣も俺の横に座る。

 俺の横に由衣。目の前に母と父が座る。

 父が口を開く。

「そのだな、俺たちは海外に住むことになった」

 は?それは、どういうことだよ。海外に住む?俺たちはどうなるんだよ。それに由衣だって。

「それは、どれくらい?」

「ざっと、1年」

 1年?それは、ちょっと長すぎないか?

「そうなんだ」

「すまない」

 深く頭を下げる親をみて怒りが沸く、この怒りは多分理不尽な怒りだと。わかっているのに、俺は言ってしまう。

「何がすまないんだ?」

「...」

 俺の発言に沈黙になる。

「家族みんなで最後にご飯食べたのいつか知ってるか?由衣の誕生日や俺の誕生日はわかるか?由衣がどんな気持ちでいるのかわかるのか?」

 止まってくれ。親は何も悪くない。悪くない。

「それは...」

 ほら、わからない。俺の誕生日や由衣の誕生日や、家族みんなで最後にご飯食べた日すらわからない。

「わからないだろ?俺たちがどんな気持ちで親を待っているか。今日会えたのが嬉しかったのに、それなのに、今度は1年間会えない?ふざけるなよ」

「おい」

 父が怒鳴る。

「もういいよ、1年後な」

 俺は自分の部屋に戻る。

 俺は間違ったことを言ってるか? いや、言っていない。


 眠たい目を擦りながら1階に降りる。

 親はもう仕事に行っていた。今度会えるのは一年後になる。

 由衣は荷物の準備をしていた。

「その荷物どうしたんだ?」

「昨日のお兄ちゃんありえないよ。今のお兄ちゃんとは居たくない、だから違うとこに住む。親に準備してもらったから」

「え?いや、なんでだよ」

「夏休みの間だけだから。じゃあ」

「お、おい」

 由衣は俺を無視して家を出た。

 俺が何をしたんだよ。だって、悪いのは親だろ。俺たちを置いて帰って来たと思ったら、今度会えるのは一年後って。あまりにも無責任だろ。

 でも、昨日の発言は言いすぎたな。俺はスマホを取り出して、親に電話を掛ける。

「どうしたの?」

 優しい声で母が言う。

「その、昨日はごめん」

「あら、いいのよ。私たちも悪いと思ってるの、だからあんまり自分を責めないで」

「ありがとう」

 泣きそうになる。

「私たちも仕事早く終わらしてすぐに帰ってくるから」

「うん。本当にごめん」

「大丈夫だよ」

 やっぱり、親は味方だなと思った。俺は、そんな親になんで、あんな酷いことを言ったんだろう。最低だな。

「その、由衣に家の準備とか大丈夫だったの?」

「何それ?」

 え?

「いや、由衣が親に家を準備してもらったって」

「いえ、そんなことしてないわ」

「待って、後で電話を掛けるから」

 俺は電話を切って家を出た。パジャマのままで。

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